活性化する私立学校のICT環境

私立学校のICT環境整備が進んでいる。アクティブ・ラーニングなど新しい学びに対応できる環境構築を視野に入れ、電子黒板やタブレット端末、無線LAN環境などの各種整備に取り組む学校が増えつつある。自由度の高い環境整備とユニークな活用が私学ならではの特長と言えそうだ。

タブレットPC約1800台<佐野日本大学中等教育学校・高等学校>

シンプルな活用を推進

全ての教員と生徒(中等教育学校の4〜6年生)が1人1台のタブレットPCを所持して活用する、佐野日本大学中等教育学校・高等学校。約1800台に上るタブレットPCの常時接続を可能とするネットワーク環境、グループウェアや教育支援システム等を独自に統合し構築しているデジタルキャンパスなど、国内屈指のICT環境を整備し、日々活用している。導入から定着に至る過程や今後の展望について、ICT教育推進室の安藤昇室長に聞いた。

デジタルキャンパス
デジタルキャンパスを構築して教材などを配信
クラウド画面
教員自作の解説動画をクラウドで共有
ネットワーク配線
強固なネットワークでシンプルな活用を支援

現在のICT環境を整備するきっかけは、東日本大震災だったそうだ。災害時の連絡手段の確保や、長期休校などを想定した学習環境の重要性を痛感し、緊急連絡システムや校内ネットワークの構築に着手。確実な情報発信と、いつでもどこでも学べる環境を提供するためのICT環境を整備した。

生徒が学校外からデジタルキャンパスにアクセスし、課題を受け取り提出するなどは日常的に行われている。

体育祭の集団演技の練習時間の確保が難しかった際に、お手本動画を作成して夏休み中に視聴(予習)してくるように伝え、授業に臨んだ。いわゆる反転授業形式だ。先日の北関東地方を襲った豪雨の際には、緊急連絡システムを利用し保護者等への速やかな情報発信を行った。

BYOD視野にWeb認証を採用

約1800台のタブレットPCがデジタルキャンパスやインターネット等に常時アクセスするために、無線LANアクセスポイントの設置や管理、光ケーブルによるLAN幹線の敷設、ネットワーク全体の冗長化など、インフラに関しては技術的にも費用的にも特に力を入れて整備した。

現在は主にWindowsタブレットPCを活用しているが、マルチOSによるBYOD(=Bring Your Own Device※1)を想定して「Web認証」を採用。利用状況などを一元管理している。

ウイルス対策ソフトや有害サイトフィルタリングソフトを使用しながらも、MDM(=Mobile Device Management※2)は導入していない。タブレットPCの利用を制限せず、利用者の自主性を尊重する仕組みとしたからだ。

情報共有の手段として、既存のクラウドサービス(GoogleDrive、OneDrive、Dropboxなど)を積極的に活用。汎用的なシステムを活用することで、費用的に安価に抑えながらも、実社会で流用しやすいICT活用力や情報活用能力の育成に繋げようと考えた。

安定性を追求したインフラ、将来を見据えた認証、汎用的なシステムの活用。メリハリの効いた最先端のICT環境が構築されている。

実験結果をタブレットに記入
実験結果をタブレットに記入して比較・考察

「動画」を作成して教員の意識を改革

活用に進むにあたり先ず着手したのは、教員の意識改革だ。

当初、タブレットPCの活用に懐疑的な教員もおり、理解を得て意識を変えてもらうためにドラマ仕立ての動画を制作。タブレットPCを使わないと「宣言」した教員が、甲子園で活躍する野球部の生徒のために自分の授業をタブレットPCで動画撮影し、宿泊先でも視聴できるようにするという内容で「デジタルキャンパス物語 第1話〜教師編〜」としてYouTube上で公開している。キャッチコピーは「思いが届く」。この公開後、確実に意識が変わり、教員自身の主体的な活用が進んだという。

学級便りも動画に

今では、様々な活用が進んでいる。

ある教員は、答案用紙の上に赤鉛筆で解答を記入しながら解説する様子を動画で撮影。これをデジタルキャンパス内で共有している。使用する教具は従来のまま、生徒への届け方はクラウド上へ保存するだけだ。

学級便りも動画化。クラスマッチや文化祭などの行事で活躍する生徒の姿を、保護者に向けて公開している。
クラウド上の教材コンテンツはどの教員も見ることができる。著作権上不適切な教材があれば、指摘し合う。良いものがあればすぐに共有。そういったオープンな環境が、自由で活発な活用を支えている。

安藤教諭は「教員のアイデアから様々な教材や活用法が生まれている。その中で良いものが残り、普及している。既に生徒は共有することに慣れているし、そこから良い活用を学ぶことも多い」と語る。「生徒が課題を提出するクラウド上のフォルダはオープンな場所。友達の提出状況や良い解答を見ることもできる。学校の内外を問わず、いつでもどこでも、生き生きと学び、部活などでも積極的に活用し、豊かな学校生活を送って欲しい」
シンプルでオープンだからこそ広がり発展する。その陰には高度で最先端のICT環境が存在している。

(※1)自己所有の端末を学校や職場などに持ち込み、利用する。
 (※2)スマートフォンやタブレットPC等モバイル端末を管理するためのシステム全般。

 

【2015年10月5日】

関連記事

全教職員にiPad 無線APは各室に配備<鎌倉学園中学校・高等学校>

↑pagetop