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平成21年度補正予算による「電子黒板等を活用した教育に関する調査研究」事業は、全国115校の担当者が集まる研修会のさ中、事業仕分で「廃止」が決定した。3年間の予定であった調査研究は4か月足らずで終了し、国の支援がなくなった。岐阜県・関市立武儀西小学校(武藤好美校長)も、そのうちの1校だ。しかし同校で2月に実施した調査研究公表会は高い評価を受け、本年は関市の指定を受けて研究を継続中だ。研究主任の小井戸政宏教諭に、その取り組みについて聞いた。
▲ 小井戸教諭
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岐阜県・関市立武儀西小学校
武儀西小は全校生徒数50人足らずの小規模校だ。小規模校ならではの電子黒板活用を、ということで岐阜県教育委員会から同校に与えられた課題は「英国型授業モデルの実践」であった。「英国型」とは、少人数学習を基本とし、子どもたちが電子黒板を触りながら学び合うサッチャー政権時に提唱された学習スタイルを指す。
昨年度1年生担任であった小井戸教諭は、電子黒板を活用することで、学級目標「討論のできる学級づくり」に取り組んだ。「討論や話し合いを成立させるためには、互いの意見を尊重することが重要。それは信頼し合っていなければできないこと。これが年度末までにできれば、いい学級作りであったと判断できる」と考えた。
そこで活躍したのが、「国語デジタル教科書」(光村図書出版)だった。
「話し合いを実現するには、自分の意見や考えの根拠となる部分を明確に示し、周囲に確実に伝えていく必要がある。そのためのツールとして、デジタル教科書は子どもたちにとって大変使いやすかった」と言う。「根拠を明確に示す」活動は、PISA型学力を意識したものでもある。
▲ 板書に整理しながら意見交換
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デジタル教科書を使えば、教室前方に大きく教科書画面が提示され、「根拠」となる言葉を確実に伝えることができる。書き込む線は、「Aくんの引く線は赤」、「Bさんの書き込みは青」など、子どもごとに色を変え、誰がどの言葉に注目したのかがひと目で分かるようにした。同じ文言に複数の子どもたちが何度線を引いても混乱しにくい。
さらに小井戸教諭が評価するのは、「音」だ。
「デジタル教科書のページをめくったときの効果音が気持ちいい。その瞬間、発表する子ども、聞いている子ども、双方の意識が集中する。皆の視線を集めた子どもは発表することに喜びを感じ、聞いている子どもは、集中して聞いているため理解しやすい、理解できるとうれしい、という良い循環が生まれ、効果的な話し合いに結び付いた」
こういった経験の積み重ねから、話す、聞く、理解する、発表するという「話し合い」の基礎となるべき素養が鍛えられていく。その成果が、2月の「公表会」で披露された。
▲ “根拠”を明確にして意見を発表する
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当日小井戸教諭が公開したのは、1年生物語教材「たぬきの糸車」で、「物語の続き」を考え、話し合う活動だ。
休み時間、子どもたちは、本時の課題「たぬきは、また山小屋にくるか」について、自分の考えを黒板に書いておく。その考えの根拠については各自が教科書に線引き済だ。児童は予め、お互いの意見を把握してから授業に臨む。
本時では、同じ考えの人と仲間をつくり、意見交換をする。「また来る」理由、「もう来ない」理由について、考えとその根拠について交流しつつ、仲間の考えを取り入れながら自分の考えを再構築、発表した。ある児童はデジタル教科書の挿絵を指しながら「たぬきの頬が赤くなっているので、結婚するつもりだと思う。だから戻ってくる」と発表、教室中がその発見に沸く場面も見られた。
当日参観した他校の教員からは、「発表内容がよく整理されており、仲間も納得する話し合いになっていた。子どもたちの息の長い話しぶりに脱帽」、「電子黒板に映ったデジタル教科書に線を引いたり、囲んだりしながら意見を述べており、素晴らしかった」、「子どもたちは話し合いに集中しており、ICTによってより良いものになっていた。話し合いの道具として、デジタル教科書と電子黒板を使う必然性を感じる内容だった」と、高い評価を得た。
◇ ◇
小井戸教諭は、本年は研究主任として全学年をサポートしている。同校では、「電子黒板ならでは」「電子黒板の方がよい」「電子黒板でもよい」という3つの観点から活用評価を行うなど、研究を継続中で、12月には全学級で公開授業を予定している。
「デジタル教科書は、使い勝手の良さはもちろん、著作権的に安心して使うことができる。教科書本文をコピーして貼り付けて電子黒板に映せる自作教材で授業をすることもできるが、著作権的に、教材として他教員と共有することができない。デジタル教科書があれば実践例として共有できる」と話す。
今後も、話し合い活動や討論活動に電子黒板やデジタル教科書を活用していくという。
▲ 武藤校長
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武藤校長は、「電子黒板が全教室に配備されてからわずか3か月足らずで研究公開をしなければならず、当初は、大変なことになった、という雰囲気もあった。しかし全学年で授業を公開し合い研修を重ねていくうちに、次第に職員室では『どのコンテンツが電子黒板に有効か』などの話題が増えていった」と話す。
公表会には300人以上が参観、教室に入りきらないほど盛況で、当日はフロアにテレビを設置、授業の様子をリアルタイムで放映した。「公開授業を経たことで、発表の場、他校との交流の場が増え、教員の意識も大きく変わった。電子黒板研究事業の廃止は残念だが、岐阜県、関市、教育事務所などから研究指定校として物心両面におけるバックアップを得られたことは、教員の研究活動の大きな支えとなっている」と述べる。今後も、岐阜県で初めて電子黒板が全教室に入った学校として、地域の情報教育の「核」としての責任を果たしていく考えだ。
【2010年9月4日号】