先進的な実証事業以外にも学校現場でのタブレット型端末や無線LAN環境の整備が各地で進んでいる。そうしたなか、教員が1人1台の情報端末を活用する事例や、PC室をアクティブラーニング室に転換した環境整備の事例、通信手段そのものを大転換した情報端末の整備など、学校や地域の思いを表した特徴のある事例が生まれている。
教員1人1台端末が
もたらすもの
教員1人1台活用を促す整備(東京都墨田区) |
東京都墨田区が取り組む「学校ICT化推進事業」では、平成26年度より黒板上部の常設型プロジェクターや教員1人1台のタブレット端末等(iPad)を整備し、教員主体のICT活用を中心とした「わかりやすい授業の創造」を推進している。iPadに加え、既存の実物投影機やノートPC(Windows)も稼働しており、教員はそれらを自由に選択し活用できる。教員のアイデアを授業で生かしたり、部活の勧誘用の動画を作成したりするなど、授業内外の様々な場面で活用されている。
活用事例は区内の小中学校で共有。教員側のICT活用や情報活用能力が向上することで、子供たちに還元されことが期待できそうだ。
アクティブラーニングル
ームが伝えるメッセージ
アクティブな学びを促す教室環境 (九段中等) |
千代田区立九段中等教育学校は、平成26年度にPC室を「アクティブラーニングルーム」へ転換した。41台のタブレット型PCを導入し、四方の壁面に天吊りプロジェクターを設置。室内にはグループワークに適した円形のデスクを配置した。ICTだけではなく、教室の壁面や机など学習環境全体がデザインされた環境だ。
この部屋にはアフォーダンス(環境や造形が行為誘引すること)が感じられる。一歩入ると、アクティブな活動が求められていると感じるのだ。現在は主に情報科の授業で活用されており、生徒は情報収集や学習内容のアウトプットなど多様な活動の中でタブレット型PCを活用。個人の活動とグループの協働を繰り返しながらアクティブに学んでいる。
いつでも、どこでも活
用できるインフラ整備
児童の「いつでもどこでも活用」を実現(古河市) |
昨年9月に、市内の全小学校にLTE対応(WiFi+Cellularモデル)のiPadを1421台導入したE城県古河市。導入後の状況を聞くと「接続できないというトラブルはゼロ」とのこと。実際の授業の様子からも「通信が途切れる心配が皆無」、「教員や児童が授業に集中できる」ことがわかる。LTE回線を通じてアクセスするクラウド上のシステムも、無線LAN環境下のそれと変わることなくスムーズだ。グラウンドや体育館など教室外だけではなく学校外のどこでも、LTE回線のエリア内であれば普段と同じ活用ができる。無線LANに束縛されない、情報端末の機動性をフルに発揮出来る環境が実現されていた。
ICT環境デザインの
新たな潮流
墨田区の事例は「教員が日常的に活用するための1人1台のiPadやスライド式プロジェクター」の整備。九段中等教育学校の事例は「生徒がアクティブに活動し学びを深めるために、教室全体が学習者に活動をイメージさせる環境」をデザインしている。古河市では「いつでもどこでも情報端末を活用するために、LTE回線とセルラーモデルのiPad」を選択した。
いずれもICT環境の整備が目的ではなく、その後の活用や利用者が活動する姿を実現するための整備だ。
学習者用端末やPC室、無線LANなどの整備において従来の考え方や手法に囚われず、自らが考えた目的を実現する環境を求めた結果である。
「教員1人1台」「アフォーダンスのあるICTも含めた学習環境」「LTE回線の利用」これらは、今後のICT環境をデザインの潮流を示すキーワードとなるかもしれない。
【2016年2月1日】
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