−−衛生管理は調理場内だけでなく、子どもが給食を食べるまでを管理することが大切だといわれますね。
高坂 2時間以内に食べるということを徹底させるために、小学校では調理員が教室まで給食を届けています。
白井 東京都では、異物混入の問題もかなりさわがれましたので、それまで給食時間までに配膳室に置いておき、子どもたちがそれぞれに勝手にとっていくという形式を止めて、子どもたちが給食を配膳室に取りにくるまで、調理員が各階の配膳室に待機していて直接受け渡すという形式にしました。このことは、調理員と子どもとの接点も生まれる良い機会にもなっています。また、行事の準備や授業の関係で給食時間が遅れる場合などは、その時間まで給食は調理室で管理しています。子どもの体制のできた時点で受け渡すということにしています。私たちはサービス業ではありませんが、お客様にお出ししているというような意識をもっともつ必要もあると思います。
高坂 食中毒を起さないためには、調理場の衛生管理もさることながら子どもたちが自分で自分の健康を作る、丈夫な体を作るという気持ちを子どもたちにもってもらうことも大事だと思います。堺の食中毒事件でも、何ともない子が何割かいるわけですから、丈夫な体作り、食への意識を高めることが必要だと思います。食中毒の原因菌は強くなり、いろいろな菌が増えているのに比べて、子どもたちの体は以前より弱くなっていることも原因のひとつなのではないでしょうか。
小野寺 抗菌ブームの中で、大人たちが子どもたちをできるだけ細菌からガードしようとしていますが、逆にガードしすぎてしまった部分もあるのではないでしょうか。
佐野 子どもたちの体の中で抵抗力が養われていないんですよね。そこが問題なのかなとも思います。
白井 O157発症率が納豆を週に3〜4回以上食べている子どもが最も低かったという岐阜県の事例をうかがってから、うちの学校では月に1度ですが納豆を出すようにしています。
−−食中毒を起さないためには、調理場の衛生管理だけでなく、さらに子どもたちが自分達の体の抵抗力を高めることが大切なんですね。
小野寺 やはり抵抗力を高めることは、基本的な生活習慣を普段から心がけていくことだと思います。そのために子どもたちに食の指導が大切になってくるのだと思います。
佐野 学校訪問時、給食を食べる時は栄養士が必ず偏食の子のそばに座るよう配慮されています。食の細い子は、やはり何をやるにも一歩おいているようで、何でも食べる子の方が、すごく伸び伸びしているし、食が細い子や偏食の子はすべてに活気がないような感じです。
白井 自分が何を食べているかという意識が特に子どもに薄くなっているように感じます。それをどうにかして呼び起こしたい。家庭での意識も薄れているのが現状ですから、子ども自身、自分が意志をもって食べられるかどうかという部分に焦点をおき、食の指導を進めていきたいと思っています。東久留米市では年間一人あたり183回の給食回数ですから、残りの食事は家庭に頼るわけですから、給食を通して保護者や家庭にできるだけ食への感心をむけさせられたらと考えています。
小野寺 親自身が、食べ物に対しての意識が薄れている気がします。親の意識改革も必要ですね。
高坂 大潟村は農業の村ですから、いろいろな野菜を作っているので特産の大豆で作った豆腐や、かぼちゃなどを使った献立を作っています。給食を通して子どもたちは、地域の食材に興味をもち、農業に対して意識が高まったと思います。
小野寺 東京ですと、実際に野菜がなっている姿を見ることがなかなかないわけですから、業者に頼んで、葉っぱのついた野菜をもってきてもらい、教室で子どもたちに見せるようにしています。まずは自分達の食べている食物に興味を持つことが食べることにつながるかなと思っています。
−−昨年度発生した学校給食食中毒原因10件のうち6件の原因となった小型球形ウイルス(SRSV)は一度加熱した食材を冷やす際の水の管理が問題だと言われていますが、加熱した食材はどのように冷やしていますか。
小野寺 本校では、野菜はできるだけ蒸して使う様にして、水で冷やさず扇風機を使っていますが、茄でた時はやはり水で冷やし、すぐに級配分をして冷蔵庫に入れる事にしています。
高坂 大型の冷蔵庫や冷凍庫があるので、茹でた後は一人ずつカップに盛りつけて少し冷ましてから、ラップをかけて冷蔵庫に入れ、子どもたちが取りにくる直前まで冷やしておきます。また調理場にクーラーを設置し、室内を18度に設定し、涼しい状態で調理をしています。
