【タブレット端末の教育活用】タブレット端末導入成功のポイント

 学習者用端末としてタブレット端末が注目されている。一斉学習の際に電子黒板と連携して話し合いのきっかけづくりとしたり、協働学習を展開しやすくしたり、調べ学習を行うなどの活動が想定されているようだ。総務省・フューチャースクール推進事業が平成22年度に開始した当初は、1人1台学習者用端末はまだ先のこと、という見方が多かったが、3年を経、導入に積極的な自治体の増加は当初の想像を超えるものがある。

可能性と限界を知って使い分ける

 iPadは、スクール・ニューディールの大型補正時にすらICT関連導入に興味を示さなかった自治体をも巻き込み、ICT導入・活用を後押しする役割を果たしている。iPad導入を視野に、既存教材や電子黒板との連携、大量一斉導入の際のボリュームディスカウントの有無、運用管理など様々な条件を視野に検討していくなかで、Windows端末やAndroid端末、ノートPCやシンクライアント端末など様々な選択肢が拡がり、新しい学習法について学んでいく、という流れが生まれているからだ。

 導入は活用・成功につなげたいもの。それについて堀田龍也教授(玉川大学教職大学院)は、「タブレット端末の具体的な活用イメージを持って導入を進めること。電子黒板を入れれば黒板が不要、デジタル教科書を入れれば紙の教科書が不要というわけではないように、タブレットを入れればノートに書くことがなくなるというわけではない。電子黒板等の提示環境もキーボードスキルも重要な教育要素のひとつ。板書、電子黒板、実物投影機、PCに加え、タブレット端末という要素が新たに加わったと考えたい」と指摘する。

 タブレット端末は手元での提示環境として優れている。グループで一緒に見ながら話し合う、相手や自分を撮影してチェックする、という作業も得意分野で、グループ学習に馴染みやすい。しかし、「取得した情報の分析や再編集は、その内容が高度になるほどタブレットでは難しい面がある」(堀田教授)。

 OECDによる生徒の学習到達度調査(PISA)では、PCを活用して調査するデジタル読解力の調査が始まっている。2009年の調査結果によると、学校や家庭でPCを使っている生徒、使っていない生徒のデジタル読解力の差は無視できない結果となっていることから、キーボードスキルの定着も図る必要があるという。

いつでもつながる 無線LAN環境を

 次に注意したいのは、無線LAN環境だろう。無線LAN環境では、普通教室で持ち運びながら端末を活用できる。しかし同時に接続する端末が多いほど無線LANは接続しにくくなるという性質を持つ。堀田教授は「学校で求められている無線LAN環境は、いつでもどの場所でも児童生徒の端末がスムーズにつながる、というもの。これは広く家庭用無線LANでは対応できないレベル」と話す。タブレット端末活用をスムーズに進めるには、常に変わる電波状況に対応できる無線LAN環境を視野に入れた導入・選択が必要だ。

協働学習には 「差異」が前提に

 情報機器導入の際は、「各教科の目標を達成するために情報端末を使用する」ことが大前提だ。タブレット端末導入の目的のひとつを「協働学習」とする自治体が多い。

 では協働学習とは何か。

 高橋純准教授(富山大学)は「協働学習を成功させるためには、『差異』が必要」と指摘する。差異とは、学力差ではない。地域の差。国の違い。専門の違い。その差異による知識を提供し合うことで、1人ではできなかった何らかのワークを完成に導くことだ。

 高橋氏は英国訪問の際、「算数の問題の解き方について分からないことを教え合うことを、日本では協働学習と呼ぶ人がいる、と話すと、ジョークだと思われて信じてもらえなかった」と話す。「優秀な子どもが算数の問題を分からない子どもに教える」ことは、協働学習の初期の練習段階に過ぎない。その先の学習を想定することが必要なのだが、「同一地域、同教室では差異を作りにくく、協働学習はそれほど簡単なことではない」(高橋氏)という。

 「差異」を教室内で意図的に作るものが、「ジグソー法」だ。ひとつの問題に対する課題を複数出して分類し、同じ課題をもつ者同士がグループをつくる。その学習を終えたあと、もとのグループに戻り、自分の学びを披露し合い、最終的な結論を導いていくというもの。この手法を授業に取り入れている学校も増えてきている。また、インテルが提供する教員研修「Intel<外字>ュ Teach プログラム」には、ジグソー法の手法がプロジェクト型学習として取り入れられている。

世界を広げる きっかけに

  協働学習はPCを使わなくても可能な活動だ。しかし、PCやネットワークを使うことで、世界を広げ、「差異」を体験することができる。

  例えば、日本の消費税を課題に設定したとする。まず児童は、各国の消費税の現状を調べることで、あたりをつける。さらにSNSなどを通じて海外に住んでいる人に直接ヒアリングする。英語でできればベストだが、海外在住の日本人でも良い。研究者にアクセスして、自分のレポートの完成度をさらに上げることができる。ビデオ会議やTV会議などで専門家に聞くことができればベターだ。文房具、学校、コンビニ。世界を舞台に調べると、日常的な素材が面白い課題になる。エネルギー問題、環境問題も「難しそうなもの」から、興味深く身近な課題に変わっていく。そのダイナミズムが、ネットワークを活用した協働学習の面白さだろう。さらに、世界とつながって学習する際に必要なマナーやスキル、配慮。学校はそれを事前に学ぶ場と捉え、協働学習を「ミニ教師」育成の場でとどまることのないようにしたい。

二項対立からの脱却をはかる

  協働学習はグローバル人材育成のひとつの要素ではあるが、それさえしていればグローバル人材が育つわけではない。
また、タブレット端末は、協働学習のためだけのものではない。「わかりやすい授業づくり」や「個人学習」にも役立つもので、それについての事例や研究も増えている。堀田教授は「質の高い一斉学習は日本の教育の良さの1つ。それを基礎にしてこそ、協働学習の質を高め成功に導く可能性が生まれる」と話す。様々なテクノロジーや教育手法が開発され、かつての教育手法が見直されていく際に対応できる、可能性に満ちたツールの1つだ。

  PCVSタブレット端末、電子黒板VS黒板、デジタル教科書VS紙の教科書、一斉学習VS協働学習という「白か黒か」ではなく、相互の良さを補完し合い引き出す学習を想定した整備や活用、授業研究が求められている。

【2013年6月3日】

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