7月10日開催 教育委員会対象セミナー報告

 7月10日、本紙主催により第6回教育委員会セミナーが都内で開催され、教育関係者らが参集した。この日は各教育委員会の予算獲得法やデジタル教科書導入の成果、ICT活用の効果や事例などが報告された。当日のセミナー講演の様子を紙面報告する。なお次回は10月12日、大阪市において開催を予定している。

 

深谷市教育委員会 森田豊 指導主事

教育ICT予算は純増
整備目的・ねらいを明確に

教育委員会対象セミナー  深谷市(小学校19校、中学校10校計29校)ではICT環境整備に力を入れており、教育用PCの整備率は児童生徒数4・0人/台。校務用PCは全教員に配布、校務支援システムも整備済み。教室用・指導用としてタブレット型PCを整備している。また、すべての教室に高速無線LANを整備している。小学校には全教室に書画カメラとデジタルTVを、中学校は各教室にプロジェクターを天釣り式で常設した。全校に1台ずつ整備した電子黒板は、中学校では理科室に設置する学校が多く、小学校では英語の授業を想定して多目的室に設置した学校が多いという。

  小学校では書画カメラで教材や児童のノートを拡大投影、発表したりしている。中学校のプロジェクターも活用率が非常に高く、インターネット上の資料や自作の教材を投影している。特に英語の授業では積極的に活用されている。

  ICT活用の効果について児童・生徒を対象に調査したところ、「わかりやすくなった」が84・3%に達した。通知表や成績一覧表を電子化については、9割以上の教員が「負担が減った」と感じている。

■ICT予算の確保

  深谷市ではこれまで、財政担当にICT整備についての国の指針と地方交付税についての意義についてPRを重ね、学校現場の声を活かした整備計画を進めてきた。市の平成24年度教育用ICT関連予算は2億4614万円。市全体の予算が減少している中、ICT予算は純増している。

  ICT予算の確保に向け、市の財政担当と交渉する際には、整備のねらいや効果についての明確な説明が必要だ。また、整備の結果何が変わり、保護者や市民から学校がいかに評価されることになるのかについても説明する必要がある。

  深谷市では、「子どもたちに確かな学力を身につけるためにICTを活用して分かる授業を実現する」「同時に教員の指導力向上につなげる」ことをICT環境整備の目的としている。例えば、学習指導案にICTを活用する題材を明確に位置付けて教員にしっかり理解してもらい活用してもらう。その結果を定期的に検証し効果を測っている。

  ICT研修については、教育研究所内に教室環境と同じ機器を備えたセミナールームがあり、学校と同一環境で研修ができるようになっている。また、PC室の環境を再現した情報教育センターもある。こうした取組みを順序だてて財政サイドに説明していくことで、予算獲得につなげている。

  平成22年には深谷市版「事業仕分け」が行われ、厳しい指摘も受けた。それを受け整備計画を一気に見直し、一括購入によりPC1台当たりのコストを65%に押さえるなどして、必要なICT環境整備を推進している。

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上尾市教育委員会 松本秀之 指導主事

デジタル教科書大量導入
土日の自主研修が増加

教育委員会対象セミナー  埼玉県・上尾市教育委員会は、「夢・感動教育 あげお」を基本理念に掲げ、教育行政を推進している。学力向上については、電子黒板やデジタル教科書などのICT機器の活用を図っている。ICTの推進に向けては、教育委員会内に設置した「上尾市学校ICT推進運営委員会」がICT推進の方針を示し、小・中学校の教員で構成した「上尾市学校ICT推進プロジェクト委員会」が実行している。

  上尾市では平成21年度にデジタル放送に対応するため大型液晶テレビ(52インチ)を導入し、小学校は全普通教室に1台、中学校は各階に2台以上配備した。この大型液晶テレビを電子黒板として使用できるよう「インタラクティブユニット」(内田洋行)を導入し、小学校は大型液晶テレビの3〜4割、中学校は1校につき3〜7機の「インタラクティブユニット」を設置した。

