2005年のITを活用した学校像は!?

Keyword  3年後の学校像    教科でのIT活用    コンテンツの開発

                          教育マルチメディア新聞主催 (2002年7月6日号掲載)
                              産官学オピニオンリーダー座談会

TVのようにPCが教室に  教え方を変える電子ボード   年間1000件の指導案登録

座談会メンバー
清水康敬氏

   国立教育政策研究所教育研究情報センター長
繻エ 靖氏
   文部科学省学習情報政策課長
大輪彰一氏
   日立ソフトウェアエンジニアリング営業本部部長




清水康敬・国立教育政策研究所教育研究情報センター長
 清水 2005年には学校はどんな姿になっているのでしょうか。まず、最初に2005年に向けた情報化整備の目標について桑原課長からお話をお願いします。

 繻エ 3つの観点ごとに2005年度の目標をお話したい。1点目の情報通信環境の整備については、2005年度を目標に新しい教育用コンピュータの整備計画を進めています。その内容は、1つは、小学校、中学校、高校ともコンピュータ教室に42台のコンピュータを導入し、・人1台の環境で学習できるようにするものです。それに加え、各普通教室に2台ずつ、特別教室・校長室等に学校ごとに6台ずつの導入を進めています。
 2001年3月現在の文部科学省の調査によると、1台当たりの児童・生徒数は13・3人に1台ですが、これを5・4人に1台の割合にすることを目指しているわけです。

 また、インターネットへの接続も、この6月に改訂したe−Japan重点計画2002では、新しい考え方を打ち出しています。それは2005年度を目指して、すべての公立学校が高速インターネットに常時接続できるようにすることと、すべての教室がインターネットに接続できることです。
 テレビと同じような形でコンピュータも普通教室にあって、高速インターネットで各種コンテンツを活用できるのが環境面での2005年度の姿だろうと思います。

 2点目の教員の指導力の目標は、概ねすべての教員がコンピュータを活用して子どもたちを指導できるようにすることです。使えるだけでなく子どもを指導できるようにできることをe−Japan重点計画2002で新しく打ち出しています。

 最後にコンテンツですが、コンテンツがないと箱だけになってしまいます。文部科学省の基本的考え方としては、民間の方々にお作りいただき、国としてはできあがったコンテンツをいかに流通させていくかが仕事と思っています。従って2005年度の目標としては、清水先生にいろいろお願いしているところですが、教育情報ナショナルセンターの整備を完了することです。教育情報ナショナルセンターの機能が本格的に稼動すれば、コンテンツの普及が図れるのではないかと期待しています。
大輪彰一・日立エンジニアリング営業本部部長

 清水 ありがとうございます。大輪さんは2005年度の学校教育について、海外の事例も含めてどんなイメージをお持ちですか。

 
大輪 2005年になったらどうなっているだろうか、ということですが実は日本も海外もあまり変わらない

だろうと思っています。教育そのもの、人に教えるということは変わらず、整備状況の違いにより、教える形態、学び方が変わってくるだろうと思います。
 そこで、イギリスでは普通教室に電子ホワイトボードが急速に導入されています。正確な数字はつかめていませんが、当社の電子ボードの世界での販売台数は2000年度は1・00台、2001年度は5割増しの1800台に伸び、2002年度は2倍近い3000台になりそうです。そして、2003年度はディーラーさんの要求が9000台になっています。

 今年は大手メーカー3社で約1万数千台は学校に導入されるでしょう。現在、日本国内ではとても考えられない数字ですが、日本では現在、液晶プロジェクタが急速に導入されていますので、今後は学校にも電子ホワイトボーが導入されていくと思います。
 先日、当社とケンブリッジ大学出版部が共同で、ケンブリッジ大学出版部の紙データをデジタル化する作業と、デジタル化したものを電子ホワイトボードを利用して使えるようにすることを発表しました。

 電子ホワイトボードは、子どもたちや教師のプレゼンテーションのツールして非常に良く、教え方も変わってくる。学んだことを理解し加工し発表することに力が入れることができるわけです。また、インタラクティブな授業ができる。ただ知識を頭に入れるのではなく、その知識を他人とぶつけあわせる。その相手が、教師であり、友達であり、家庭であり、ワールドワイドの関係であったりするわけです。

