全国の小中学校や教育行政で働く教員から教育実践論文を募集する「第36回 東書教育賞」(共催=東京書籍・中央教育研究所)。2020年度は「未来を担う子どもと共に歩む確かな教育実践」のテーマに対し、全国から142編の応募が集まった。審査の結果、小学校部門は最優秀賞1編・特別優秀賞1編・優秀賞2編・奨励賞4編が、中学校部門は最優秀賞1編・優秀賞2編・特別賞1編・奨励賞3編が選ばれた。
■ICTを活用した論文の応募が増加
東書教育賞は、教育現場の地道な実践活動に光を当て、優れた指導法を広く教育現場に広めることを目的に、1984年の東京書籍創立75周年を記念して設立された。今回の応募論文の特徴として、ICTを活用した論文の応募数が大きく増加した。特に、2020年度から小学校で必修化されたプログラミング教育の活性化や、コロナ禍という状況の中でICTを有効に活用しようとする動きが見られた。
■贈呈式は受賞者に映像を送る形で実施
受賞論文は小中学校別に論文集としてまとめられ、後日全国の学校・教育機関などに配付される。なお新型コロナウイルス感染拡大の状況に鑑み、贈呈式は審査員の講評をまとめた映像を2021年2月、受賞者に送付する形で実施する。
<最優秀賞・特別優秀賞 概要>
【小学校部門 最優秀賞】
沖縄県南城市立大里北小学校 儀間奏子教諭(道徳・国語)
「コロナ禍を乗り越える 平和学習の創造を目指して」
令和2年度は、新型コロナウイルス感染症の拡大にともない、学校教育の現場でもさまざまな困難に直面した。本論文は、そのような状況の中、新しい平和教育を構想、実践したものとなっている。
本実践は、「コロナ禍」の影響で、講師を招いての沖縄戦慰霊の「平和学習」が困難になった状況で、ビデオ視聴などの受け身の学習で終わらない、新たな平和学習を創造しようと、紙芝居を使った学習を構想した。
紙芝居はコロナ禍で登校できずにいる小学生を主人公に設定。現地在住の語り部である「きくさん」が主人公の絵本『きくさんの沖縄戦』を読み進める物語となっている。紙芝居を見ることを通じて、コロナ禍の「今」と沖縄戦時の子供たちの生活を比較し、ともすれば「遠い過去の出来事」と感じられる沖縄戦をコロナ禍の「今」へと実感を持って繋ぐ活動になっている。
実践者は、さらに、授業で学んだことを新聞に投稿する活動や紙芝居の続編を創作する活動、また、豪雨災害地である熊本県球磨村の小学校との交流などに広げ、児童にいろいろな物事を「自分事」として考える力を身につけさせていった。「コロナ禍だからしかたない」という発想を「コロナ禍だからこそできることは何か」というアクションに転換した、臨機応変で柔軟な授業実践となっている。
【小学校部門 特別優秀賞】
千葉県君津市立八重原小学校 山村由美子校長(学校経営・総合的な学習)
「やればできる!~Zoomの活用でピンチをチャンスに~」
本実践は、コロナ禍の影響を受け、教育活動に制限がかかる中、Web会議ソフトであるZoomを有効に活用し、学校行事やその他の教育活動に、全学校職員が一丸となって取り組んだものである。
全家庭にPC端末やインターネット環境が整っているわけではないという前提があり、休校期間の授業の代替は、学習用プリントの配布など紙ベースで対応したが「子供たちと先生たち、また子供たち同士のつながりを取り戻す」ため、Web会議ソフトであるZoomの活用を探った。
公平性の観点から、学習進度に関係するものを除外し、まずは可能な者だけが参加する「Zoomでラジオ体操」の実践から始め、分散登校時には「分散」のために会えない子供たちをつなぐ形でもZoom体操を取り入れた。
