児童・生徒に新たな教育旅行の地を踏ませたいと考えても、どのような自治体や地域が適していて、教育旅行にふさわしい素材は何があるのかという壁にぶつかる。各自治体や地域はそれに応えるべく、様々な説明会の機会を設けている。9月に実施された福島県、島根県、八重山(沖縄県)は素材だけでなく、県が行う支援についても紹介している。
松江、石見銀山、出雲大社などの素材を紹介 |
出雲大社の「平成の大遷宮」や高円宮典子様のご成婚などで、島根県に注目が集まっている。
そんな中、日本のルーツにふれる教育旅行の魅力を広めるため、(公社)島根県観光連盟は、9月25日に都内で「島根県教育旅行素材説明会」を開催。教育旅行を対象とした、新規の助成制度などが紹介された。
主催者のあいさつで同連盟専務理事の門脇弘政氏は、「古代、中世、近世と幅広い歴史を学ぶことができる本県ほど教育旅行にむいている地域はないと思っている。来年広島県と高速自動車道(松江・尾道自動車道)がつながるので、広島の平和学習とセットで行う教育旅行も考えてほしい」と述べた。
空路は松江と米子の分便で対応が可能
平成27年3月に松江・尾道自動車道が全線開通すると、出雲と広島県内にある福山駅は約3時間で結ばれ、教育旅行の幅が広がることが期待される。
大規模校は難しいと思われがちな空路は、松江市から30〜40分程度の島根県・松江空港と鳥取県・米子空港の両方を活用した分便によって、規模が大きな学校の移動も可能となる。
同県は、中高生の修学旅行に対する助成制度を開始。▼県内で1泊以上▼観光連盟が発行する『教育旅行素材集』に掲載または他の指定する体験メニューを1つ以上実施、という条件を満たすと、バス1台当たり3万円、さらに県内2泊以上の場合は追加で1人当たり1000円を助成する(いずれも限度額あり。平成28年4月1日〜31年3月31日実施の旅程へ対し助成)。
詳細は近日中にWebで公開(http://www.kankou-shimane.com/)。
新規で作成した3種の事前学習資料
また、今年初めて中高生向けの事前学習用のワークシートを作成。シートは「出雲大社と島根県立古代出雲歴史博物館」、「世界遺産石見銀山とその文化的景観」、「松江城と松江歴史館」の3種類を用意した。
同県では、観光連盟に教育旅行誘致コーディネーターがおり、担当者が島根県内に滞在中の全てをサポートしている。教育旅行誘致コーディネーターの早川正樹氏は、出雲大社、石見銀山、松江市などの他に、同県ならではの体験として昔の製鉄技術を学ぶ「小だたら操業体験」などの体験学習を推す。
また、今求められる「課題解決型学習」の一つとして、いわゆる限界集落である出雲市の鵜鷺地区での学びを提案している。現地の高齢者と伝統的な塩炊き体験や北前船でにぎわった港町を歩きながら交流を図り、未来の日本を考えていこうというものだ。
日本百景に選ばれた石垣島の川平湾、原風景が残る竹富島など多彩な八重山諸島 |
沖縄県への修学旅行は平成23年度に過去最高の2686校を記録。25年度は2496校・43万6334人が訪れた。その多くは本島での修学旅行だが、八重山教育旅行誘致委員会では、9月19日に都内で「八重山教育旅行セミナー・商談会」を開催し、離島の魅力を紹介した。
八重山諸島は11の有人島からなり、日本百景に選ばれた川平湾を有する石垣島、沖縄の原風景が残る竹富島、島の90%以上が原生林に覆われた西表島など島によって異なる顔を見せる。平成25年に生まれ変わった「南ぬ島 石垣空港」の開港で、八重山諸島を訪れた観光客は過去最高の94万人に達し、一般観光の人気は急上昇。一方で教育旅行は平成19年から減少。
受け入れ窓口を一本化した竹富町
石垣市観光交流協会の浜田智佳子氏は「教育旅行で八重山を訪れた学校で、生徒からの人気が高い体験はマリンスポーツ。国立公園に指定された美しいサンゴ礁へのダイビングは忘れられない思い出となるはず。他にも八重山みんさー織、三線、草木染など多彩な体験メニューがある」とその魅力を語る。
竹富町商工観光課係長・通事太一郎氏からは、黒島・西表島・竹富島などが含まれる同町の受け入れを紹介。
町の宿泊施設は8割以上が民宿で、これまで教育旅行の受け入れは困難とされてきた。そこで、町民が地域コーディネーターとして受け入れ窓口の一本化を図った。
「中でも、竹富民宿組合・西表女将の会・黒島研究所の3団体は地域コーディネーターとして教育旅行に大きな役割を果たしている」と通事氏は話す。
また、沖縄観光コンベンションビューローの修学旅行支援の一つとして25年度から行われている修学旅行アドバイザーの学校派遣事業には、八重山出身者も含め現在、約80名のアドバイザーが登録されている。
ソチ五輪の女子モーグル日本代表・星野順子選手(右)が練習拠点の猪苗代湖の魅力を語るトークショーも開催 |
東日本大震災から3年半が過ぎ、福島県を訪れる一般観光客数は回復してきたが、教育旅行では平成25年度32万人と震災前の67万人にはいまだ及ばない。そこで、(公財)福島県観光物産交流協会と福島県は「平成26年度福島県教育旅行誘致セミナー」を、9月18日に首都圏で開催した。
福島県は、白虎隊に関連した飯盛山や什の掟で有名な日新館での歴史学習、五色沼や磐梯山での自然体験、ブリティッシュヒルズでの疑似留学体験など学習素材が多彩で、夏は涼しく部活動の合宿にも適している。
福島県観光物産交流協会の野崎和彦課長によると、同県を訪れる教育旅行は震災前の47・2%まで回復。「なぜ今、福島なのかという疑問を持つもしれないが、他人を思いやる気持ちや、友達や家族との絆を大切にする心を育むためにも、今だからこそ福島に来てほしい」と話す。
放射線の問題は現状を見極めて
教育旅行の減少は福島県にとって重要な課題。その多くが放射線に対する懸念によるものだろう。同セミナーで基調講演を行った長崎大学原爆後障害医療研究所の高村昇教授によると、100mSv以上の放射線を一度に受けるとガンになるリスクが0・5%高まるが、日本で自然の状態で受ける量は年間2〜3mSv程度。福島県下では線量計が至るところに設置され、大気中の放射線量の値をチェックしている。
「現状をしっかりと見極め、惑わされることなく科学と向き合うことの大切さを学んでほしい」と高村氏は語る。
安全確認後の修旅再開も増加
続いて、2校の教育旅行の事例が報告された。会津若松方面を25年以上訪れている草加市立高砂小学校(埼玉県)は、今年度、3泊4日で農山村体験と修学旅行を組み合わせて実施した。会津若松市よりも西側の昭和村では分宿し、学校交流や村の伝統産業である「からむし織り」などを体験した。
後藤裕史校長は「震災後に本校を除いて修学旅行の行き先を変更したが、安全が確認されたことで戻った学校も多い。会津には明治維新を生き抜いた人々の歴史が流れており、社会科と連動した修学旅行を今後も実施したい」と今も継続する理由を述べた。
【2014年10月20日号】