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「全国初 株式会社立中学高等学校として」

朝日塾中学高等学校理事長 鳥海十児氏
鳥海十児氏の写真

今年6月28日の当社主催・第8回私学経営セミナーで「全国初の株式会社立学校『朝日塾中学高等学校』 株式会社の持つ人材、経営方法を生かす」をテーマに、朝日学園設立の経緯や教員採用・経営方法について理事長の鳥海十児氏に講演していただいた。以下は、その講演概要である。


幼稚園開設が発端

最初、26年前に塾の中の幼児教室を発展させて幼稚園を作った。しばらくすると、保護者から幼稚園に続く小学校を作ってくれないか、という声が上がり小学校を作った。開設資金を得るため、企画書を持って市内のほとんどの銀行を回ったが門前払いだった。しかし大変ありがたいことに、私が以前教えたご子息の関係者が銀行に話をしてくれて、15億円貸りることができた。

  小学校にも塾の手法を取り入れた。3、4年生以上は専科の先生が教え、4年生から習熟度別授業をしている。6年生では多いときには5グループに分け5教室で授業をする。子どもたちの能力に合わせた教育をした結果として中学受験に強い小学校と言われるようになった。一口で言えば学校と進学塾の中間のような学校です。

  14回の卒業生のうち、1人残らず全員中学受験をさせ、合格率は97〜98%である。
  中学受験に強い学校と認められているお陰で、かなり遠くからも岡山の私どもの学校に来ていただいている。一番遠い子は大阪府茨木市から毎日新幹線のぞみに乗って、岡山駅前から出ているスクールバスで通ってくる。最初学年2クラスでスタートしたのが、段々希望者が増えて、今は3クラスになっている。

株式会社立学校特区が契機

次は中学、高校も作って欲しい、と保護者が言うようになった。学校の建物について、地方公共団体が20年以上貸与するものであれば自己所有でなくてもかまわないと法律にあり、紹介された廃校を利用して中学校を作ろうという寸前までいった。しかし、申請すると岡山県の法令で、資産の3分の1以上の負債があると新しい学校は認められなかった。当時、小学校の負債が35億円ほどあった。

  そこでどうしようか、と思案している時に小泉内閣の構造改革路線が出てきて、特区制度を利用して株式会社立学校として第1号で認可された。特区では、特区を申請した自治体の首長が認可すれば学校を設立できる。そこで、中学、高校とも認可を受け、後から土地を手当てして校舎を建てた。

  現在、全国に株式会社立中学高等学校は14校ある。そのうち13校は通信制高校で、全日制は当校だけである。株式会社立大学・大学院もあり、それを含めると株式会社立学校は全国で26校になる。

学校はサービス業の一種  

 私は学校はサービス業の一種であると考えている。そのことで兵庫県の新任校長・教頭、指導主事の研修に講師で呼ばれたことがある。
  生徒や保護者は顧客です。お客さんである生徒、保護者に満足してもらえる教育を提供しなければいけない。
  サービス業における顧客満足度をいかに高めるかが学校の評価を高くし経営を安定させる大事な要素である。お出しするのは教育という商品で、提供した教育という商品の対価として授業料という名前の商品代金を頂戴する。そして、教育というより良い商品を安く売るように努力する。

非営利の株式会社立学校を宣言

 ところで私どもは株式会社立であり、当校のスタートの前後に非常に強い抵抗があった。「教育を株式会社に任せるのか」。「株式会社は営利を目的としたもので、営利目的の対象に教育をしてはならない」と。

  そこで会社の定款を変更、はっきり非営利を宣言した。「私どもの会社は営利を目的としません。もし利益が出たら地方公共団体等に寄付します」、と定款に記載した。結果、現在は非営利の株式会社として存在している。全国に私どもを含め非営利の株式会社は3社あると聞く。
  利益が出るはずがないんです。学校法人でさえ、経営が苦しいのに、株式会社立校には1円も補助金が出ない。しかも土地にも建物にも株式会社なので税金がかかる。

