インターネットの教育利用−その課題と展望−

 

 学校にインターネットが急速に普及しつつある。約4年前、インターネットに接続している学校はわずか100数校だったのが、今では約1万校に。文部省の2003年までに全校を接続するという計画も推進され、また補正予算で学校に光ファイバーを設置するなど新たなインターネット接続事業も発表されている。100校プロジェクトの経験を踏まえ、OCNスクールパックという簡単に常時接続、独自ドメインでインターネットが利用できる安価なパッケージ商品も発売されている。本紙では、先駆的な役割を果たした新100校プロジェクトの参加校、またOCNスクールパックの導入校の先生方に名古屋に集まっていただき、「インターネットの教育利用−課題と展望を探る−」と題し、今後の展望を語ってもらった。(教育家庭新聞98年12月5日号)

出席者

宮澤賀津雄教諭(川崎市立川崎総合科学高校)

奥村稔教諭(北海道旭川凌雲高校)

安部冨士男教諭(私立盛岡白百合学園高校)

浅尾浩史教諭(大阪市私立城星学園高校)

玉井基宏教諭(広島市立鈴張小学校)

本村金三教諭(沖縄県立美里高校)

 

活用の現状とOCNスクールパック


 宮澤 今日はインターネットの教育利用をテーマに皆さんにお話しいただきたいと思います。まず簡単に先生方の現在までの取り組みなどについてご紹介願います。

 奥村 旭川凌雲高校の奥村です。情報システム部で校内の情報化などを担当していますが、なるべくフリーな形で昼休みや放課後も自由にインターネットを使ってもらっています。先生方も授業の中で使うようになり、校内のインフラとしてのインターネットは整いつつあります。インターネットの本当の有用性を活かした教育利用ができるかという基本的な問題を考えるようにしています。今回名古屋に来ているのは、自律的広域学習環境を構築しようというプロジェクトを企画しており、その一環である「高校生の集い」が開催されているからです。

本村 今年で新100校プロジェクトが終わりますが、プロジェクト参加校の沖縄県立美里高校でも今年はできる限り多くの成果を上げていきたいと思っています。このプロジェクトに参加して以来、実践面では電子メールで交流している生徒同士が、時々実際に顔を合わせると、今までと違うおもしろい生徒間の交流ができつつあったり、様々なところでインターネットの効用を実感しています。本村金三先生

インターネットの効用を実感している

玉井 今は来年度の予算に一番頭を悩ませていますが、100校プロジェクトの参加校として、これまで先験的な経験をいろいろとさせていただきました。この経験を身近な学校関係者に還元したいと思っています。
 安倍 平成6年にやっとコンピュータを導入し、同時に100校プロジェクトに応募し参加しました。振り返ると何か、環境の整備だけをいつもしていた感じがします。本当に教育に利用したいと思っていましたが、今年3月にOCNスクールパックを導入したおかげでインフラ整備から脱却して、「情報、環境、国際交流」をテーマに取り組んでいます。また現在、国連大学、岩手県、建設省岩手工事事務所と共同で北上川を舞台に盛岡から太平洋まで150キロに及ぶ衛星携帯電話やインターネットを活用した環境調査を行っております。安部冨士男先生

 淺尾 本校においては、インターネット接続は2年前にDOS/V機を3台入れ、ダイアルアップから開始しました。今年4月からは国際コースの設置をきっかけに、OCNスクールパックを導入してクライアントを42台接続しています。ハードはうまく機能しており、今後はどのように教育利用していくかが課題です。運営は情報教育係5人でしています。
 宮澤 インターネットを導入して、各学校ともいろんな係を作られておられる。今のお話を聞くと、インフラを整備することに苦労されているようですね。学校がインターネットを利用するときに、運営や保守にかなり時間をとられているのが実状のようですが、どのくらいの時間をメンテナンスに使われていますか。

 奥村 サーバーを管理する身として、面白くて楽しい教育利用を考えいろいろな実践をしていると、日常の保守とかメンテナンスはあまり負担とは思えません。仲間も助けてくれます。

 本村 これまでの状況は、大きな問題もなく何もする必要がありませんでした。一度つながらないというトラブルもありましたが、メーカーのサポートもあり、割合うまくいっています。むしろ生徒が使うクライアントの方が故障したり、大変でした。

