東京学芸大学附属小金井小学校は児童生徒のICTリテラシーを促進するオンライン教材として6年生に「エンサップ」を導入した。導入の背景や使用した感想について、担当した小池翔太教諭と6年生の高橋悠さんに話を伺った。
■動画で情報モラルや端末の基礎知識を学ぶ
「エンサップ」は動画を見ることで、情報モラルや情報活用能力、端末の基礎知識を学び、動画後に出されるクイズで復習を行う。最終試験に合格すると「スクールエンジニア検定」合格として、合格証の発行も行っている。
【東京学芸大学附属小金井小学校 6年 高橋悠さん】
高橋さんはエンサップを受講し1時間でスクールエンジニア検定合格まで到達した。
Q.実際にエンサップを使ってみて、いかがでしたか?
動画の中には知っていることと知らない事がありました。知っていることに関しては自分の中で復習になりましたし、知らなかったことについてもとても分かりやすく勉強することができました。
Q.もともと、ITについて興味はありましたか?
タイピング練習などは自分でやったことがあり、その点は興味がありました。プログラミングは休校中に自分で勉強してみましたが、私にはプログラミングよりも、今回のエンサップのような知識を身に付ける勉強の方があっていると感じました。
Q.将来はどのような仕事に就きたいですか?
自分の能力が活かせる仕事に就きたいです。また、今は水泳を習っているので水泳選手などもいいなと考えています。あとは、職場の人間関係が良いところを選びたいです。今の水泳スクールでもそうですが、言うときはしっかりと言って指摘してくれる関係性が築ける環境だといいなと思います。
Q.今後、ITに関してどのような勉強がしたいですか?
サイバー攻撃などについて知りたいです。ロシアとウクライナのニュースでもよく聞いていて、何でサイバー攻撃が起きていて、何で100%防げないのだろうといつも思います。そういう仕組みなどについて知りたいです。
Q.エンサップを使った前と後では変化がありましたか?
エンサップを使う前は「何となく知っていたこと」でしたが、動画を見た後は何となくの部分が明確になりました。なぜそうなっているのか、という理由が知れたのは嬉しかったです。
Q.エンサップを友達に勧めたいですか?
是非たくさんの人にやってほしいです。特にITや機械が苦手な子にやってほしいと思いました。楽しく学べるし、最後の復習問題もクイズ形式なので楽しく回答できました。より楽しむために、ひっかけ問題などがあると間違えた所を友達と相談しながら進められるので、もっと意地悪な問題があっても楽しいと思います。
【東京学芸大学附属小金井小学校 小池翔太教諭】
情報主任の小池教諭は、書籍『ICT主任になったら読む本 実務がうまくいく心構え&仕事術35』(明治図書出版)の中でも、学習者の危機管理能力を育む方法の一環としてエンサップを紹介している。
Q.今回、エンサップの導入のきっかけを教えてください。
エンサップを共同開発された、静岡大学の塩田准教授と元々面識がありました。現在も交流があります。そのつながりがあり、エンサップを塩田先生に紹介いただいたのがきっかけです。
Q.エンサップの印象をお聞かせください。
小学校には「情報」という教科がないので、いかに時間を確保して楽しく学べる機会を作るのかが大切と考えています。その点ではエンサップは動画とクイズという、子供たちの興味関心を引くような内容なのでとても良いと感じました。また、自分たちで調べて解決する能力はとても大切です。「何でも知っている大人に聞けばいい」では自立した子供の成長にはつながりません。自分の端末で好きな時に学べるオンライン教材はとても重要だと思います。エンサップは検定合格だけではなく、ICTに詳しくなって誰かを助ける、というのが最終目標になっています。そこも子供の成長にとってはとても大切なので、それが体感できるのは素晴らしいと感じました。
Q.エンサップの導入で、児童たちに何か変化はありましたか?
SE検定で合格した児童はみんなの前で表彰を行いました。高橋さんは今回の表彰で友達に「凄い!」と認められることで自分に自信がついたのではないでしょうか。実はもう1人、高橋さんのあとに検定に合格した子がいるのですが、その子はどんどん自分で勉強を進めていて、今はUnityやPythonを使いだしています。
Q.GIGAスクール構想による教育現場への課題はありますか?
先ほども申し上げましたが、小学校には「情報」という授業がありません。そのため多くの学校では「子供だから」「学校のものだから」という理由で教員が一括管理しているところが多いです。これでは、本来のGIGAスクール構想の目的に沿っていないと感じることがあります。確かにリスクはありませんが、ICTの発展もありません。子供たちがいかに主体的に学ぶかを大事にする必要があると感じます。そのためには多少失敗しても、様々な経験をさせることが時には重要だと考えています。授業の中でも、先生が「タブレット出して」と言わない限り使えない場合も多くあり、時には1日タブレットに触らなかったということもざらにあります。これではICT活用どころではありません。今後は、デジタルとの向き合い方が重要です。授業はもちろん、休み時間でも児童が自由にタブレットを使える環境を、教員がファシリテートしていくべきだと考えています。
Q.GIGAスクール構想による、教育現場への期待はありますか?
授業で導入することはもちろんですが、今は授業外でどのように活用するかを重視しています。実際に本校で行っている事例として『係活動』はICTを用いて行っています。例えば、新聞係では新聞をPowerPointなどで作成し、Teamsの新聞係チャネルに公開しています。他にはMicrosoft Formsでアンケートを実施したり、デジタルまたはアナログで描いたイラストを画像として貼り付けて公開したりと、各係が思い思いに活動しています。特に必須活動日などは決めていないので、ここでも児童が主体的に動くことができています。投稿も、普段声の大きな児童だけではなく、少し大人しいような子でも積極的に活動していますし、そこに対して学級全体でリアクションを行えるのも良い点だと思います。
Q.今回のICT主任のための書籍を書くに至った経緯を教えてください。
今回出版した明治図書出版では、教育現場の業務を進める上での役職者に視点を置いた書籍をシリーズ化して出版されており、GIGAスクール構想が始まるくらいの時期に「ICT主任について書いてほしい」という企画の話がありました。それが昨年実際に書籍化されることとなり、今回執筆した経緯となります。現状ICT主任や支援員になった先生にはかなりの負担がかかっており「困ったらICTの先生に聞けばいい」という風潮も少なからずあります。そのような先生方の負担を少しでも軽減できればという想いで書籍の内容を考えました。