 清水 なぜ、イギリスで電子ホワイトボードが急速に入っているのでしょうか。1つは、従来型の授業をそのまま延長してできること。黒板に字を書いていたのと同様に、電子ホワイトボード上にそのまま書ける。さらに、黒板消しで消す必要がなく、瞬間的に消える。しかも消えたものを後で呼び出すことができることは先生にとっては非常にありがたい。従来の教育手法がそのまま使えることが普及のポイントです。それに加えて、コンピュータの画面もボード上で操作できるので、やりやすいわけですね。

 もう一つは、コンピュータを使うことにより子どもたちに感動を与える授業が可能になり、2005年にはそういう授業をされる先生がかなり増えるのではないでしょうか。先生が黒板と教科書と言葉で授業をしているよりは、いろいろな映像を出したりインタラクティブにすることで感動が生まれるでしょう。

 さらに、教育では一方向でプレゼンテーションするのではなく、子どもたちの反応を受けながらフィードバックしきめ細かい教育をしていくことが重要です。今のコンピュータの進歩を見ると、フィードバックの機能もかなり変革されるのではないでしょうか。

 また、校内外の広い範囲の人たちとのコミュニケーションとコラボレーションの展開、さらに総合的な学習の課題解決力と基礎基本の習得の両輪の軸として主体的な学習をいかにさせるかも重要なポイントでしょう。
 そうした中で情報教育の重要性を感じているわけですが、新しい学習指導要領では特に各教科でITを活用して先生が分かる授業を展開していくかにポイントがある、と思います。教科でのIT活用を推進・普及させるために、どのようなことが必要なのでしょうか。

 

  

 

  繻エ この4月から新学習指導要領が完全実施されていますが、その目標を一言で言えば、遠山文部科学大臣がいつも言っていますように、確かな学力を身につけることです。荒っぽい言い方をすれば、大人になったら忘れてしまうような知識を身につけさせるのではなく、大人になってからも役に立つ、本当に必要な知識をしっかり身につけることが目標です。
 いろいろな手法で確かな学力を身につけさせる必要があるかと思いますが、ITがそうした学力を身につけるのに役立って欲しい、という熱い思いが私ども情報教育を進めるものにあるわけです。

 さきほど、清水先生がITの活用が子どもたちに感動を与える、と言われましたがその通りだと思います。ただ、ITを活用すればすべて感動を与えられるというのは違う。IT以前に、子どもたちに感動を与える授業をしたい、という教育に対する情熱が大切で、そういう思いの中で、有効なツールとしてITを活用してみたい、と思っていただきたい。
繻エ靖・文部科学省学習情報政策課長
 清水 非常に重要なことをお話いただきました。先日、イギリスのモリス教育大臣の講演を聞きましたが、そこでモリス教育大臣が言われていたのが、教員に求められる能力、役割は今までと決して変わらないということです。ITが入っても、所詮ITはツールなので、そのITをうまく教育の中で使っていくことにより、学力向上につながっていくと。
 さて、ここでよくいろいろな人がコンピュータはツールなんだ、と言われるが私はその言葉に少し違和感があります。ツールというと、昔からの概念で言えば単純機能のものをツールといっている。しかし、コンピュータは単純ではなく、複合的な機能が統合されたツール。その統合化された機能をいかに教員が使いきれるか、ということも含めて重要です。

 大輪 企業の中でITを活用するのは、ツールでもなんでもなくて、勝つために使うわけです。売上げを上げるためにはITを使わなければならない。そういうように何のために使うかが明快です。

 私は教育業界に入ってまだ日が浅いですが、なぜ教育の情報化を今しなければならないかが良く分からなかった。最近段々分かってきたのが、国際競争力を高めなければならないからということです。しかし、日本の教員は、なぜ今教育の情報化を進めなければいけないのか、ということを理解していないのではないでしょうか。

 当社のヨーロッパの社長である西沢とよく話すのですが、彼はイギリスと日本とは理念の差がある、と言います。また、ブレア首相がこんなことを言っています。「今後の英国がどのようにして繁栄していくか2つの選択肢があります。1つは、中国のように世界の向上になること。そのためには人々の給料を下げなけばならない。もう一つは、みんなで高度な仕事をして高い給料をもらい、良い生活をするという選択肢。イギリスは中国にはなれないのだから、後者を目指そうではないか」ということを言われて、国民がみな賛同していると言います。だから、税金をたくさん使って教育に投資することをみな認めている


