7月10日開催 教育委員会対象セミナー報告

 

東京女子体育大学 榎本竜二 准教授

「ルールの理由」考える指導

教育委員会対象セミナー  高等学校で情報教育を行っていた榎本氏は現在東京女子体育大学で、教員免許取得希望学生に対して情報関連の講義を提供している。

  「情報セキュリティといっても、技術で防ぐ部分は情報機器を納入している業者のSEと打ち合わせればよく、それぞれの職場や環境に最適なものを導入していけばよい。学校の管理者や教委が考えるべき現実的なセキュリティは、『紙を減らす工夫』によって重要書類などのデータ紛失を防ぎ、『正しいウイルス対策(決して難しくはない)』を周知することで、家庭からの情報流出を防ぎ、『現実的で具体的なわかりやすいデータ保持指針』を示すこと。そうすることで、これまで守ることができなかった難しいセキュリティポリシーを捨て去ることができる」と述べた。

  ただ、どれほど対策を講じていても起こってしまうのが事故だ。問題発生から具体的な検討事項、問題に応じた対応などは、その内容が情報関連であっても、対処法は通常の生徒指導の場合と重なることは多い。

  ネット上に上げた情報は、自分が考えるより多くの人が見ており、簡単にコピーが出回るというネットの特性を子どもも大人も理解せず、ネット上には多くの個人情報が書き込まれてしまっている問題点を指摘した。

  教委から学校、学校から子どもたちへの教育も「○○をしてはいけない」という禁止教育になってしまっている点も問題だ。これを「なぜルールが存在するのか自ら考える」ように仕向けること、たとえ即答できなくても、解決できる方法を探せるのが大人であり、問題が起こった時に受け止める準備がある、というメッセージを教委から学校、学校では教師や保護者から子どもに発信していくことが重要である、と締めくくった。

↑PAGE TOP

早稲田大学教職大学院 田中博之 教授

「考えて書く」活動の
繰り返しで学力向上

教育委員会対象セミナー  文部科学省の委託で、全国学力・学習状況調査で評価すべき結果を残した教育委員会・学校の背景を探る目的で、秋田県及び福井県の小学校、中学校全10校を訪問調査(注1)した結果、学力向上につながる学習活動について次のことが明らかになった。

  まず、考えて書く活動が繰返し行われていること。それも、書き出しの言葉や接続詞を決めて書く、語句と語句を組み合わせて書く、など条件を設定して書かせている。また、授業中、昼食時の規律など生活習慣がしっかりしており、家庭学習ノートも毎日提出、教師がコメントをつけて返すなどで家庭学習習慣が確立されている。

  考えたことを文章で書く、書いたことを口頭で発表する、図形や図表、数式と文章を必ず組み合わせて分かりやすく書くことを継続して行っている。これは授業中だけでなく、自主学習や宿題でも行われ、データを読み取りその情報を含めて文章化する学習が展開されている。これらは全て活用型学力(思考力・判断力・表現力)の育成につながる活動だ。ICT活用は、活用型学力育成につながる「考えて書く」行為を、意欲を持った取り組みとして支援することができる。

  例えば、文章作成や問題理解を助けるシミュレーション教材を使って自分の考えをまとめられるようにする、社会科の工場見学で、訪問した工場・産業についてWebで調べたデータなども含めてグループごとにまとめ根拠を示して発表する、地域の特色を調べてデジタル新聞を作り、情報編集力を養う。文章と映像を組み合わせてプレゼンテーションにまとめるといったことなどだ。

  ICT活用と学力は相関するが、ICTを活用するだけでは十分でないこともベネッセ教育研究開発センターが2004年に行った調査で分かっている。ワークシートを使った思考、口頭表現、文章の「型」をしっかり身につけさせる、イメージ・マップによって情報や思考を整理し構造化する方法を学ぶ、といった活動と併行してICT活用していくことが大切だ。

  (注1)「全国学力・学習状況調査において比較的良好な結果を示した教育委員会・学校などにおける教育施策・教育指導等の特徴に関する調査研究」(http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/085/shiryo/attach/1314907.htm

↑PAGE TOP

ベリタス・アカデミ― 坂木俊信 代表

電子黒板と
ネット授業で成績向上

教育委員会対象セミナー  同校は"ITで教育界に革命を起こす"を理念に掲げるインターネット予備校だ。大学受験に向けた映像授業をネットで配信しているが、電子黒板を導入したことで授業内容が大きく改善し、受講生の偏差値向上につながったという。

