私立学校のICT環境整備が進んでいる。アクティブ・ラーニングなど新しい学びに対応できる環境構築を視野に入れ、電子黒板やタブレット端末、無線LAN環境などの各種整備に取り組む学校が増えつつある。自由度の高い環境整備とユニークな活用が私学ならではの特長と言えそうだ。
松下伸広副校長 |
建長寺が師弟教育のために設立した「宗学林」を前身とする鎌倉学園中学校・高等学校(竹内博之校長・神奈川県鎌倉市)では現在、全教室への無線LANや大型ディスプレイ、タブレット端末の整備など、新しい学びのニーズに対応できる教室への刷新に向け、2013年から3年計画で校舎のリニューアル計画を遂行中だ。松下伸広副校長と視聴覚担当の小林勇輔教諭に整備の特長と目的、活用の様子を聞いた。
松下副校長は「本校は2021年に100周年を迎える。耐震化の補強や教育設備の充実はもちろん、アクティブ・ラーニングなど文科省の方針にも対応できるように、校内で2年前に総合環境委員会、ICT委員会を立ち上げ、リニューアルに着手した」と語る。現在は中央棟の整備が終了しており、中学生用教室がメインの東棟、高校生用校舎である西棟へと整備を順次進めていく。
提示環境は全室に整備
小林教諭は視聴覚担当。玄関や職員室前のディスプレイには連絡事項を配信 |
リニューアルが終了している中央棟には教員室、多目的講堂(星月ホール)、カフェテリア、図書室、マルチスペース、自習室、普通教室5室があり、電子黒板機能付きプロジェクターとAppleTV各25台、デジタルディスプレイ計14台など様々な提示環境を整備した。
玄関ホールや職員室前には大型ディスプレイを設置。その日の時間割変更や最近のトピックなどが提示される。
マルチスペースにはプロジェクターを4台配備。グループワークなど「教え合い・学び合い」を想定した環境とした。
約450人が収容できる星月ホールは、前方スクリーンのほか、7台のディスプレイを配備。iPad1台で映像内容や音声ボリューム、ブルーレイなど接続機器の変更、照明などを管理できる。このスペースを100人スペースと300人スペースにパーティションで分離できるようにし、多人数の補習、講習や保護者会等で活用している。
全教員にiPad
今年度から同学では、全教職員にタブレット端末(iPad)80台を整備。活用が始まっている。 授業では、AppleTVを使った提示や、生徒の作品やノート、演技などの撮影によく使われている。部活などでも活用が進んでいる。
校務でも活用。連絡事項はiPadのメッセージ送信やファイル共有で行うようになり、朝の職員会議の短縮化が図られた。教員同士やグループ間の連絡も円滑になった。
授業支援アプリ「ロイロノート・スクール」も教員連絡用に活用している。ロイロカードに連絡事項を記入して日付フォルダに格納、情報を共有する。生徒への伝達事項は黄色、教員への伝達事項は白いカードと色分けしており、生徒用伝達事項の黄色カードのみをピックアップ・編集して各教室で連絡を伝える教員もいる。
450名収容できる星月ホールのディスプレイや音声は映像内容や音声、接続機器などをiPadで管理 | |
iPadでポイントを復習してから問題に取り組む | マルチスペースには4台のプロジェクターを配備 |
生徒用iPad50台で検証
生徒用iPadは50台を共用中だ。小林教諭の高校2年物理の授業では、全員に配布し、iTunesUやSNSサービス「ednity(エドニティ)」を使って確認テストの予定表、学習検査の結果のグラフと教員のコメントなどを配信している。
生徒は学校のiPadのほか、個人のスマホも活用しており、早速、問題に取り組む生徒、講義動画をじっくり見てから問題に取り組む生徒など様々だ。各人のタイミングで動画を見ているが、接続はスムーズだ。
この講義動画は、予備校の講義を無料配信している「学びエイド」からピックアップしたもの。小林教諭は「当初は自分で講義動画を作成していたが、必要な動画を全て作成するには時間がかかりすぎる。既にあるもので使えるものはどんどん使おうと考えた」と話す。
校外学習でも活用
この夏から始まった1泊2日のサイエンスキャンプ「K‐LABO CAMP」には、希望者約70名が参加。参加者にはiPadを2、3人に1台割り当てて、キャンプの様子などを記録。自宅に持ち帰り、後輩にその様子を紹介するプロモーションビデオを編集・制作するという課題を出した。このビデオは今後、参加者募集時などに活用する。
無線AP接続をMDMで円滑に
生徒用iPadは現在50台だが、次年度以降は増える予定だ。そこで、校内どこでも円滑に接続できるように、無線LANのアクセスポイント(AP)を各室に整備。APはトータルコストと性能面から3社をピックアップ。国内メーカーであるフルノシステムズにした。
無線LANに接続する際、通常は端末が各所のAPを感知して「パスワードを設定する」作業が生じる。同校ではその過程がない。端末が最適なAPを自動認知・接続できるようにMDM(モバイルデバイスマネジメント)で設定したからだ。
MDMはこのほかアプリ配布・回収・設定解除や端末が紛失した際の探索・不正利用の防止、遠隔管理などができる。同校ではMDMサービス「Mobiconnect(モビコネクト)」を採用。多様な機能から今必要なものだけをピックアップして利活用している。小林教諭は「MDMは次年度以降、端末が増えた際は様々な機能を活用していくことになる」と話す。生徒用端末は、共用整備あるいはBYODとするかは活用しながら検討していく考えだ。
【2015年10月5日】
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