 イギリスで電子ボードを販売している当社の営業部長も、「収益を上げたり売上げを上げるよりも、国が良くなるために働いている」と語っています。
 一方、私が会う先生方はみな、熱心で非常に難しいことをされている。しかし、キーボードにまだ慣れていないような先生は、怖くなってそんなことできない、と知らん振りしてしまう。逆にいうと、高度な利用の仕方を求めるのではなくて、どうしたら簡単に使えるかという方法を開発したらいいと思います。
 文部科学省の事業に応募してやりたかったのは、超初心者用、初心者用、中級者用の指導案を作ることです。超初心者用の使い方の事例が今、ないんですね。例えば、編集も何もしないでデジタルカメラの画像を映すだけだけど、非常にうまく展開している授業例など。

 清水 イギリスについてですが、学力向上の目的だけで教育予算が確保できたのではないわけです。教育の情報化にともなって開発してきた教育コンテンツや技術などを世界に売り国力を上げる、ことが重要なポイントだったのですね。
 では、日本ではどうかと言いますと、それをストレートに言うのはなかなか難しいことを考えると、学力の向上に教育の情報化がいかに寄与できるか、実際にITを活用した授業がいかに効果が上がったかを多く示していくことが重要だと思います。
さて、教育の情報化を進めるのに、教育用コンテンツが最も重要になってきますので、そのコンテンツを開発し流通させることが今後最も大きな課題である、と思います。桑原課長から、現在の教育用コンテンツの国レベルの開発の状況につきましてお話いただけますか。

 繻エ コンテンツにおける国の役割は、1つは既存のものや優れたものを普及していくこと。もう一つは、民間の方に任せていては開発がなかなか進まないものを開発していくことです。例えば、なかなか取り組みにくい農業に関するコンテンツ、また理科離れが言われる中で、子どものころから理科・数学に興味を持ってもらうようなコンテンツの開発。「科学技術・理科大好きプラン」として子どもたちが理科・数学に興味を持ってもらえるようなコンテンツを中心に作成しています。

 大輪 教育情報ナショナルセンターは非常に期待されていますし大変だと思いますが、一番必要なのはコンテンツと言われるものは何なのかを明快にして分類していただきたい。コンテンツ開発の指針が必要ではないか、と思います。

 清水 昨年8月末に教育情報ナショナルセンターのWebサイトをオープンしたわけですが、まずオープンすることを第一に考えましたので現在はまだ、いろいろなところにある教育用のWebサイトとそれほど大差がない。ある意味では大型のリンク集のようなものです。
 しかしこれは、ナショナルセンターが目指しているものではなく、1周年を迎える今年8月末に、抜本的に改善すべく今作りこんでいます。1つは、子どもを対象にした提供のあり方は、4つに大きく分けようと考えています。調べよう、学習しよう、交流しよう、作ろう、の4分類。
 先生用は、教科指導、校務処理、研修・研究の3分類にする。
 もう一つ、大きく変わるのが米国や英国、韓国のナショナルセンターのように、ロム検索システムになる。ナショナルセンターに入れば、いろいろなコンテンツが横断的に出てくることになります。
 何か、ナショナルセンターにご希望がありましたら・・

 大輪 逆説的ですが、先生方が授業に使うのに、そんなに多くのコンテンツが必要なのでしょうか。標準的のデジタルデータを使った学習指導案を作ったらどうでしょうか。

 清水 指導案はワープロで大体作るわけですが、ワープロで作ったものをきれいな形に変換して提供できるシステムも8月末にはオープンできます。この指導案については桑原課長の方で作られ、ナショナルセンターからリンクされることになっています。

 繻エ デジタルコンテンツの活用高度化事業といいまして、年間1000件、3年間で3000件の指導案を集めたいと思っています。今年度は、13コンソーシアムに委託する予定で、普通教室にコンピュータやプロジェクタがある環境で、なるべく無料のコンテンツを使って頂いて効果の上がった学習指導案を、1コンソーシアム小中高12校、1校当たり10の学習指導案を作ってWebに登録してもらおうと進めています。
 教科も学年もかなりカバーできるのではないかと期待しています。

 清水 本日は、2005年をキーワードにお話しいただきましたが、2005年はすぐそこなんですね。その先のこともそろそろ考えないとならないと思います。ここで議論したことをお読みいただいた方が、少しでもエンカレッジしてもらえればありがたいと思います。ありがとうございました。