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本年度、総務省はフューチャースクール構想で児童生徒1人1台端末所持とそれに向けたデジタル教材について検証を始めるが、総務省・ユビキタス特区事業(平成21年度)では、和歌山市内小学校5校の高学年児童全員にモバイル端末(Apple社iPod touch/8GB)を計800台配布、教科学習を支援する実証実験を行った。その取り組みについて豊田充崇氏に聞いた。
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豊田氏は、モバイル端末について、「計算機程度の大きさなので机上に教科書やノートを置いた状態でも邪魔にならない。バッテリも1週間程度持ち、どこにでも持ち歩ける。また、各種辞書、百科事典、地図帳、計算機、メモ帳などとして利用でき、校内無線LANにつながっていればネット利用での調べ学習もできる」と、情報端末としてのメリットを挙げる。この特性を利用し、家庭学習も視野に入れた教科支援に取り組んだ。和歌山大学システム工学部と共同で専用アプリケーションを開発し、「デジタル教材」として提供した。これは主に「教育用画像素材集」(独立行政法人情報処理推進機構)から小学校高学年の授業での活用が想定される映像を約100本選択、変換したもの。なお、「教育用画像素材集」は、学校教育用途であれば2次的利用も含めて許可されている。
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▲ 教室内で調べ学習や見本映像の視聴に活用 |
社会科では、「デジタル教材」として太平洋戦争の記録映像を活用した授業を試みた。太平洋戦争の復習場面で「映像から情報を読み取る、既存の知識からその映像について考える・予想する」という取り組みだ。
真珠湾攻撃時の凄まじい映像や飛行訓練をする子どもの映像を提供、児童が「何の映像か」を考えてワークシートに記入する。この時点で答えは提供せず、家庭学習として保護者などとモバイル端末で映像を見て、考えた内容を記述する。
何の映像か予想もつかなった児童は、保護者のアドバイスに感心したり、保護者が中学校の教科書を読み返すなど、家庭内で共同して学習する様子も見られたという。
このほか、家庭学習や朝学習などに短時間で集中的に取り組める教材を収録した。
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英単語が日本語で何を意味しているものかを5つの選択肢から選ぶことで聞く力を鍛えるリスニング教材や、出題される短文中のカタカナの漢字を指で画面上に記述、「書き順」を確かめることができる漢字学習、歴史人物や算数の図形など、各教科に関する知識問題を◯×形式で出題する「○×クイズ」など。
地域性のあるコンテンツとして、和歌山県内の著名な史跡に関連する「和歌山クイズ」も収録。児童の知識の有無を問うものではなく、大人と一緒に考え、教えてもらいながらやりとりすることを想定した。遠足や社会見学の事前・事後学習に利用することもできる。
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豊田氏は「モバイル端末によって授業を変えるのではなく、従来の授業が抱える課題を改善するための支援ツールという位置付けで考えることが、学校教育現場に受け入れられ、かつ求められる道筋では。保護者(家庭)との交流や、学校間交流のためのツールとしての可能性も広がる。大人は情報機器やインターネットの利用から児童を遠ざけたり、監視・統制しがちであるが、“技術立国”の初等教育として、どう指導体制を固めるかについては検討の余地がある」と指摘する。
【2010年7月3日号】