  授業料も他の進学校と同じ水準です。つまり、補助金分がない分だけ、苦しい。中学校は今年4年目、今年3月の決算で1億8000万円の赤字を出している。しかし、私の計算ではあと6年もしたら、単年度の収支はゼロまたはプラスになるだろう。それから6、7年経てば累積赤字はゼロになるだろう。

  ただ株式会社立学校は、いいこともたくさんある。カリキュラムの自由度がある、資金調達がやりやすい、何よりも学校の認可がとりやすい。しかし、補助金がないのは非常につらい。

苦労した人を

 どのような人材が役に立つのか。学校にとって何よりの宝は教員である。
  私は公立学校に5年以上勤めた人は原則として採用しない。なぜなら公立学校はぬるま湯過ぎるからだ。公立校出身者の働くという尺度は、塾で働いてきた先生の尺度と全然違う。公立学校でしっかり教えたいい先生であっても、生徒の人数が自分の給料に影響することはない。塾の先生はへたな授業をしたら、子どもがやめてしまう。

  なるべくなら塾で苦労してきた人、中小企業で特に営業で苦労してきた人を採用している。募集は全国から、採用情報会社などを利用する。
  そして、私どもの学校では、教員にマルチ人間であることを要求している。数学の先生も理科を教えられるようになれるようにといったことから、スクールバスの運転手を兼務する教員も何人もいる。学校が非常に不便なところにあるので幼稚園、小学校、中学校、高校通じてスクールバスを35台持っている。スクールバスを運転する教員は担任をはずし、1限目と最後の時間の授業もできるだけはずしている。また、夏休みには教員全員が自分達で校舎のワックスがけをする。

教員採用試用期間設置

 教員を採用すると3か月間は試用期間で、最初は1年契約。その後、正式に採用する。また、評価制度を導入している。授業だけでなく学校の生徒募集にどれだけ貢献したか。保護者への対応はどうだったか、など20項目について5段階評価する。まず自己評価し、その評価表を直接の上司に提出して話し合い他者評価も行う。そして180点程度であれば通常の昇給を行い、3月末に来年度の年俸を決める。満点は300点、点数が下がれば年俸も今年度より下がることもある。
  仮にダメだったらやめてもらう。その方が子どものため、学校のためである。

中学2年生に合格保証制度

 民間の常識、学校の非常識ということがある。民間では当たり前のことが学校では通らない、ということがいっぱいある。
  私どもにはタイムレコーダーがあり、出勤したらタイムレコーダーを押す。また、民間企業にエアコンがあるのであれば、学校にもあって当然である。

  また、高校は全て温水暖房便座にした。快適な環境でしっかり勉強してもらうためだ。
  さらに、中学生に2年生の段階で「この学校に合格できる」と判定し、合格保証を出している。もし入試で不合格になったら3年間の授業料を返還する。しかし今年3月、合格保証制度で授業料を返還した生徒は1人もいなかった。

経費を削減学校債で資金

 業者はかなり高い価格で提案してくることがあるので、購入するときは基本的に相見積もりを取る。また、リサイクル品をできるだけ使うようにしている。子どもたちが使うものはできるだけ新品を入れるが、教職員が使うものは新品である必要はないと思う。これにより、かなり経費を削減できる。35台あるスクールバスのうち、新車は1台だけで、あとはすべて中古である。新車で買えば3、4000万円するのが数百万円で買える。それを100万円ぐらいかけてきちっと整備をすれば保護者も十分納得される。
  また、今年開校した高校の土地は借地であり、農家から借りている。買い取れば資産になるが、リースにしておけば経費でおとすことができる。

  資金は20億円を学校債で調達している。小中高校の入学時に1人50万円学校債を購入してもらい、卒業時にそのまま返還する
  また、これとは別に年2%の利子をつけた債券を募集している。学校を信用してくれると多くの方が買っていただき、卒業後もそのまま預けてくれている。
  興味のある方は是非学校見学に来てください。


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