Zoomを使った交流がスムーズに進行する中、さらに海外の日本人学校との交流「つながろう世界と」(6年生・総合)、車椅子シンガーによる福祉授業(5年生・総合)、異学年間のZoomリポーター学習交流などに活用実践を広げていった。まさに八重原小学校の学校目標である「夢・チャレンジ・やればできる」を体現化した実践となっている。
【中学校部門 最優秀賞】
静岡県浜松市立細江中学校 山田達夫校長(総合的な学習)
「探究的な学びを通して、次代を創る子供たちの資質・能力の育成」
本実践論文は、生徒が「地域」のよさや願い、課題に気付き、自分の事として主体的にそれに関わることを通じて、自己肯定感を向上させ、「地域」への愛着と誇りをもち、自分たちが「未来を創る担い手である」ことの自覚を促す「キャリア教育」の報告である。
「総合的な学習」の実践において、身に付けたい5つの力(気付く力、考える力、つながる力、伝える力、将来をえがく力)を明確にし、「課題設定」「情報収集」「整理・分析」「まとめ・表現」という探究サイクルによって体系的に学ぶプログラムとなっている。
「課題設定」段階では地元企業や大学からSDGsの視点を学び、地元自治体や商店から地域の現状や課題を学んだ。また、「情報収集」では地域でのフィールドワークやインタビューを実施し、「整理・分析」では、「思考ツール」等を活用し、考えを深めていった。そして、「まとめ・表現」段階では地域課題の探究成果を地域へ発信する会「ホソフェス」(HOSOE Festival)を開催した。
探究的な学びを重視しつつ、地元の行政、企業、大学、商店などと連携、協働し、地域への愛着をもつ人材を育てる実践となっている。
<入賞者一覧>
【小学校部門】
最優秀賞:コロナ禍を乗り越える 平和学習の創造を目指して
沖縄県南城市立大里北小学校 儀間奏子教諭
特別優秀賞:やればできる!~Zoomの活用でピンチをチャンスに~
千葉県君津市立八重原小学校 山村由美子校長
優秀賞:1人1台端末を活用した授業改善による学力向上のエビデンス
千葉県柏市立手賀東小学校 佐和伸明校長
優秀賞:「訊く力」を重層的に育む-実の場で生きる対話能力を目指して-
神戸大学附属小学校 友永達也教諭
奨励賞:地域の一員として主体的に防犯活動に取り組む子どもの育成
愛知県安城市立桜井中学校 石川和幸教諭
奨励賞:愛鳥を学校の伝統から学区の文化へ~生平小学校3年間の取組~
愛知県岡崎市立生平小学校 伊奈良晃教諭
奨励賞:しなやかに未来を生き抜くための力を育む音楽づくりの指導の工夫
茨城県つくば市立春日学園義務教育学校 菊池康子教諭
奨励賞:1人1台端末による主体性の育成と深い学びに繋がる授業での活用
静岡市立横内小学校 吉田康祐
【中学校部門】
最優秀賞:探究的な学びを通して、次代を創る子供たちの資質・能力の育成
静岡県浜松市立細江中学校 山田達夫校長
優秀賞:科学的に探究し、学ぶ意味や価値を実感できる理科教育の創造
香川大学教育学部附属坂出中学校 鷲辺章宏主幹教諭
優秀賞:小中系統立てたプログラミング教育のモデルカリキュラムの開発
神奈川県相模原市教育センター 渡邊茂一指導主事
特別賞:アウトプットを通じて資質・能力を育成する反転授業の実践
滋賀県守山市立明富中学校 中西一雄教諭
奨励賞:地域を活かした言語活動~新学習指導要領と小中連携を踏まえて~
東京都世田谷区立緑丘中学校 黄俐嘉教諭
奨励賞:「見方・考え方」を活用した特別支援学級の理科授業実践と評価
北海道釧路市立幣舞中学校 高橋弾教諭
奨励賞:SDGsを通して社会を、そして自分自身を見つめる子どもの育成
京都市立大淀中学校 八日市律子教諭