連載 教育ICTデザインに想いを込める

【第9回】タブレット型端末とこれからの学習環境<東北学院大学 稲垣忠准教授>

東北学院大学 稲垣忠准教授
東北学院大学
稲垣忠准教授

文部科学省が昨年10月に公表した「平成26年度学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果(※1)」によると、「教育用コンピュータのうちタブレット型コンピュータ台数(以下タブレット型端末)」は15万6018台と平成25年度に比べ2倍以上の数が報告されている。そうした学校のICT環境の変化や、今後の方向性などについて、東北学院大学准教授の稲垣忠氏に聞いた。

PC室端末の
 タブレット化

タブレット型端末の配備が追加して増加しているというよりも、PC室の端末をタブレット型に置き換える整備が増えている。しかしPC室と同数の置き換えによる端末整備に過大な期待をするべきではないだろう。

クラス全員で調べ学習をしたり、資料を作成したりするといった1人1台必要な場面では無線LANの安定性の不安があると、PC教室としての役割が担えない可能性がある。普通教室での活用については、全員に端末を配布する手間もある。

では、学習の変革はどの程度整備すれば起きるのか。

例えば3クラスに1セット(40台)分の端末が整備できれば、PC室がなくても、どの学年・学級でも、今までのPC室以上に日常的に端末を活用できる。「1人1台」の効果を問うのはこの段階からだろう。

共有端末と1人1台で
 求められる事の違い

Chromebookの活用場面
教育クラウドでは様々なOSに対応できる

タブレット型端末を整備している学校の多くは「台数が限定されている=共有端末」という現状だ。この場合、グループで1台を共有し、カメラ機能で撮影する、振り返りに使う、教材を見るといった活用が中心になる。その様な場面では、素早く起動し直感的に操作できる端末が求められる。

自分専用の端末として1人1台の環境がある場合は、できることや求められる端末の性能が変わってくる。いつでも使用できて学習成果の保存もしやすいため、単元を通して日常的に使用できる。情報収集にとどまらず、情報を加工・編集しながらプレゼン資料を作成したり、動画を制作したり、プログラミングなどのクリエイティブな活動に使用できる。そうした場面では、キーボード付きで高度な作業に適したスペックを満たす情報端末が求められるだろう。

タブレット型端末と
 PC室との連動

PC室が機能しており、そこにさらにタブレット型端末を追加整備した学校の場合、PC室とタブレット端末の連携と使い分けにより、グループに1台程度の端末数で機能し、次のような活用が起こる。(1)グループで写真や動画などを見るときは教室でタブレット型端末を活用(2)資料を作り込む場面ではPC室の端末を活用(3)PC室で作成した資料をタブレット型端末に保存し教室で発表

端末の台数と特性に応じた使い分けは、情報活用能力の育成にも有効な学習環境だ。

学校や授業外の
 活用を想定する

タブレット型に限らず情報端末の整備がさらに進み完全に1人1台になった場合、授業や学校外の時間をうまく活用することも考えていきたい。LMS(※2)やクラウド上の教材コンテンツを取り入れて、反転授業などの取組にチャレンジするケースも出てきている。

学習履歴に応じたドリル教材などを使うには、自分のペースで学べる授業外の時間が適している。授業に限定せず、学習を支援するためにテクノロジーを有効活用する視点は、整備や活用が進む中で求められる様になる。

その際、中長期的なビジョンを掲げ、環境整備に加え授業づくりや人材育成などを含めたマネジメントが教育委員会に存在すると、より実効性のある整備が展開されるのではないか。

教育クラウドやBYODなど、これまでになかった新たな可能性が広がることも視野に入れながら、豊かな学習活動を支えるICT環境が整備されていくことを期待している。

(※1)毎年3月1日を調査基準日とし、全国の公立学校(小学校、中学校、高等学校、中等教育学校及び特別支援学校)を対象に実施。

(※2)LMS=Learning Management System。教材の保存や蓄積、学習者への配信、学習履歴の管理などを行うシステム。

 

【2016年1月1日】

 

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