玉井 サーバの管理にはかなり時間をとられています。今広島で大学の先生と一緒に「ネットdeがんす」というプロジェクト(http://www.csi.ad.jp/school/gansu/)を立ち上げ、県内の小中高校8校と広島市教育センターで100校プロジェクトと同じ環境を構築しようとしています。プロジェクト関係者でメーリングリストを作っていますが、書きこまれる情報はサーバの設定に関することが大部分です。夏休みから始めてようやく設定が終るような状況です。こうしたことになるべく時間がかからず、児童と接する時間が多くなればいいなあ、と思っています。

安倍 私の場合も、初めの頃はサーバーの管理・研究が仕事の8割を占めていました。残り2割で英語を教えていた感じです。校内LANを組むにも当時は地元の業者もネットワークの知識はあまりなく自分でケーブルを買って張っていきました。OCNスクールパックを入れてからメンテナンスはだいぶ楽になりました。おかげでインターネット利用も教室の枠から出て野外に出かけ、カヌーとインターネットを活用した河川環境調査をできるようになりました。

教育利用にこそ時間をかけたい

淺尾 私自身はサーバーの設定はしたことがありません。サーバーの構築、設定はすごく大変だという話を聞いていました。でも、クライアントを全部インターネットに接続するため、なんとかサーバーは持ちたかった。ちょうどそのころ教育家庭新聞にOCNスクールパックのことが掲載されていたので、これはひょっとしたら、使えるのではないか、メンテナンスも楽そうだと思い、導入しました。実際にOCNスクールパック導入後は、思った以上にメンテナンスは楽で、何かトラブルがあってもすぐに電話で対応してもらえるので安心して使えます。浅尾浩史先生

メンテナンスが簡単にできてこそ

 安倍 そうですね。トラブルが起こると、リモートで対応してもらえます。メールアカウントの登録削除もブラウザの画面でクライアントからできるので、UNIXの知識などは一切要らない。今までかかっていた労力がなくなった分で、教員対象の研修や岩手県民対象のインターネット講習会などをしています。

 奥村 OCNスクールパックの使い勝手はいかがでしょうか。今名古屋で、北海道、愛知、沖縄などの高校生が集まり、交流・討論をしていますが、僕の生徒が学校にデータを忘れてきた。FTPで送ってもらい、つくづくインターネットはいいなあ、と生徒と手を取り合って実感しています。
 安倍 OCNスクールパックにFTPサーバーはないですが、私も地元大学の講師をしていて教材を忘れた経験があります。電子メールに添付して送ってもらい、事なきを得ました。
 宮澤 一般の先生にとって、サーバーの設定はインターネット導入において最初のハードルだと思いますが、その他にインターネットの利用において初心者の先生にとって、何が問題でしょうか。

 淺尾 第一は、メンテナンスですね。授業に利用するとしてもサーバーがダウンしたとき誰が面倒を見るのかという問題があります。第二は、アクセスポイントまでの通信料、つまり電話代ですね。以前はダイアルアップ接続だったので、使用すればするほど費用がかかっていました。それに比べOCNスクールパックのような定額制のサービスは予算化が楽です。また、メールアカウントの発行も初心者の先生にとっては簡単にできないと、導入は難しい。その点OCNスクールパックはExcelやLotus1・2・3などの表計算ソフトを使って、生徒の情報をCSV形式(ファイルの保存形式の一つ)で作っておけば、一括発行でき、削除もCSV形式でまとめて簡単にできます。

 安倍 そうですね。年度末に何百人単位で入れ替えなければならないので、楽ですね。以前は1台のサーバーに1200人以上のアカウントを作っていると言ったら、大学関係者にびっくりされたことがあります。

いかに推進するか

 宮澤 次は根本の部分でお聞きしたい。インターネットの利用形態は、どうなのでしょうか。例えば私が実際に見学し調査したところでは米国の学校では日本の学校のようにメールアカウントを全員に発行するという発想がありませんでした。どちらかというと、Web(ホームページ)を中心に使っている学校が多い。特定の地域ではメールアカウントを発行するのに親と子どもの両方に誓約書を書かせたりしています。日本では、電子メールも使わせよう、Webも触らせようと先生方がいろいろと思われているようですが。

 淺尾 Webは、授業に必要な材料集めに先生方が使っています。授業の中で生徒がWebを利用するということはまだしていません。電子メールは国際コースの生徒全員にアカウントを発行し、海外との交流など電子メールを使って何ができるかを模索している段階です。

