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はじめに
2011年に公立小学校5、6年生から英語が必修化されることになった。現場の先生方はその準備や対策に追われている。文部科学省は『英語ノート』を作成し、導入に向けて準備態勢を整えている。これまで「国際理解教育」という枠組みの中で、全国の90数パーセントの小学校で、すでに外国語(英語)教育が実施されて来たのであるが、地域による取り組みの温度差は大きく、必修化されるとなると、本格的な取り組み方や中学校との連携など、深刻な問題への対応が求められる。
本稿では、これから小学生に英語を教える先生方を対象に、最近の外国語習得論の基本的な考え方とそれに基づいた指導法について具体的な例を挙げながら述べて行きたい。
隣国の韓国では1997年から3年生から英語を小学校に導入したのであるが、2008年から1年生に下ろしている。また、台湾でも5年生から実施していたのを3年生に下ろしている。現場の先生方も異口同音5、6年生では教え難いという声が多く、英語導入は1年生からが望ましいという声が高い(ベネッセ教育研究開発センター編『第一回小学校英語に関する基本調査』報告書)。日本児童英語教育学会(JASTIC)では、3年生からの英語導入を文部科学省などに訴えている。将来的には小学校低学年からの英語導入を目指すべきであろう(詳しい私見については『日本の論点2009』(文芸春秋)の拙稿参照)。
「ことばはどのようにして習得されるのか」という問いに対して大抵「母親のことばを真似て覚える」という答えが返って来る。この答えは部分的にしか正しくない。模倣によって覚えることばは挨拶語とかお礼といったいわゆる決まり文句だけで、母親や周囲からシャワーのごとく掛けられることばを手掛かりに、徐々に、脳の中で文の仕組みや構造を構築して行くのである。その過程は極めて創造的である。脳の働きから行くと、脳の後部でことばが理解され、側頭部で記憶・蓄積されて前頭部から徐々にことばが発せられるので、ことばを吸収して、発話されるまでには時間がかかるのである。幼児は一歳半頃まではことばは理解できるが、ことばを発することが出来ず、徐々に、1語文から2語文、多語文の発話能力が育成されて行くのである。
最近の脳の研究で、母語と外国語とは同じ習得過程を取ることが明らかにされており、母語の習得過程に沿った外国語指導法が奨励されている。
その過程は試行錯誤的で誤りを犯し、それを、自己訂正しながら、ことばの規則性を発見し、いわば、ことばを紡いで行くのである。従来は、教師が与える外国語の音声や文を「忠実に真似て、覚えて行く」という習得観が見直され、教師と学習者とのことばのやり取りの中で、ことばを徐々に構築して行くのだとする考え方が支配的である。こういった言語習得観を踏まえ、指導のあり方を考えて行きたい。
1)ことばを豊富に与え、先ず、理解能力をつける。
ことばの習得順序として先ず、ことばを事物や絵を使ってことば掛けを豊富にし、先ず、理解能力の養成に力を入れる。
例えば、絵を見せながら、教師が語りかける。
とゆっくり語りかける。絵本の読み聞かせも効果的で、筆者が参観した韓国の小学校でも「読み聞かせ」をジェスチャーたっぷりに行っていて、生徒は熱心に聞き入っていた。最近はCD付の絵本もあり、何度も聞かせることによって理解力が養成され、発音力も培われる。
カセットやCDに易しい絵本やストーリーをALTに吹き込んで貰い、家に持ち帰り、聞かせると効果的である。ある小学校の3年生児は次のように、述べている。
「英語の文章が読めるようになり、イメージで意味がわかるようになった。なぜか。理由は2つある。1つはCDを毎日聞き流していることだ。覚えようとしないが、毎日読んでいれば、勝手に頭が覚えてしまう。2つ目は英語の絵本を音読、暗誦することだ。」
第2言語習得研究で、「沈黙の期間」(silent period)の大切さが指摘されている。つまり、英語を聞いたり、読んだりしている間に自然と英語力が脳の中で養成され、徐々に、英語が発せられるようになるのである。ICTを活用し、絵本の読み聞かせを十分することによって、英語の音声になじませることが大切である。1週1時間では英語の入力量が少ないので、できれば、CDなどを家に持ち帰って聞かせるようにする。
2)初期の発話練習――1、2語文で返答
最初は、絵や事物を見せながら、簡単な質問をする。その際、聞いた文に対して、1語文や2語文で答えさせ、完全な文での返答を要求しない。例えば、次のようなやり取りが考えられる。
3)第2言語習得者は初期の段階では繰り返し現れる事項や定型表現(決まり文句)にさらされる。
楽しい歌やゲームによって英語の語句に親しませる。チャンツで会話(決まり文句)をしっかり聞かせ、動作と共に再生させる。
小川(2006)はチャンツを活用した指導例を紹介している。チャンツで英語の基本表現を身につけさせ、近の高校生を招いて、簡単な英会話を楽しむ、という作業を実践している。
「チャンク(chunks—文や語句の固まり)は繰り返しの練習によって覚えてしまうと頭の中で分解させ、自分が意識しないのに、整理され、必要な時に必要な表現がポンと取り出して言えるような状態に保たれます」
と、長年小学校の英語指導に当たっている教師が述べている。(小川、2006、13頁) また、チャンツの威力を次のように述べている。
「リズムの指導はチャンツが最適です。チャンツの指導は繰り返し聞かせ、聞こえたところから真似させます。体でリズムを取りながら聞かせるとさらにいいでしょう」(同上、15頁) ※『日本の論点2009』(文芸春秋)より
筆者も授業を参観させてもらったが、生徒のチャンツ指導に対する積極的な反応に深い感銘を受けた。
例えば、次のようなチャンツを何度も聞かせると、固まりとして文を覚えてしまうので、文のリズムと音調が自然と身に付く。
( Carolyn Graham, Jazz chants for Children, Oxford University Press)
4)動作と音声をセットにして徐々に英語の発表能力をつけて行く米国のアシャー(. Asher)が考案した
「全身反応法」(TPR)という教授法は初期の段階で効果的である。
1, you’re going to wash your hands.
