教育委員会対象セミナー・名古屋 ICT機器の整備計画/校務の情報化

5段階で協働学習 ゼロからの挑戦 松阪市立三雲中学校 楠本誠教諭

松阪市立三雲中学校 楠本誠教諭
松阪市立三雲中学校
楠本誠教諭

生徒1人1台のiPad活用

松阪市立三雲中学校は平成23年度からフューチャースクールとしてICT活用に取り組み、今年度で4年目。FS実証校として、普通教室に電子黒板、実物投影機、教員用PC、Apple TVを導入し、生徒1人1台のタブレット端末(iPad)の活用がスタートした。実証研究は25年度で終了したが、市の事業として引き継がれるとともに、横への展開が始まり、市内の中学校2校には、三雲中と同様の環境が整備されている。

初年度に行ったアンケートでは「ICT機器がなくても授業はできる」「ICTに興味はあるが新たに機器を購入して授業を行うのには抵抗がある」「研修で忙しくなるのでは」といった不満や不安の声が大きかった。ICTで本当に生徒の学習効果が上がるのかと疑問を抱く教員もいたが「公立中学校ゼロからの挑戦」を合言葉にスタートを切った。

生徒会選挙で電子投票

同校では授業以外でもタブレット端末を活用した。

生徒の部活動風景を顧問が撮影して、そこから指導へつなげ、授業で使うことに抵抗を感じる教員でもタブレット端末を使うきっかけを意識した。生徒会選挙ではタブレット端末から電子投票なども行った。

5つのステップ

授業でのICT活用には、反復学習で身に付けられる基礎学力のような「見える力」と同時に、協働学習を通じて、聞く力・話す力・判断力・表現力などの「見えにくい力」を高めることが期待される。そこで、協働的な学習を進めるため、「課題共有」「個人思考」「グループ思考」「全体共有」「振り返り」の5つのステップで授業をデザインした。

自分の端末の画面を電子黒板に提示したり、相手の端末に送信することで「課題共有」を図る。「個人思考」では学習履歴を閲覧することで既知事項の想起につなげる。「グループ思考」で意見を交流する中で論点を焦点化。「全体共有」では学習の結果を画面に提示しておくことで生徒にヒントを与える。さらに、結果だけでなく思考に至る経緯の書き込みも提示して共有。最後の「振り返り」で他者の考えをフィードバックして自分の考えを再検討・再構築する。

他者と考えを共有

タブレット端末の特性として、グループから全体、全体からグループと学習活動の場面転換が容易に行える「即時性」、画面を通じて自分の考えを示せる「共有性」、実験の結果などを記録しておける「保存性」が挙げられる。

実際にタブレット端末を使って、生徒が学習効果を感じた機能は「写真・動画を撮る」、「書き込める」などだ。書き込みはノートでもできるが、撮った写真に文字を書き込める機能が役立つ。その他、体育などで自分の動きを「見る」、発表ツールとして相手に「見せる」、「データを送受信する」、「画面を拡大する」、「自分のペースで活用する」などの回答も見られた。

言語活動が増える

タブレット端末を1人1台持つことで具体的に見られた効果は、生徒のコミュニケーションの広がり。言語活動が増え、発表で活用することを前提にタブレット端末を使用する生徒が見られた。全員が同じ機器を持つことで共通の話題も生まれる。

また、科学的根拠による考察の深化も見られた。理科の中和の実験で水酸化ナトリウムが酸性を中和することは、従来の実験でも理解していたが、実験の映像を記録して比較することで、中性の緑色でも水滴の数により緑色が異なることにも気が付くなど学習が深まった。

正しい活用を探る

同校にはタブレット端末を使用しない時は裏向きに置くという決まりがある。端末を操作して授業に集中しないなどの問題が見られたからだ。理科の実験でもタブレット端末で写真を撮ろうと肝心の実験を見ていないこともあった。何のためにタブレットを使うのか役割を明確にしていないと誤った活用も生まれる。目の前の現象を自分の目で見ることが大事だと教えている。(講師=松阪市立三雲中学校・楠本誠教諭)

【第22回教育委員会対象セミナー・名古屋:2015年2月13日】

【2015年3月2日】

 

最初へ最後へ

関連記事

↑pagetop