 安倍 電子メールの活用が主で、Webは検索してメール相手を探す程度。コンピュータ実習という授業があり、そこではデータベースを作りデータを公開しています。私の授業で、ある時ドイツの高校生から環境問題についての質問が電子メールで飛び込んできました。英語のライティングの時間に調べて英文で送ろう、と40人の生徒に返事を書かせ、私のアカウントから一括して返信すると、先方からお礼の電子メールがきました。しかしその電子メールを拡大コピーして教室に張っても、生徒はあまり感動した様子がない。そこで生徒1人1人にアカウントを持たせ個別にやりとりさせたところ、英語学習に対するモチベーションも電子メールへの興味も非常に上がりました。

 玉井 私もいろいろ試してみました。子どもにアカウントを発行したり、Webで検索して調べさせたり、ホームページ上で訪問者からメッセージを書いてくれるように仕組んだり。インターネットは相手がいるということを、いかに子どもに知らせるかが、ポイントだと思います。教師がこれはすごいと喜んでも、電子メールだけでは子どもが興味を持たない。そこにビデオとか写真とか絵とかを組み合わせていくことが大切。またいかに周りの先生にこれはいいぞ、と思わせていくかも課題です。日本の学校に適した利用が広がればいいなあ、と考えています。

 本村 実際授業で使える先生がいないことも問題の一つだと思います。そこまでやろうという意識が高まっていない。ただ、授業でどう使うかという具体策がないと、予算が取れない。授業での利用方法より、いかに面白く使うかを考えています。生徒は昼休みや放課後にけっこう使っていますが、その方が楽しそうにも見えます。インターネットを使える環境がある、ということ自体、大きな意味を成しているのではないでしょうか。

 玉井 我々の発想は、そもそもすべての子どもに同じようにアカウントを発行して使わせてあげて授業をするというところにありますが、もしかするとそういう発想そのものに無理があるのかもしれない。それぞれの個性に応じて使わせてあげる方がいいのではないでしょうか。

奥村 もしかしたら、生徒全員に公平に同じレベルでインターネットを定着させようというということは、教育の弊害もしくはその一因であるのかもしれません。子どものやる気を引き出したり個性を磨くためにネットワークがあるのかとも思います。奥村稔先生

子どものやる気を引き出し個性を磨くためのネットワーク

 宮澤 ただ全員に公平に与える与えないという議論の前に、最低限どの子にもチャンスを平等に与えてあげられる環境は作っておくべきではないでしょうか。
 今先生方のお話を含め各学校の状況を聞いてみますと、やはりインターネットの教育現場での活用方法も多種多様に生まれてきているように感じます。コンピュータ教室も、以前は鍵がかけられて授業以外は入れなかったのが、インターネットが導入されることにより、休み時間も使われるようになっています。インターネットもパソコンも学校に馴染んできつつあるのではないでしょうか。
 また、外国の例になりますが、米国ではテクノロジーコーディネーターが各学校にいて、ネットワークの利用やトラブルに対応してくれる。もう一つカリキュラムスペシャリストという人がいて、カリキュラムについてのサジェスチョンや各教科の橋渡しをしてくれます。日本においてもインターネットの教育利用についてテクノロジーコーディネーターやカリキュラムスペシャリスト的な発想を持った人が欲しいですね。
 さて、これまで4つぐらい課題がありました。財政的課題、技術的課題、運営的課題、教育利用的課題。先行した実践の中で財政的な課題はかなり理解してもらえつつあります。技術的な課題や運用的な課題もOCNスクールパックのように、サポートやDNSサーバーの管理がアウトソーシングできるサービスを利用すれば、教育現場での労力負担は大幅に低減されることになります。
 一番残っているのが教育利用での課題ですが、これから学校にインターネット導入を検討される先生方に、アドバイスを。

玉井 インターネットって情報の宝庫といいますが、情報を受信することだけに終始するようでは良くないと思います。全国のどこかの学校や人とやり取りしながら授業を進めていくなど、交流、コミュニケーションをキーワードにしていただきたい。また、子どもに使わせる前に、先生にインターネットの素晴らしさや教育現場での必要性を実感してほしいですね。最初の一年間は先生がインターネットに慣れることに重点をおいて、授業で活用しなくてもいい、というぐらいの余裕が欲しいですね。

