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最新IT教育―実践、成果を報告― |
校務用PCの教員1人1台配備に伴い、学校業務のICT化が進んでいる。出席簿管理から指導要録の電子化、成績の分析、学校評価への対応、子どもたちの健康情報管理、給食センターとの連携、給食費や教材費他各種出納関連作業など、校務の情報化にはあらゆる可能性があり、それに向けて一歩一歩進んでいる。
さらに東日本大震災で児童生徒たちの貴重な記録がすべて流されてしまった状況から、学習指導要録や通知表など子どもたちの情報の電子化の必要性は、一層高まったといえる。
全国的に導入が進む中、導入後の活用度は自治体で温度差がある。「校務の情報化」必要性の認識が広がっているにも関わらず、スムーズに進まない場合の課題はどこにあるのか。成功事例取材を通して、スムーズかつ短期間な導入事例における共通点が明らかになってきた。
● 緊急時に対応できるメール配信システムを【柏市教育委員会】【旭市教育委員会】【印西市教育委員会】
成功事例に 学ぶべき点
校務の情報化を円滑かつ短期間に進めるための成功スタイルが明らかになってきた。
まず、段階的な導入だ。ITは、プログラム次第でなんでもできてしまう性質を持っている。ひとつひとつが単純な機能であってもそれを全て見せることは、理解しなければならないことが一度に増えてしまうことにつながる。
その一方、ある程度使い方を身につければ、応用がきくもので、カンが働くという面もある。
大規模自治体ほど導入・運用には課題が増えるが、スムーズに進んでいる自治体は、スタート地点での使い方を限定している点に共通点がある。
「いろいろできるけどとりあえずこれから始める」というスタンスがポイントだ。
教員ニーズの満たし方にはポイントがある
千葉県印西市では、導入時、連絡メールシステムを単純な使い方のみ示し、現場からやりたいことが出てから示すというスタイルを徹底している(詳細はこちら)。愛知県豊田市でも、ゴールを成績情報の電子化としながらも、当初はグループウェア導入からスタートした(詳細はこちら)。学校単位でもこれは同様で、宝仙学園小学校では、出席の入力方法を教員ニーズに従って段階的に進めている(詳細はこちら)。
段階的な導入は、教員ニーズを満たすことにもつながるが、単に「教員ニーズ」を満たしているだけではない、という点に注目したい。
「やりたくない」というニーズではなく、全て、実現したいゴールに向かった「ニーズ」となっている。成功事例には、例えば「これしか使わせてもらえない、もっといろいろできて便利になるはずなのに」、「こんなことをやってみたい、できそうだけどどうやるのか」といったニーズが現場から出るまで、少しだけ待つ姿勢がどこかに見られる。
次に、教育長のビジョンが明確であること、それを踏まえて管理職、情報関連の担当者、各校の情報担当者、情報教育指導主事や財務課を始めとした市庁部局が組織を作り、システムを提供する企業と連携していくこと。成功している自治体はビジョンを示し、それを実現するための組織が機能している。組織作りは大規模自治体ほど必要といえる。
仕様検討の際の"べからず"事項
システム導入者との調整にもポイントがある。
最初に伝えるべきは「どんな機能を導入するのか」ではなく、ビジョンに従って、どんなことを実現したいのか、を明確にし、それをシステム構築担当に伝えること。
様々なことができるシステムのどの機能を入れるのか、についてひとつひとつ詰めていくことは膨大な時間がかかる。しかも本来の目的から離れてしまいがちとなることも多い。
何を実現したいのかを最初に伝えることで、システム構築を担当する専門家の知識が生きてくる。
愛知県・新城市教育委員会は、昨年、校務の情報化とそれを通じての教育の質の向上の実現を目的として、全国の自治体を対象に、グループウェア、成績管理システム、学校CMS(学校ホームページ作成・管理システム)の3項目について「校務支援システムの導入と活用に関する調査」を行った。自治体主体での全国調査は珍しい。導入されている校務支援システムの具体例も示された。なお調査は平成22年8月に行われており、それ以降に発売されたものは含まれていない。
"成績管理"電子化必要
調査は、20校以上の学校を抱える全国477の自治体を対象に行われ、半数を超える260の自治体より回答を得た。
調査によると、最初に導入されるのが「グループウェア」であり、次いで成績管理システムや学校CMSが導入されていた。また、学校CMSについては、単独で先行して導入する自治体もある。「グループウェア」を全校に導入している割合が53・5%と最も高く、「学校CMS」29・2%、「成績管理システム」13・1%と続く。
また、「成績管理システム」を全校に導入している自治体は、「グループウェア」91・2%、「学校CMS」61・8%を既に全校に導入している。
実際に導入した製品を調査したところ、平成22年8月の時点で、グループウェア、成績管理で最も多く導入されていたのは「EDUCOM マネージャーC4」(エデュコム)。「スクールオフィス」(東日本システム建設)、「SA@スクール」(富士通)、がそれに次ぐ。
成績管理システムについての導入率は、「EDUCOM マネージャーC4」、「スズキ校務」(スズキ教育ソフト)、「スクールオフィス」の順。
学校CMSについては、「エデュコムスクールWebアシスト」(エデュコム)、「NetCommons」(国立情報学研究所)、「OPEN SCHOOL CMS」(内田洋行)が続いた。
これらシステムの活用状況については、「グループウェア」77%、「成績管理システム」58・8%、「学校CMS」78・9%の自治体が、約80%以上の学校で活用していると回答した。
