2022年度から高等学校で必修となる「探究型学習」は自らテーマを設定し、それを掘り下げて発信するところまで行うのが大きな特徴とされる。「アクティブラーニング」の発展系とも言われる「探究型学習」だが、その違いはどこにあるのか、立命館大学生命科学部で英語教育とICTの活用を専門とする木村修平准教授が解説した。
■「生きる力」を「深い学び」につなげることをアクティブラーニングでは重視
「アクティブラーニングも探究型学習の学習指導要領への組み込みも、『生きる力』をどのように身につけさせるのかという文脈の中に位置づけられる」と木村准教授は語る。文部科学省がアクティブラーニングで重視しているのが、『生きる力』を『深い学び』につなげるということであり、『深い学び』とは、アクティブラーニングがフルに活かせる教育の仕組みを指すという。
■探究型学習は「自分で問題を見つけ、それを解決にまでつなげる」
そこで「アクティブラーニング」と「探究型学習」の違いだが、「アクティブラーニングが能動的に学ぶ力を養うものだとするなら、探究型学習は、『自分で問題を見つけ、それを解決にまでつなげていける発想や能力を育成していくもの』と定義できる」とする。そのため探究型学習を通じて、経験したことのない事態が起こっても、自分には何ができるのかを論理的、科学的に考え、実践できる人材を育てる必要があると木村准教授は語る。
■プロジェクト発信型英語プログラム(PEP)で学習モチベーションを高める
立命館大学では10年以上前から、プロジェクト発信型英語プログラム(PEP)という取組を行っている。探究型学習の先行型ともいえるPEPは、学生たちの学習モチベーションが極めて高く、コロナ禍でも満足度の低下がほとんどない優れたプログラムになっている。
■PEPのテーマは自由
「公序良俗に反しない限り、PEPではテーマは自由。たとえば滋賀県の名産である『鮒ずし』が好きだったら、鮒ずしでもかまいません。『私は鮒ずしが大好きだが、県外の人には敬遠されることがある。それはなぜだろう?鮒ずしを好きになってもらうにはどういうレシピがあり得るのだろう?』というプロジェクト」となる。これは架空の話ではなく実際に学生が取り組み、発表動画やペーパーは本人の許諾を得てPEPのサイトに掲載されている。
■学習者中心の授業で教員はプロジェクトのアドバイザーに
学習者を主体に据えるというのは、具体的にはこういうことだとする木村准教授。教員は彼・彼女らのプロジェクトのアドバイザーとなる。「よく学習者中心の授業といいますが、題材やトピックを先生が設定することが多いのではないでしょうか。高校では学習指導要領の制限もあるのである程度は仕方がないのですが、大学ではかなり学生に任せられます」。
■探究型学習で養ってほしい4つの技能
木村准教授は、探究型学習であるPEPを続ける中で、養ってほしい4つの新しい技能があると指摘する。「①情報を調べ精査する『リサーチ』、②それをポスターやペーパー、動画などにまとめる『オーサリング』、③他人と交流や意見交換、相互評価をする『コラボレーション』、④その成果を発表する『アウトプット』です」。この新しい4技能はサイエンティストの基本リテラシーとも言えるもので、『生きる力』ひいては『これからの世界で求められる力』の基盤的スキルであると言えるかもしれないとする。
■PCの操作に弱い日本の学生に驚き
探究型学習の浸透や4技能の習得には、ICTの活用が欠かせないと木村准教授は指摘する。アメリカの大学で学んだ木村准教授が日本の大学で教えることになって一番ショックを受けたのが、学生がスマートフォンばかり使っている一方でPCの操作に驚くほど弱いという現実だったという。
■スマートフォンではタスクの処理が追い付かなくなる
保護者を対象にした講演会などでも「『スマートフォンも結構ですがぜひPCの利用を推奨してほしい』と訴えています。私たち大人の仕事の仕方を考えてみてください。スマートフォンとPC、いわゆる生産的な仕事のメイン端末はどちらでしょうか? 大学の授業も同様に、探究のレベルが高度になればなるほど、スマートフォンではタスクの処理が追いつかなくなるのです」とPCのスキルを求めている。
■重要なのは教える側の意識改革
「むしろ今、根本的な改革が求められているのは、私たちを含む教員の教え方、研究の方法、つまり教える側の働き方や仕事の進め方なのではないかと感じています」と語る木村准教授。探究型学習の試みは、単なる学習フレームの導入ではない。子供たちの未来を作るうえで、重要なスキル教育を担っているという意識が、私たちにも必要になってくるとする。