BYODを導入する高等学校は全体の4割弱にのぼることが旺文社の実施した、全国の高等学校におけるICT活用実態調査の結果から明らかになった。一方、スマートフォンなどの私物端末を授業で利用することに関しては充電・破損など懸念の声もあがっている。
■全国805校からのアンケート調査の結果を分析
旺文社は今年で6回目となる、高等学校におけるICT機器・サービスの導入状況および活用の実態についてアンケート調査を実施。全国805校の高等学校からのアンケート回答結果を分析した。
■生徒用のPC端末は約7割が使用
全国の高等学校で導入・使用されているICT機器についての調査では「生徒用のPC端末(タブレット型)」(69.8%)が昨年調査からさらに増えており、トップの「大型提示装置(電子黒板・プロジェクター等)」(86.5%)に迫る勢いとなっている。
■モバイルICT端末の導入率は85.8%
同じモバイル型端末である「生徒用の PC 端末(ノート型)」(38.8%)の割合も昨年から増え、「タブレット型」と「ノート型」を合わせた、モバイルICT端末の導入率(両者回答の重複を除く)は 85.8%に上っている。
■無線ネットワークを利用できる学校が増加
高等学校におけるネットワーク環境の整備状況についての調査では、「校内のどこでも無線でのネットワークを使用できる」(37.5%)と「校内の通常教室で無線でのネットワークを使用できる」(39.1%)の割合がさらに増えている。校内のエリアを限定せず、モバイル ICT 端末を日常的に授業利用できる環境の整備が急速に進んでいる。
■BYODの取組は昨年よりも広がる
高等学校において生徒の私物端末を教育利用する「BYOD」の取組は、昨年調査時からさらに広がっている。ICT機器の導入・使用状況に関する調査では「生徒の私物端末(スマートフォン・PC 等)」(38.5%)の回答率がさらに伸び、「生徒用のPC 端末(ノート型)」と同等の割合となっている。
■スマートフォンを学校で使用できる割合は約半数
一方、校内における生徒の私物端末(スマートフォン等)の使用制限状況について調べたところ、「校内で自由に使用できる」(17.0%)、「学習などの目的であれば校内で自由に使用できる」(28.6%)の回答割合は昨年から微増したものの、全体的な使用制限に係る方針に大きな傾向変化は見られなかった。
<生徒の私物端末利用についての課題(自由記述)>
・「授業で本格的に利用するには様々な機種への充電対応が必要」(公立/工業科)
・「校内での端末故障・破損などへの対応に苦慮している」(公立/地理歴史科)
・「私用と同じ使い方(動画視聴・ゲームなど)をしないよう注意する必要性を感じる」
(私立/英語科)
・「端末利用推進の中で変化する生徒たちの水面下の関係性を学校側が把握しなくては
いけない」(公立/情報科)
■モバイルICT端末を1人1台配備された学校が半数を超える
生徒用モバイルICT端末の導入校に対して配備状況の内訳を調べたところ「生徒1人1台配備」と答えた高等学校の割合は 50.1%となり、本調査を開始した2017年度以来、初めて半数を超えた。
■高等学校でも着実に進む1人1台端末
今後、「生徒 1 人 1 台配備」の端末の導入予定があるとする高等学校は82.0%。文部科学省が掲げるGIGAスクール構想においてハード面の土台となる端末配備は、高等学校でも着実に進んでいる状況にある。
■学校により異なる教務支援サービスの状況
教員が利用する ICT 端末および教務支援サービスについての調査では「1人1台専用端末を利用できる」という回答の合計が全体の8割を超える。さらに、「個人の判断でどのようなサービスでも利用できる」(19.7%)の回答割合を学校種別ごとに分けてみると、国公立高等学校が12.2%、私立高等学校が 32.8%となっており、サービスの運用に至る意思決定のプロセスは学校により異なる。
<教員用端末およびサービス運用についての課題(自由記述)>
・「教員の私物端末や善意に頼っている部分が大きい」(公立/数学科)
・「生徒の端末と同じ OS の端末が教員に配布される予定がなく、指導する側として
困っている」(公立/商業科)
・「校内ネットワークのアクセス制限が厳しく、思うように外部提供サービスを利用
できない」(公立/教務部)
■ICTで校務負担の軽減やペーパーレス化を望む
ICT の必要性を感じるポイントについての調査では、「校務負担の軽減」(82.0%)、「教材のペーパーレス化」(70.7%)の回答割合が昨年から大幅に増えた。2020 年次の休校措置により需要が生じた「リモートでの課題配信」(64.0%)、「オンライン遠隔授業」(54.2%)などの項目は依然として回答割合が高いものの、登校・通常授業のペースが戻った2021 年次は、生徒への対面指導における教務面での効率改善や教員の負担軽減に注目が集まった。
■導入した生徒用モバイルを7割が活用できている
実際に生徒用モバイルICT端末を導入した学校では「十分に活用できている」「まあまあ活用できている」の合計が端末導入校全体の7割を超え、学校側がICT運用に対して一定の手応えを感じていることがわかる。
■「教員の活用スキルの引き上げ」が最大の課題に
ICT活用へのさらなる期待や課題意識は「十分活用できている」(10.2%)の割合が昨年調査時から減少し、「まあまあ活用できている」(60.2%)の割合が増えている。活用における課題についての調査では「教員の活用スキルの引き上げ」(85.7%)が最多となり、高等学校内でICT運用が必要となるシーンの増加や、それに伴って求められる知見や技術、サポート体制についての問題が顕在化している。また、課題として挙げられる点については、「生徒の情報モラルの向上」(67.8%)の回答割合が昨年から10ポイント以上増加した。
<GIGA スクール構想下において ICT 活用に寄せる期待と課題(自由記述)>
・「校務の負担軽減が期待できる一方、スキルの修得が課題」(公立/国語科)
・「ICT 機器を使用すること自体が目的となったり、適切な教材を見出すために
多大な時間を費やすことになったりすることを心配している」(公立/数学科)
・「生徒の選択肢が広がり自学自習できる環境が整う一方、生徒のやる気をどのように
引き出していくかが課題」(公立/理科)
・「情報収集は簡単になったが、情報の正確さを確かめる術や集めた情報から深く
考察するには、どのような指導法が良いのか考える必要がある」(公立/英語科)
・「情報モラルやセキュリティ、端末管理など学校にかかる負担が想像以上に大きい」
(公立/情報科)
・「業務軽減やペーパーレス化に期待する一方、チャット機能やメールなどが新たな
いじめの場になることを懸念」(公立/工業科)
【調査概要】
調査テーマ:全国の高等学校におけるICT活用状況についての調査
調査目的:高等学校現場におけるICT機器の導入ならびにICT関連サービスの
活用状況の実態を調べ、導入拡大・継続運用のための課題や、今後必要とされる
サービス内容を把握する
調査対象:旺文社独自リストに基づく全国の国公私立高等学校 計5,062校
※中等教育学校を含む/高等専門学校・高等専修学校を除く
調査方法:対象校に対してアンケートDMを送付し、FAXおよびWebページにて回答を
受け付け
調査規模:全805校からのアンケート回答結果を分析
調査時期:2021年12月上旬~2022年1月上旬
調査発表日:2022年2月25日