  デジタル教科書については、新学習指導要領の全面実施に伴い、小学校では平成23年度から、中学校では平成24年度から使用されている。授業で活用した教員からは、「書写では、筆順が分かりやすくて良い」、「動画は授業の導入部に使用すると効果的」などの声が寄せられている。

  デジタル教科書を導入した教科は、小学校が、国語・書写・算数・図画工作(指導書添付)・家庭科(指導書添付)・外国語活動(文科省配布)、中学校が、国語・社会・数学・音楽・美術(指導書添付)・技術・家庭(指導書添付)・外国語。小学校では、より多くの学年で活用できる教科として国語・書写・算数が選ばれた。全教員がデジタル教科書を効果的に活用することで、授業改善につながることを期待している。

  また、上尾市学校ICT推進プロジェクト委員会では、教員による自作のデジタルコンテンツを使った事例や、実際に授業で使用されたデジタルコンテンツを集めて、グループウェアからダウンロードできるようにしている。「デジタル教材を授業改善のツールとして役立ててほしい」と松本氏は語る。

  ICTを推進するには教員の活用能力を高めることが重要だ。そこで、電子黒板やデジタル教科書の操作法や活用法について指導するための研修会を開催している。平成23年度は年間8回実施、今年度は6月までの3か月で16回実施した。

  土日や放課後に開催している「教師力アップ講座」では、教員が多忙な中でも参加しやすいよう、同じ内容の講座を3日連続で行うなど、より多くの教員が研修を受けられるように配慮している。

  上尾市では、「教師が変われば、授業が変わり、学校が変わり、子どもが変わる」を合い言葉に、ICTを積極的に活用して子どもの学力向上を目指している。

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横浜市教育委員会 宮野太志 指導企画課

全小中学校をクラウド化
大規模自治体の先行事例

教育委員会対象セミナー 横浜市は、小学校345校・中学校149校、教員数約1万5000人もの大規模自治体だ。平成21年度のスクール・ニューディール政策による補正予算で整備したPCは約2万8000台、そのうち校務用は約6000台であった。当時成績処理等は、小学校の8割程度がエクセル等で作成した独自システムを使用しており、異動のたびに新しい操作を覚える必要があった。そこで横浜市では校務用のPCをより有効に活用し、教員の事務を効率化するためにシステムの統一化に取り組むことを決め、平成23年1月に策定された横浜市教育振興基本計画の目標の1つに「平成24年度までに全小中学校に校務システムを導入する」ことを位置づけた。

  平成23年度は全小学校において、校務支援システムを構築、その基盤としてプライベートクラウドを導入。クラウド化したものは、アプリケーションサーバ、データベースサーバ、外字サーバ、操作監視サーバなど。そこに学校からアクセスできるようにした。クラウドは、災害の際にすぐに確認できるよう、横浜市内に設置。高耐震性を持ち、災害時も電源確保ができるようにした。横浜市では月1回定例会を開催し、利用状況や稼働状況について確認、把握している。

  クラウド化のメリットは、リース入れ替え時期に発生するネットワークやサーバの再構築、データの移行などの作業でシステムが停止しないこと、アプリケーションの追加が柔軟に対応できること、一定レベルのセキュリティが保たれることなどだ。
ハード保守・運用・監視体制が全て提供される点も大きなメリットだ。セキュリティ等の定期的なメンテナンスや最新バージョンへの更新、アプリケーションの稼働状況の管理、操作履歴が残ることによる不正操作の検出、定期的なバックアップ、専用回線などが全て含まれて提供される。通常の調達の場合、運用業務ごとに契約が必要だが、クラウド化することで、大幅なコストダウンが実現する。

  同程度のシステムの運用経費を試算して比較すると、専用回線費用なども含めると年間2割程度のコストダウンになるとしながらも、「さらに検証、確認が必要」であり、1年ごとの更新ではあるが当面は運用を継続し、5年間リースする通常の場合など、様々な角度から検証する考えだ。

  現在は中学校の校務支援システムを公告中で、それが決まり次第全中学校での基盤整備に着手する。

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【2012年8月6日】

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