明治大学総合数理学部先端メディアサイエンス学科の宮下芳明研究室とキリンホールディングスは、減塩食品の味わいを増強させる電気刺激波形と箸型デバイスを開発。さらに、減塩の食生活を送る人を対象にした臨床試験で、両者が共同開発した箸型デバイスを用いることで、減塩食を食べたときに感じる塩味が1.5倍程度に増強されることを確認した。
■塩分の取り過ぎが日本人の課題に
日本人の1日当たりの食塩摂取量は成人男性で10.9g、成人女性で9.3gと、WHOが掲げる食塩摂取基準と比較しても非常に多いことが分かっている。塩分のとり過ぎは、高血圧・慢性腎臓病をはじめとした生活習慣病の発症や重症化を招きやすく「健康」に関する大きな社会課題となっている。
■理想的な減塩食でも「味が薄い」と感じないために
厚生労働省が生活習慣病予防のために設定した目標量を達成するためには、今の食塩摂取量を20%以上低減させる必要がある。さらに、生活習慣病の重症化を予防するには1日6.0g未満の食塩摂取量が望ましいが、塩分を控えた食事(減塩食)に対して「味が薄い」と感じる人も少なくなく、減塩食を続ける上での阻害要因となっていた。
■微弱な電気で味の感じ方を変化させる「電気味覚」の研究を実施
宮下研究室とキリンは2019年から、人体に影響しないごく微弱な電気を用いて、塩味の基となる塩化ナトリウムやうま味の基となるグルタミン酸ナトリウムなどが持つイオンの働きを調整。これにより疑似的に食品の味を濃くしたり薄くしたりすることで味の感じ方を変化させる「電気味覚」の研究を共同で行ってきた。
■新技術を搭載した箸型デバイスで塩味が1,5倍程度に増強
今回、微弱な電流で塩味をコントロールし、減塩食の味わいを増強させる電気刺激波形を開発。さらに、この技術を搭載した箸型デバイスを作成した。実際に減塩の食生活を行っている人を対象に臨床試験を実施した結果、減塩食を食べた際に感じる塩味が1.5倍程度に増強される効果を確認した。
■食器に今回の技術を用いることで減塩食の満足度が高められる
今回の共同研究では、電気刺激を用いて塩味を増強する効果を、箸、スプーン、茶わんなどの日常的に用いる食器に活用することで、薄味の減塩食に対する味の満足度を高められる可能性を見いだした。
■インタラクション2022で研究成果を発表
なお、宮下研究室とキリンは、今回の共同研究成果を「減塩生活者を対象とした電気味覚による塩味増強効果の調査」として、インタラクション2022(第26回 一般社団法人情報処理学会シンポジウム)で3月2日(水)に発表した。
<研究概要>
【研究方法】
40歳~65歳で現在減塩をしている、または過去にしていた経験のある男女36人を対象に、微弱な電気刺激が付与される箸型デバイスを用いて、一般食品を模したサンプルと減塩食を模したサンプルを試食。その後、感じた塩味強度について評価する試験を実施。また、同じデバイスを用いて減塩味噌汁の塩味強度や風味の変化についても評価した。
【研究結果】
減塩食を模したサンプルを試食するときに、開発した電気刺激波形を箸型デバイスに付与することで、電気刺激を付与しない条件と比較して塩味が1.5倍程度増強される結果が得られた。また、電気刺激を付与したときの減塩食を模したサンプルの塩味強度は、一般食品を模したサンプルと同等であることを確認した。これにより、食塩を30%低減した食品を摂取する際に、本技術を搭載したデバイスを用いると、通常の食事と同等の塩味を提供できることが示唆された。また、減塩味噌汁を用いた実験においても、塩味の増強効果が確認され、コクやうま味、全体のおいしさの向上を感じたという意見が得られた。