特別支援教育と学校図書館ー全国学校図書館研究大会 甲府<後編>

”一人で読める”を支援

「第39回 全国学校図書館研究大会 甲府大会」(8月6〜8日開催)の特別支援教育に関する分科会では「特別支援学校学校図書館の現状」「知的障害のある子の言語活動の充実と読書推進」「学校図書館における合理的配慮推進に向けて」等のテーマで講義や実践発表、研究討議が行われた。その中から2つの分科会を紹介する。

■発達に沿う本 調査しリストにー旭川市教育研究会

北海道・旭川市教育研究会特別支援教育部では「図書館のバリアフリー研究部」を設置している。同研究部に所属する池田はるか教諭(旭川市立緑が丘中学校)と脇坂文貴教諭(同豊岡小学校)は、支援を必要とする子供の発達段階に対応した本について研究。特別に作られた本ではなく、既存の図書から支援を必要とする子供に適した本を明らかすることに取り組んだ。

旭川市内の特別支援学級に在籍する小・中学生と保護者を対象に、読書環境や読書傾向についてアンケート調査を実施したところ、次の傾向が見られた。

(1)絵本への興味の期間が健常児に比べて長い (2)絵本期から童話期、児童文学期などへの移行が、全体の傾向としては見られない (3)自然科学、怪談(怪奇物語)への興味が、幅広い年齢で一定して見られる。

興味が移行する時期にマンガを活用する

研究部では、絵本からマンガへの興味の移行が、8〜10才(小学校3・4年生)頃に見られることに着目。これは健常児の絵本期の終了と児童文学期への開始時期と類似している。文章から物語を理解することが困難な障がいがある場合、マンガの絵を手がかりにしていると考えられ、「絵本と、(文字中心の)本を読む間の時期にマンガを挟むと良いのではないか」と脇坂教諭は報告した。

「マンガ」について、同分科会参加者からも様々な意見が寄せられた。

ある養護学校では本をめくるのが難しい肢体不自由の子供のために、支援ツールとして電子図書を購入し、自分のPCで見られるようにしており、絵本や児童書に比べてマンガの購入が多くなる傾向があるという。

専修大学文学部の野口武悟教授(全国SLA特別支援学校図書館調査委員会委員長)は「特別支援教育において、絵で理解できるマンガはすぐれたメディアであり、重要な支援ツール。学校図書館として特別支援学校(級)のためにどのような本やマンガを入れたら良いのか、共通理解できる研究が今後必要となる」と語った。

読書活動が自立活動 社会参加につながる

同研究部では調査をもとに、旭川市中央図書館の司書に依頼して「図書リスト」を作成。学校現場で活用できるよう、絵本や児童書を選び、それぞれ得られると思われる力を自立活動6区分26項目に当てはめた。現在、リストからクラスの実態に合わせた本を選び、授業が行われるなど活用が始まっている。

池田教諭は、ある肢体不自由児童の事例を紹介。その児童は本のページを上手にめくれなかったが、大きな付箋を各ページに貼ることでめくることが可能となり、調べ学習にもつながった。そのことが、児童の自信に繋がっていったという。

特別支援教育の視点から見た「読書活動を通して獲得が期待される力」として、▽他者の心情を理解する力▽表現する力(伝える力)▽想像する力▽調べる力▽集中の持続力▽知識▽興味関心の広がり▽楽しさの深まり、の8つを挙げ、これらをふまえ「読書活動は社会性や意思疎通、作業能力、余暇利用、心身の健康に繋がり、将来の社会参加など自立活動につながる可能性がある」と述べた。

■電子図書DAISYで障がいに対応
マルチメディアDAISY図書ー伊藤忠記念財団の助成事業
伊藤忠記念財団
伊藤忠記念財団の発表

分科会「特別支援教育と教材」では、(公財)伊藤忠記念財団の矢部剛氏が電子図書の試みについて報告した。

同財団では障がいのある子供の読書について2010年に調査を実施。点字本、マルチメディアDAISY図書、拡大文字の本手話付絵本などを検証。その結果、通常の書籍に比べタイトル数が少なく、大人向けの作品が中心であること、需要が少なく量産が困難なことなどの課題が浮かび上がった。

そこで着目したのが電子図書だ。デジタル録音図書の国際標準規格「DAISY」システムによる電子図書「マルチメディアDAISY図書」の製作に着手した。

矢部氏は、マルチメディアDAISY図書の有効性について以下のようにまとめた。

▽視覚障がい(弱視)=文字や絵の拡大・読み上げ・白黒反転ができる ▽肢体不自由=本を持ったりページをめくる必要がない・緊張緩和・ハイライト機能で読んでいる場所を見失わない▽病弱=現在使えるタブレット端末は、アプリケーションがあるiPadのみ。キーボード等の凸凹もなく、殺菌シートで消毒しやすいため、衛生面での課題も解決でき、無菌室でも使える。また固定器具でベッドサイドに固定できる ▽知的障がい=絵と音声読みで集中できる・文字を「かたまり」として意識できる・文字や絵がストーリーの理解に役立つ ▽ADHD=文字のハイライト機能があるので集中しやすい・勝手読みが減少 ▽自閉症=いつも同じ読み、ペースなので安心できる ▽音過敏=効果音や不要な音声がないので集中できる ▽ディスレクシア(読字障がい)=文章のまとまりが理解できる。繰り返し見ることができ、文章の意味を理解しやすく、自分で紙の本を読むようになるなど、意欲の向上が見られる

現在、同財団では「わいわい文庫〜マルチメディアDAISY図書〜」として、特別支援学校や図書館、医療機関等の団体へ無償提供している。今年度は55作品を収録したCD‐ROM700部を、学校や図書館などに配布。PCに挿入するだけで図書を再生でき、タブレット端末にコピーすることもできる。

一人で読める満足感は 子供の自信につながる

発声ができない小2女児が、マルチメディアDAISYに合わせて手話で表現する活動では、スピードや間などを調整することができた。音読が不要なため、教員が児童の手話を目で確認しやすくなり、児童の手話の語彙(ごい)数に向上が見られ、1人で読める満足感も得られたという。

実際にiPadでマルチメディアDAISYを体験した参加者は「声のピッチや読むスピードをかなり細かく設定できる」「わかち書きではない一般の本は読みにくい。DAISYのハイライト機能をぜひ教室で使ってみたい」などの声があった。

「本は直接人が読むべき」といった意見もあるが、電子図書は「1人で読めて達成感や自信につながる」「何度でも繰り返し同じスタイルで利用できる」といった利点がある。同財団では、今後もより多くの人の理解を求めていく考えだ。

【2014年9月1日】

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