玉井基宏先生

交流、コミュニケーションをキーワードにしたい

 安倍 初年度から成果を求められるのは、きついですね。ただ、生徒に使わせるには、教師がある程度使えなければならない。私の学校は私立学校で異動がなく、使わない気であればそのまま使わないですんでしまう。しかし、生徒からも社会からも利用することを求められているのですが。

今後に向けて


 宮澤 今回の新学習指導要領案にも出ていましたが、コンピュータや情報通信ネットワークを利用して、情報を集めて分析する力を養う。今までとは違ったスタイルの、考える力を培う学習をしていく。情報を集め、いろいろな人の意見に当たり、汲み上げることによって考えをまとめる。電子化している情報の良さは、引用したりしながら、多くの情報から必要なものを選択し収集することができる。その分労力が減るので考えたり分析したりする時間が増える。
 米国ではネットワークを利用した教育が根づきつつある。ある人のことを書く。それを隣の子と交換する。これはひどいというところに赤線をひかせるんです。日本では、作文は先生に出すもので、人に読んでもらうというのは社会に出て初めてやるんですね。米国は小学校の時から、あなたの文章を人が見るとどう感じるのかという部分を含めて、文書作成の訓練をしている。人の意見がそれぞれ違うということを認識し、自分にとって有益な情報は何かを理解する力が自然とついてくる。これってすごい教育効果ですよね。
 今後、インターネットを教育活用していく上で、このように分析したり、考える力やさまざまな人の意見を多面的に理解できる力の醸成にも力を入れていきたいですね。そういう教材のコーディネートやある程度の情報をみんながシェアしていく仕組みも作っていかなければならない。お金も技術も少し楽になるでしょうから。運営と教育的な内容が今後の課題なのであって、これからくる先生が心配しているところですよね。宮澤賀津雄先生

情報を集め分析する力を養いたい

 玉井 学校のサーバーの管理をするような仕事が確立されて、教育委員会などからも理解をいただければ学校でのインターネット利用も幸せな方向に進んで行けるとみんなが思うことが大切だと思います。学校がすべきこと、教育委員会がすべきこと、業者などの外部組織がすべきことのそれぞれの仕事をはっきりさせることが必要だと思います。今は過渡期ですので、学校のサーバーを管理できる教師がどうしても要りますので、研修が必要ですが。

 安倍 米国で作った「ミミ号の航海」「パレンケ」というソフトウェアを見たときに、非常に感動しました。日本でもこういうものがあってしかるべきと思うし、誰かが作らなければいけないと思います。また、4、5年前にNASAがスペースシャトルの打ち上げをしたのをCu−SeeMeでリアルタイムで見たとき、ものすごく感動しました。人類が月に行っている船内の映像を教室で見られる。みさと天文台やハッブル宇宙望遠鏡からの天体の映像も教室で見られる。世界や日本で優れたコンテンツが制作されているとき、技術的な問題、予算の問題もありますが、それを乗り越えて世界に誇れるコンテンツを日本からも立ち上げていかないといけないのではないかと思います。そうすることがこれからインターネットの世界に入ってくる人に感動を与えるのではないでしょうか。感動こそが人をつき動かす原動力になるような気がします。

 奥村 旭川で地域全体での情報化に取り組んでいます。NTTには、OCNスクールパックのような学校向けインターネットサービスの提供はもちろん、OCNのインフラを活かし日本の情報化のリーダーシップを取っていってほしいと思います。

 淺尾 すでに、民間企業ではコンピュータをインターネットに接続することは普通のことになっていますが、学校もそのようになりつつあります。「コンピュータはソフトウェアがなければ、ただの箱」と昔から言われていましたが、今ではそれに付け加えて、「インターネットに接続しなければ、ただの箱」のようになってきています。ですから、我々教員もインターネットの教育利用について今以上に取り組まなければならないと思います。

宮澤 まずは学校でインターネットを使える環境づくりが先決となるでしょう。そのためには、OCNスクールパックのような、インターネットの技術・運用をサポートしてくれるサービスを検討してみるのも策の一つかもしれません。我々は、インターネットを活用した教育実践のコーディネイトをどう行っていくか、具体策を模索していきたいですね。
 今日はどうもありがとうございました。


OCNスクールパックについての詳しい内容は、こちらの電子メールアドレスinfo@ocn.ad.jpまで