立命館大学はオンライン上から相手のメンタルの状態を読み取る計測技術「心の距離メーター」の研究を進めている。その研究概要が2月25日(木)に発表された。この研究により心の状態を可視化することでオンライン授業の質を高めるなど、様々な場面での活用が期待される。
■オンライン化により得られるメリットとは
コロナ禍によりオンラインの授業が定着したが、同大学・スポーツ健康科学部で産業・組織心理学を研究する山浦一保教授は、オンライン化のメリットとして以下の3点をあげる。①いつでもどこでも人とつながることができる、②オンラインでつながることで社会的孤立が軽減される、③ストレスが軽減されたことで心身の健康が向上する。
■メリットの陰に潜む課題
一方、オンライン化による課題としては、次のようなデメリットが考えられる。①仕事と家庭、学校とプライベートの境界が曖昧になる、②教員は本当に自分を見ているのかなど疑問が生まれる、③テレワークが多くなることで健康被害のリスクが予想される、④個人や組織の成長・活動レベルがオンラインにより停滞する。
■オンラインでも心地よい人間関係を築くために「心の距離メーター」を推奨
オンラインと対面のどちらが優れているか、まだ答えは出ていないが、両者のメリットを活かすことで成長が期待できると山浦教授は語る。そのカギとなるのが人と人の信頼関係となるが、デジタル社会の中でも心地よい人間関係を整えるために「心の距離メーター」のプロジェクトを推奨する。
■数多くの生体データを集めて心のモデル化をすすめる
同大学・理工学部で生体工学を研究する岡田志麻准教授によると、「心の距離メーター」は相手との心の状態を測るシステムだとする。心の距離は心拍数や表情など様々な生体データや言葉などのデータから測定する。そうしたデータを数多く集めることで、心のモデル化を進めていく。その際にAIだけに頼るのではなく、人による判断もモデルの中に組み込んでいく。
■ストレスを感じた時の整理信号、自律神経、行動を計測
心の中を見るために高度な技術が必要かと思われるが、今回の研究は生体データや音声データなどを集めた上で、心理的な意味をつけて心のモデルを作り上げるので、人の反応に注目したものとなる。例えば人を叱った場合、それに対してストレスを感じた相手の頭皮から整理信号を計測すると同時に、心拍や呼吸など自律神経の数値を測っていく。また、頭を下げるなどの行動も計測することで心の見える化を行う。
■集めたデータに心理的意味付けを行う
単にデータの数値を集めるだけでなく、その人がどういう状態にあった時、どのような反応を示したかが重要となる。そうした反応が表れた時、心理的意味付けを行っていくことがセットとなる。
■顔色の変化の計測やスマートウェアなどを使って計測
計測手法の一つに、顔面の毛細血管の収縮度がある。例えば、学生に質問をすると、緊張して顔の血管が収縮して顔色が変わっていく。その顔色の変化をとらえて、心理状態を測定する。また、着用するだけで心電図や発汗、体温などが計測できるスマートウェアを使って心の状態を可視化したり、LINEの書き込みをテキスト解析して人間関係を推測するなど、様々な手法を用いてデータを集めていく。
■心の距離メーターを基盤とした研究が科学技術振興機構の事業に採択
心の距離メーターの技術を基盤として「ウルトラダイバーシティを目指す調査研究」が、科学技術振興機構の「ムーンショット型研究開発事業」の「新たな目標検討のためのビジョン策定(ミレニア・プログラム)」に採択された。Web環境における人の反応や場の空気感・雰囲気といった情報を可視化し、サイバー空間における円滑なコミュニケーションの支援について必要な技術、環境の調査研究を実施する。
■附属の小学・中学・高校生も研究者の一員としてプロジェクトに参加
「ウルトラダイバーシティを目指す調査研究」では、2050年の実現に向けて、立命館大学では附属校に限らず、海外の交流校にも協力を呼び掛けていく。附属の小学・中学・高等学校の生徒は研究者の一員としてプロジェクトに参加予定。実際の研究推進を担う立場として研究を進めていく。