日本データベース学会(DBSJ)は、DBSJ学生企画第1弾として、「withコロナを喜連川教授に聞く!」と題したセッションを8月25日(火)に開催。東京大学生産技術研究所の喜連川優教授をゲストにオンライン形式で行われ、コロナ情勢に限らず、学生や参加者から多くの質問が寄せられた。
Q.喜連川教授はいつ頃から研究者を志したのか。また、企業に就職しようと思ったことはあるか?
A.大学の博士課程を卒業する時、将来の選択肢として「お金は儲かるが忙しくて自由がない」か「貧乏だけれど自分の好きなことができる」の2つの生き方を迫られた。その時に「好きなことをした方が人生は楽しい」と考え、研究者の道を進んだ。
Q.コロナ時代の、オンラインでの研究者間のコミュニケーションでは、どのようなことが必要・重要となってくるのか?
A.コンピュータサイエンスの世界では、コミュニケーションを無くした方が効率的と言える。それを是とするならば、コミュニケーションを取らずに、一人でストイックに研究をした方がいいということになる。
しかし、そうした生き方は、けして勧められるものではない。自分のテーマを突き詰めるという意味では、コミュニケーションを図らないのも一つの手法だが、コンピュータサイエンスの情報を得るためには、多くの人と話すことも大切。今の研究者は、オンラインを使って現地に行かなくてもグローバルな情報を得ることができるようになった。これは少し前では考えられなかったことで、若者にとって大きなメリットだと思う。
Q.少人数での話し合いなどは、現在のオンラインツールではカバーできていないのではないか。こうしたコミュニケーションを実現するには、どのようなツールが必要か?
A.LINEというのは東日本大震災の後、3か月ぐらいで完成したツール。今の時代にそうしたツールがほしいのなら、学生が研究テーマにして開発すればよい。
平和な時代が続いていいた時、コロナにより大きな外的変化が与えられた。そのひずみにより、新しいものを作るチャンスが生まれた。リアルタイムでの交流をデジタルで実現できるツールというのは、面白いテーマなので、是非みなさんに考えてもらいたい。
Q.他国と比べて日本のIT化は遅れている気がする。どうして日本のIT化は遅れてしまったのか。
A.日本はネットワークの環境は進んでいるが、新型コロナウイルスの定額給付金の振込が遅れたことからも分かるように、特に人的部分でIT化に追いついていない。
日本は2013年に「世界最先端IT国家創造宣言」を打ち出した。このように日本は文書を作成するのは得意だが、そこに書かれたことを実行できていない。文書にして、誰かに渡せばIT化が進むと思っているのではないか。
アメリカのスタンフォード大学でマシン・ラーニングの授業の受講人数を聞いたら、3000人という答えが返ってきた。日本の大学とはけた違いと言える。アメリカなどは企業の社長自身がITに詳しいのに対して、日本の企業でITに精通している社長は極わずか。それではIT化を進める人材を生み出せないと思う。
Q.喜連川先生は挫折した経験はありますか。もし、あればその時の克服方法をお聞かせください。
A.私はかつて10年以上も、うつ病を経験し、かなり長いこと苦しんだ。そのため私の研究室で、うつになった人に対しては、自分の体験から「うつは必ず治る」と伝えている。挫折することは、長い人生の中で必ず体験すること。それならば、若いうちに挫折は経験しておいたほうが良い。
まわりの人間の頭の良さに圧倒されることもあるが、そうした時には他の人が研究している分野には手を出さず、自分しかやらないようなことを研究してきた。本当の天才は苦悩の人生を送ることが多いので、ポワッと生きることを覚えていたほうが良いと思う。
Q.大学で研究者として働くことの魅力が薄まっているように感じます。日本の大学で研究者として働くことの魅力をお聞かせください。
A.大学を卒業したら、そのまま研究者を続けるより、まずは企業で働くように伝えている。そこで社会の問題に直面し、ITがどのように社会を動かしているかを体験してから大学に戻ってくればいいと思う。
教師の役割は、自分が働く姿を学生に見せること。その姿を見て、研究に魅力を感じた人は大学で研究職に進めば良い。今は研究者として生きていくことのロールモデルがつかみにくくなっている気がする。ITによる変化は大学などの研究機関よりも、企業から生まれている。多くの人が企業に就職する中、誰もやらないことを研究することで活路が見いだせるのではないか。
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今後、学生企画を考えるのなら、講師が話した内容について学生同士で議論して配信するのも面白いのではないか。相手が求めていること以上の情報を与え、相手からは同等かそれ以上の価値のある情報が得られるような、ネットワークができれば、もっと大きな世界が広がると思う。そうしたものを学生企画でデザインしてほしい。