−−食数が少ないからできるやり方ですね。
高坂 食数が少ないだけでなく、調理員一人当たりの食数も少ないので、カップに分けるという作業もできるんだと思います。
佐野 静岡市内の全調理場には、真空冷却機が設置されています。ただ難点は、冷却機内に水を循環させて冷やすので、水温までしか温度が下がらないことです。水温が高い時は下げたい温度まで下がりません。ですから、真空冷却機に入れてある程度の温度まで下げてから、野菜専用の大型冷蔵庫に入れて、和える直前までその冷蔵庫で冷やしておきます。また青菜など真空冷却機に入れると色が変わってしまうもは水でさっと冷やしており、イカや海老のボイルは扇風機で冷ましてから冷蔵庫に入れています。
−−最新の真空冷却機では、短時間でかなり低温まで冷やせるものも出てるそうですが。
佐野 チラー方式といって、水温をぐっと下げられる最新の機器もあります。静岡市の他のセンターは導入していますが、うちのセンターでは、平成13年度に導入予定です。
−−SRSV対策として、真空冷却器があれば万全だといわれますが、設置している調理場は少ないそうですね。
小野寺 予算の問題もありますが、単独校ではスペースが狭いので置く場所がないというのが現実です。真空冷却器は冷やす部分はそんなにとらないですが、その他の部分でかなりスペースをとりますからね。
白井 東久留米市では基本的に水で冷やしています。衛生管理の基準では、一緒に食べさせる野菜は同じ釜で加熱して、同じ条件で温度管理するとなっていますから、和え物でもサラダでも、同じ釜に最終的に入れて温度を管理しています。茹で上がったらすぐに水を出している釜入れて冷ましています。またO157事件以前は、茹でる必要のある野菜等は調理の初めに茹でていましたが、今は調理過程の一番最後に茹でるようにしています。これは調理してから食べるまでの時間をなるべく短くするためです。さらに水の塩素管理は調理の初めと、冷やす前、調理が終了した時点の計3回計っており、徹底して管理していますので、冷やす際はすべて水を使い、扇風機はすべて撤去しています。
−−平成8年度のO157集団食中毒によって、衛生管理に対する考え方は、全ての学校給食調理場で大きく変わったと言えますね。
小野寺 全国的に冷凍冷蔵庫が設置されたことが大きいですね。以前から、栄養士たちは、冷蔵庫を入れてほしいと依頼していたのですが、なかなか予算化されずにずっときていました。O157がきっかけで全校に設置されるようになり、逆のきっかけとしてよかったと思います。それまでは現場の意見をなかなか受け入れてもらえなかったというのが現実だったと思います。
白井 20年間、学校給食に携わってきましたが、それまでやってきたことが180度かわりました。いろいろな意味で見直しができたことがよかったと思います。そのままやっていても、たぶん大きな問題はなかったのかもしれませんが、1から全てを見直し、考えて調理にあたらなければならないという意識がうまれました。O157食中毒事件はけっしてよいことではないですが、見直しをするよい機会を与えていただいたと思います。
高坂 調理員が何時から何時までどういう仕事をしてどういう流れをしているかということを毎日記録するようになり、最後は個人の責任になるというシステムの徹底が調理員一人ひとりの危機管理を高めるようになったと思います。
佐野 私の調理場でも何も問題なくいましたが「何もないからいいや」という考えがあったと思います。マンネリ化になっていたわけですが、このO157の事件は栄養士も調理員も明日は我が身という危機意識が湧いたと思います。調理員としていつでも加害者になってしまう部分と、調理員自身も子どもの親として被害者になる恐れもあるという両方の危機感がありました。実際、自分達が作るものに対しての個々の責任というものが、以前よりも問われたのではないでしょうか。意識改革と一言でいえば終わってしまいますが、まだまだこれから勉強しなければならないことがたくさんあります。今まで「これでいいんだ」と思っていたことがひっくり返り「それではいけなかったんだ」ということがわかったことが、栄養士も調理員もいい刺激になったといえます。これからもどうなるかわからない、何が起こるかわからないという危機感を常に感じ給食を作ってゆきたいと思います。
−−どうもありがとうございました。
(教育家庭新聞2000年8月12日号)
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