漢字を手書きする力の習得が高度な言語能力の発達に影響を与えることが、京都大学の研究プロジェクト「ライフサイクルと漢字神経ネットワークの学際研究」により明らかになった。また、漢字能力の3つの側面(読字、書字、意味理解)の習得には、部分的に異なる複数の認知能力が関わっていることも発見された。
■漢字の書字能力が高い人ほど文章作成能力が高くなる
今回の研究では、漢字を手描きする力である「書字習得」が、高度な言語能力の発達と関連し、漢字書字能力が高い人ほど、結果的に文章作成能力が高くなることが発見された。この研究成果は、小学校から高等学校までの間の書字習得が、その後の高度な言語能力の発達にとって重要な影響を与えることを示している。
■子供の認知特性を考慮して漢字を指導することが大事
また、漢字能力の3つの側面の習得には、部分的に異なる複数の認知能力が関わっていることも発見された。日本に 6~7%いるとされる漢字習得に困難を抱える子供たちに同じ指導方法で教えることは効果的とは言えず、習得が難しい漢字能力の側面とその要因を考慮する必要がある。
■学童期の書字習得が老年期の認知能力維持に役立つ
本研究では、文章作成能力の指標として「意味密度」を採用。これはアメリカの研究で「意味密度」の得点が高かった人は老年期における「認知予備能」が高く、アルツハイマー病が進行した場合でも、晩年まで健全な認知能力を維持していたとの報告に基づく。そうした知見を考慮に入れて、学童期の読字・書字習得から老年期の認知能力維持に至る生涯軌道に関する理論的フレームワーク(下図)を提唱する。
■漢検の受検データベースを分析し漢字能力の3つの側面を発見
今回の研究成果は、日本漢字能力検定協会が協力する、京都大学大学院医学研究科の大塚貞男特定助教、村井俊哉教授の研究グループにより報告された。2021年1月26日に研究論文が国際学術誌「Scientific Reports」にオンラインで掲載され、1 月 27 日に同大からプレスリリースされた。本研究は日本漢字能力検定の受検データベースを分析し、漢字能力が3つの側面から成ることを明らかにし、その発見に基づいて行われた。
京都大学「-漢字の手書き習得が高度な言語能力の発達に影響を与えることを発見 -読み書き習得の生涯軌道に関するフレームワークの提唱-」