【1日目】東京(丸の内鍜治橋駐車場)―道の駅霊山たけやま―嬬恋村総合グラウンド・運動公園―嬬恋村泊(嬬恋プリンスホテル) 【2日目】海野農園―おぎのや富岡店―富岡製糸場―こんにゃくパーク―東京 |
富岡製糸場などの歴史スポットや、農業体験ができるエリア、部活動の合宿に適した施設など、多種多様な学びの素材であふれる群馬県。8月、首都圏の学校を対象に、新たな教育旅行先として同県を紹介するため、視察会を実施。参加した教員らは、吾妻郡中之条町・嬬恋村、富岡市、甘楽郡甘楽町の各施設や体験スポットを2日間で巡った。
体験前にはお茶講のルールが説明される |
多人数の受入可能 細やかな体験指導 1
自然豊かな環境で伝統文化に触れる
道の駅に様々な体験施設が集まる |
東京駅から関越自動車道を経て2時間半。吾妻郡中之条町の嵩山の麓、「道の駅 霊山たけやま」に到着した。
霊山たけやまには、自然豊かな環境を生かした様々な体験施設があり、そば打ち体験、木工体験などができる。教員らは本館2階の座敷で、中之条町・白久保地域に伝わる伝統行事「お茶講」を体験した。
「お茶講」とは、渋茶・甘茶・陳皮(みかんの皮を干したもの)を異なる配合でブレンドした4種類の混合茶をそれぞれ飲み当てるもの。江戸時代から続けられてきた行事で、体験できる施設は全国でも珍しい。予約制で、一度に40名までが体験可能だ。同施設では伝統文化を後世に伝えるため、現在は白久保お茶講保存会によって体験の指導が行われている。
視察時に指導にあたった同会会長の町田茂氏は、次々と運ばれるお茶を前に苦戦する教員らに「多くの子供たちがお茶の味を判断し、見事に当てている。大人よりも味覚に敏感なのかもしれない」と話した。
伝統文化の学びに加え、ゲーム感覚で楽しめることから、県外から研修・教育旅行中の参加者も訪れている。
中之条町には、真田幸村ゆかりの地が多数存在している。霊山たけやまの背後にも真田氏が攻略した嵩山城跡があり、歴史も含めた田舎体験エリアといえる。いずれも、普段の学校生活では味わうことの出来ない貴重な体験学習だ。
スポーツ施設が充実 学校行事や合宿で利用
400mのトラックが整備された陸上競技場 |
続いて嬬恋村へ移動し、スポーツ施設を見学した。
嬬恋村総合グラウンドはのどかな自然に囲まれた運動施設。広さの異なる3つのグラウンドは野球やソフトボールの練習・試合会場として頻繁に利用されている。
総合グラウンドからバスで15分圏内には運動公園もある。野球場、陸上競技場、サッカー場などが整備され、標高920rの地点で、部活動の合宿や教育旅行での学年単位のレクリエーション利用も考えられる。
種まきから収穫まで農作物の収穫体験
2日目の朝は、村内唯一の有機栽培農園の海野農園へ。全国でも有数の生産量を誇るキャベツの収穫を体験した。
農園を切り盛りする海野西五郎氏・吉則氏親子は、「化学の力に頼らなくても、自然の恵みが美味しい野菜を育てることができる」と話し、自家製の有機肥料を用いたこだわりのある農園運営を行っている。
体験時は、親子で分担しながら、指導を行うため、多人数の受け入れが可能だ。
吉則氏による指導のもと、教員らは包丁を手に緩やかな斜面に広がるキャベツ畑へ向かった。
「自ら収穫したキャベツを食することができるため、体験者に喜ばれている」という。
その言葉通り、教員らもキャベツの収穫作業をしながら、子供のように喜びを滲ませた。
同農園では、種まきや植え付け、炭焼きも指導しているため、幅広い時期に児童生徒を受け入れる体制が整っている。種まき体験を行った学校には収穫の時期に農作物を送るなどの配慮もしている。
農作業の過程を体験することで、種から食卓に上がるまでの野菜の成長プロセスを学べる。
地域に根付く産業 歴史と食育を学ぶ
絹産業から見る近代日本の姿
続いて、教育旅行の目的地として注目を集める世界文化遺産・富岡製糸場を視察。
吉則氏が教員らに収穫 のコツを指導 |
創業当時の機会を目近 に見学できる |
富岡製糸場は、明治5年に日本で初めての官営模範工場として設立し、民営化されるなど長年に渡って形を変えながら稼働。創業停止後も、片倉工業、富岡市に管理され、近代日本のシンボルとして大切に守られてきた。
その背景の一つ、富岡製糸場の開業以降、群馬県下で発展した絹産業は、手繰りによる製糸技術の進歩と共に、日本の近代化を牽引する産業として大きく発展した。
発展の歩みは、日本最大の蚕の貯蔵庫である荒船風穴や、製糸組合の上州南三社などの絹産業遺産群を通して現代に伝えられている。
視察時は、創業時の歴史背景を熟知したスタッフによる解説を受けながら、東置繭所、ブリュナ館、繰糸所、西置繭所を順に見学した。
工女の宿舎以外の建物は全て当時のまま。繰糸所では、創業停止当時の状態で保存された300の繰糸機が140rの空間に整然と並ぶ様子を一望できる。
西置繭所では、現在屋根を修復中だ。見学用施設の3階からガラス越しに修復工事の様子を見学しながら、文化財保護に対する意識も学べる。
富岡製糸場は、絹産業遺産群をはじめとする日本の絹産業発展の原点であり、日本近代化の歩み、西洋文化の融合過程について学べる貴重な場として維持されてきた。次世代に伝える術として、今後は教育旅行における遺産群を交えた包括的な学びが期待される。
食べて学べる施設 地場産物で食育を
種類豊富なこんにゃくが並ぶ |
富岡製糸場からバスで20分の移動を経て、甘楽郡甘楽町のこんにゃくパークに到着。同施設では、群馬県の特産物であるこんにゃくについて「見る・味わう・体験する」コーナーを用意しており、普段食卓で目にするこんにゃくの製造過程を知ることで、食への関心につながる。
本館2階からは、工場見学として、板こんにゃくやこんにゃくゼリーの製造ラインをガラス越しに見学できる。見学通路には、製造方法や歴史を紹介したパネルを設置。芋の状態から様々な過程を経て、こんにゃくに形を変えていく様子を理解できる。
体験コーナーでは、「手作りこんにゃく体験」や白こんにゃくに色付けができる「こんにゃくカラーマジックコース」など、楽しい要素を交えながら、こんにゃくの特性を指導。施設内では、地元産100%のこんにゃくを無料バイキングで試食できる。こんにゃくの高い生産量を維持できる群馬県ならではの環境だ。3つの要素が、充実し効果的な食育となっている。
【2016年9月19日号】