2, Turn on the water.
3, Pick up the soap.
4, Wash your hands
5, Rinse your hands.
6, Turn off the water.
最初は先生(ALI)が発話と動作を繰り返し、生徒は発話しないで動作だけを真似る。充分に理解能力がついた段階で先生の発話を真似て動作とともに発話を繰り返す。
充分に発話能力がついたら、生徒同志で先生役と生徒役を交代でやらせる。
動作を伴った音声は記憶されやすいことが脳科学で明らかにされており、「筋肉記憶」と通称呼ばれている。
参考書 E. Romijn & C. Seely Live Action English.
Alemany Press.
田崎清忠編 『現代英語教授法総覧』大修館書店
5)英語劇の活用
最初は、次のような短いskit(短い会話)から始め、
発話能力がついてきたら例えば「大きなかぶ」(Big turnip)のような簡単で、豊富な動作を伴った英語劇をやらせる。世田谷の小学校では英語劇の活用で大きな効果を上げている。
英語劇は動作や感情が豊かで、最近注目されている協同学習(collaborative learning)に適している。新潟県長岡市の小学校では「米百表」という英語劇をALTの協力を得て、見事に演じ、父兄を招いての発表会を開き、大きな反響を呼んでいる。各地域での歴史や文化を紹介するような英語劇を創り上げ、演ずることによって自文化紹介に役立ち、それが異文化教育への関心を育てることになろう。例えば、This
is Chiba. をテーマに成田空港などについてALTの協力を得て、英語で簡単な文章や対話文を作ることが出来るでしょう。
6)英語の図書や教材を豊富に揃え、貸し出しをする。
筆者が訪問した金沢市の教育センターには豊富な教材がプールしてある部屋があり、そこからいつでも必要に応じて、貸し出しが出来るようになっていた。各学校で創意工夫が凝らして作成された教材を共用するシステムが出来上がっているのである。
7)母語習得で個々の音よりも音調(intonation)の方が先に習得される。
/l/や/r/と言った個々の音が少々間違っていても、音調さえしっかりしていれば伝達に差し支えないといわれている。CDやICTを充分活用し、英語 を充分聞かせるようし、英語の音感を養うようにする。英語を読ませたり、発話させる場合、/l/とか/r/と言った個々の音に余りこだわらず、リズム感をつかませるようにする。
先ず、英語のリズムや音調は歌やチャンツなどで初期の段階でしっかり身につけさせることが大切である。
8)「教室英語」(classroom English)を活用する。
次のような教室英語を用意し、出来るだけ英語で指示を与えるようにする。その際、英語で指示を与えて反応しない場合は日本語を添えるようにする。例えば、Repeat after me.と教師が言って反応が無い場合は「後について言って下さい」と日本語で言ってあげる。
教室英語を多用することによって教室に英語的雰囲気を作り、先生の使う教室を毎日聞くことによって、生徒は先生が使う「決まり文句」に慣れ、それが生徒の英語力になって行くし、引いては先生方の英語力アップにも役立つでしょう。
参考書:『小学校の教室英語フレーズ集』アルク(CD付)
本書には教室英語だけでなく、ALTとのコミュニケーションに役立つ表現や教室で活用できる表現集も付いている。
『教室英語ノート』松香フォニックス研究所(CD付)
9)生徒が活用できる表現を用意する。
ある学校の教室に生徒の使える表現集が壁に貼ってあった。
10)身近な英単語を簡単な会話文の中で活用する
A: Do you like bananas? B: No, I don’t. I like oranges.
その他 身につけるもの(bag, cap, socks)、乗り物(bus, train, plane)ゲーム(cards,
video game) 。国名(Egypt, Brazil, France)など。
A: Do you go to school by bus? B: Yes, I do. How about you?
B: I usually walk to school.
カタカナ語を活用することによって、英語と日本語の発音の違いや英語の発音の特徴などを教えるのに役立つ。親しみのある英単語を英語の対話文に入れることによって、より英語に近親感を持たせることになる。
参考書 『みつけた!みじかな英単語』CD付、学研
1)低学年
2)中・高学年
3)インターネットやホームページによる英語活動や指導法の紹介
a,英語学習全般について
http://www.britishcouncil.org./learnenglish.htm
b,成人学習者向け
http://www.britishcouncil.org/central.htm/mtklink=central-learnenglish-portal-main-promo▼これらのサイトでは次のことができる。
自分のレベルを確かめる。
テーマに沿って練習する。
リーディング・ライティング・リスニングを練習する。
ごいを増やしたり文法を学習する。
参考図書
【2009年04月04日号】