  代表の坂木氏は、大手予備校の英語講師だった際、90分という限られた授業の中で教えられる学習量に限界を感じていた。そんな折、帰国子女の生徒から、ハワイの学校で電子黒板が使われていることを聞き、ハワイでの授業を見学。電子黒板があれば、より理想に近い授業が行えると考え、帰国後に電子黒板を購入。英語塾を開設した。

  電子黒板を使い始めて坂木氏が分かったことは、黒板を使っていた授業と比べ、授業効率が3倍に高まるということ。それまでは、英語の長文問題などを黒板に書くことに時間を取られていた。しかし電子黒板ならば、事前に準備さえしておけば瞬時に英語の長文が映し出される。従来の授業では90分に6〜8ページが限界であったが、20ページ進むなど濃密な授業が行えるようになったという。

  さらにその有効性を確信したのは導入2年目のこと。授業内容は全て録画・編集、DVD化していたが、2年目からはDVDを生徒に渡し、授業がない日はDVDを見て学習するように指導した。凝縮された内容の授業を繰り返し見ることで、生徒の成績は飛躍的に向上していったという。それをきっかけに、映像授業を提供する現在のベリタス・アカデミーの形式へと移行していった。現在はインターネット配信となったが、電子黒板による授業は健在だ。

  英語の授業では、教科書に載っている例文は1つでも、電子黒板には幾つもの例文を表示していく。何度も例文を音読して、耳から覚えさせる。現代文などは、教科書に載っている全文を映し出しながら説明できる。効率良く授業が進むので、数学では演習問題の時間を多く取れるようになった。

  現在は、iPadやiPhoneの可能性に着目している。センター英語の英文法の問題を集めたiPadアプリでは、年度別、分野別、シャッフルの3つの出題モードから選択して、英文法の問題を解いていく。まもなくリリース予定のiPhoneアプリの単語帳は、2200の例文の全てに動画を用意し、例文と合わせて英単語を学習できるものだ。iPadやiPhoneを組み合わせることで、より良い学習体験を提供できると考えている。

↑PAGE TOP

奈良女子大学附属中等教育学校 二田貴広 教諭

iPad55台をフル活用

教育委員会対象セミナー  同校には電子黒板4台(70インチ2台、60インチ2台)」、「iPad」10台、「iPad2」15台、「iPad3」30台が導入されている。二田教諭はこの環境を活用して、「21世紀型スキル」を育む活動に取り組んでいる。東北の復興を支援する「OECD東北スクールプロジェクト」の取り組みもその1つだという。

  本プロジェクトは、2014年にパリで開催されるOECDのイベントにおいて、東日本大震災からの復興の様子をアピールするというもの。OECDでは「良いシステムは、文化的及び経済的に大きく異なる状況においても強力で公平な学習成果をもたらす」という考えのもと、同イベントを企画。主に被災地の中高生を中心とした企画だが、同校は援助者として参加している。

  プロジェクトに協力することになったきっかけは、PISA調査を作成して同校の生徒にPISA型学力が身についているかどうかについて見てもらった際、プロジェクトへの協力を持ちかけられたという。プロジェクトでは、奈良という東北から離れた地で、復興にどのように関わり、どう役立つかを考える。

  7月7日にはパリと岩手県大槌町、奈良の3か所を繋いで、Skypeによるビデオ会議を実施した。奈良女子大学のキャンパスツアーに東北の子どもたちを招待する企画も進行中だ。こうした企画を話し合う際に、iPadに思いついたことを書き込んでいき、その情報を共有している。

  iPadを使うにあたっては仮説と検証が求められると二田教諭は語る。「iPadでなければできないことか」「iPadを使うことで効果が高まるか」を考え、「生徒の関心・意欲・態度が向上しているか」、「学力が向上しているか」を検証する。しかし、想定していた結果以上のものが生まれる場合があるという。「東北スクールプロジェクト」では、どうすれば東北の子どもたちを支援できるか、iPadを活用して意見を出し合った。この取り組みにより、双方向型の授業を可能にするという点がiPad活用による想定外の結果であったという。

  iPadを使った授業の魅力として二田教諭は次の3点を挙げた。(1)「教師がファシリテーターとしての役目を担いながら、視覚的な情報提示の援助を受けつつ双方向型の授業が行える」、(2)「発表者の問題や課題を参加者全員で共有して解決できる」、(3)「新たな知見といったイノベーションを生む可能性がある」。

  世界中の他者と協同できる人物であるためには、「問いを立てる力‐自分の考えが正しいか常に疑い考えを深める態度」が必要だ。その活動を演出するツールとして、ICT機器を活用することの可能性を広げたいと述べた。

↑PAGE TOP

【2012年8月6日】

関連記事

教育家庭新聞社 開催予定セミナー・研修・イベント