1校あたりの校務支援システムの導入費用に関しては、200〜400万円(16・4%)と、25万円以下(24・3)の2つが大きな割合を占める。「成績管理システム」を導入している自治体について導入費用帯を分析すると、200万円以上の自治体が全体の75%となる。
通知表や成績管理の電子化について、「通知表や指導要録、調査書作成の電子化は、転記作業の軽減、転記ミスの防止、評価や通知表の質の向上などに有効である」と考えている自治体が約85%にも上った。これらの電子化については、今後校務の情報化の柱と考えている自治体が多く、「そう思わない」は3・8%にとどまった。
神田博幸氏 |
教育家庭新聞教育マルチメディア号で、採点業務を効率化できる自動集計採点ペン「手書き採点リンクCS3・0」(以下、「採点リンク」)のモニター募集を行ったところ、教育委員会や小中高等学校の教員から多数の応募があった。かねてから「採点リンク」に興味を持っていたという長野県上田市教育委員会学校教育課・指導主事の神田博幸氏に、応募の動機と使い勝手、学校現場での反応について聞いた。
「業務改善」をテーマに検証
上田市では、電子黒板は全小中学校36校(小学校25・中学校11)に各1台、50インチのデジタルテレビは各学年1台以上、書画カメラは各校1台以上整備されている。教師用PCの全教職員配備は平成18年度中に達成しており、主に教材作成や校務文書の作成などで使っている。校務用PC配備が早期に終了しているものの、校務支援システム等は未導入。導入の検討は視野に入っているが、予算との兼ね合いもあり、学校教員の多忙さを軽減するという課題解決に向け、現在研究中だ。
「学校では、採点業務やアンケート集計などの作業量が以前より増えており、それに多くの時間を費やさざるを得ない状況。その作業量の多さは子どもたちと接する時間の確保に少なからず影響を与えている。そこで、その部分を改善できるツールを検討している」と言う。
「採点リンク」については、「学校教員の業務の煩雑さの軽減になるのでは、と以前から気になっていた。まず使い勝手を試してみたいと考えていたので、モニター募集は良いきっかけになった」と話す。
採点と同時に集計が終わる!
▲採点終了と当時に得点が集計される |
導入を検討するにあたっては、現場の先生の反応が必要だ。
そこで、全小中学校に文書で「採点リンク」を紹介し、試用する教員を募ったところ、3校から応募、2校から問合せがあったという。教委からの募集が2月に入っていたこともあり、応募は主に中学校からであった。
上田市では、学期末試験が2月末にあり、公立高校の後期入試は3月上旬に実施される。「募集時、中学校では、各校が入試に向けて様々なテストを実施する追い込み時期で、採点業務が集中する時期だった。新学期から秋にかけての募集であれば、全国統一学力テストの実施学年を中心に小学校からの応募が増えたのでは」と話す。
実際に試用した中学校2校からは、「思ったより役に立つ。○、△、×の認識がほぼ間違えなくできた」、「簡単に使え、文具として特化されている点が良い」、「今まで丸をつけた後に点数を入力していた手間が減った」、「点数をつけた後エクセルに手入力する手間が減った」、「以前より丁寧にマルつけをするようになったので、間違いが少なくなり、点数の計算間違いがなくなる」など、短期間ながら活用効果があったという声が届いた。
つまずく傾向がすぐに分かる
各校では具体的に、これまで抱えていた問題がどのように改善されたのか。
A中学校からは、「生徒別の誤答傾向が分かり、例えば成績上位の生徒であっても、どの問題でつまずくかが良く分かった」、「出題した問題が生徒の実力に対して適正かどうかが分かり、細やかな事後指導の手立てに役立った」など、よりきめ細やかな指導に役立つという回答が多かった。
業務改善効果については、「1クラスにつき、名簿に集計して平均点を出す10分間と成績分析にかかる20分間が軽減できた」、「採点が終わると同時に得点集計が終了する。これまで手入力していた集計作業は、コピー&ペーストの手間で済む」など。使い勝手に慣れると、そのメリットが享受できるという感想が多いという。
観点別評価表でより正確に分析
便利であると感じた機能は、「正答の時と誤答の時の音が違うので、PC画面を見なくても適正かどうかが分かった点」、「△をつけたときの手書き読み取り機能」、「×では、斜線だけでも×と認識する点」、「観点別評価表」などだ。「観点別評価表はとてもありがたい機能。細かい問題ごとに観点が設定できるので、より正確な分析ができるようになる」という。
今後は「新年度最初の期末テストで簡単な問題での新入生と在校生の理解度の違いを1問ずつ調べるのに使用したい」という声も聞かれ、様々な活用アイディアの可能性がありそうだ。
上田市では全校に情報教育担当がおり、定期的に情報教育研究協議会を行っている。協議会には小グループ研究会があり、今日的な課題に対応している。今年度のテーマは、ICT機器の在り方、情報モラル教育、ソフトウェアの活用、校務支援など4グループを設置。本年度は、協議会や小グループの中で、「採点リンク」も含めた様々なシステムや、導入して3年目を迎えたデジタルテレビ・電子黒板のスムーズな利活用のための事例を紹介、情報交換を行っていく考えだ。
◆手書き採点リンク CS3.0
赤外線でペンの動きを読み取る仕組みで、採点するだけで自動集計できるシステム。採点用紙はA3大まで対応。「○」「×」「△」の認識ができる。「△」の場合、手書きの部分点の認識(△2、など)もできる。
採点済みデータは、瞬時に成績表、正誤表、観点別評価表ほか、各種成績データとして表示できるので、事後指導に役に立つ。