修学旅行や移動教室、林間学校などの教育旅行には、教科の授業だけでは得られない学びがあり、歴史・文化、平和学習、国際理解、農林水産体験、環境学習などの体験を通じて、子供達の成長を促すことが期待される。近年需要の高い農家民泊もその一つ。宿泊先の民泊家庭との交流で子供の心が揺さぶられることもあるという。「体験活動」を取り入れる学校が増えており、「見る」旅から、体験して「感じ」、そこから得たものを実生活に「生かす」学びの旅へと変化している。そんな転換期を迎える今、教育旅行に求められている本質を探る。
夏休み期間中は、都道府県や地域の教育旅行セミナー、視察会など教員や旅行会社の教育旅行担当者へ向けた様々なイベントが行われ、9月にも多数開催される予定だ。また、秋の修学旅行シーズンに突入し、その実施を経て来年度以降の修学旅行の検討に入る時でもある。そこで、教育家庭新聞社は8月に関東・関西圏の中学校・高校1000校へアンケートを送付し、現在実施している修学旅行の実施状況やその検討、及び今後の修学旅行について回答を得た(計140校=関東84校、関西56校。その内中高一貫校13校。回答は複数回答を含む)。
現在実施している修学旅行の行き先については、日本修学旅行協会や全国修学旅行研究協会が実施している調査と同様で、関東については中学校43校のうち京都・奈良などの近畿方面が圧倒的で36校。
■広島を含む学校も
そのうち、広島県へも足を伸ばしている学校が2校ある。近年、京都・奈良・大阪方面への修学旅行時に、広島県で平和学習を行う学校が見られることから同様の理由と考えられる。
さらに、「今後、興味のある地域」としても2校が広島とあげていることから、この傾向は少しずつではあるが増加すると予測できる。
■沖縄・東北も視野に
その他、関東の中学校は東北1校、中部3校、中国2校(前述の近畿と合わせた修旅)、九州・沖縄3校が現在の行き先となっている。今後興味のある地域としては沖縄県が多く、被災地を含む東北を検討している学校もある。
■産業・職場体験で 協働的な活動も
修学旅行はその学校によって最も学ばせたい目標が異なってくるが、関東圏の多くの学校が京都・奈良といった日本の歴史と関連付けた地域を訪れていることから、修学旅行の主な行動内容として「歴史・文化」体験に主眼を置いている学校が多いようだ。
本調査でも40校から(複数回答)「歴史・文化」学習を現在実施している、または今後実施したいという回答を得た。その他、「産業・職場体験」「自然体験」の回答が目立つ。
実施時に重視していることは「事前・事後学習の充実」と「協働的な活動」が多く、3番目に「教科学習との関連」があがった。
■九州・沖縄が半数
関西の中学校からは33校の回答を得た。現在最も多くの学校が九州・沖縄地方を訪れており、その内記述で具体的地域を書いた学校の8校が沖縄県。九州を訪れている8校のほとんどが長崎県、鹿児島県であった。
今後の修学旅行先として興味を持っているエリアについても九州・沖縄地方が多く、九州に関しては平成23年に九州新幹線が全線開通したこともあり、南九州への興味が挙げられている。
修学旅行先の決定については、関東で最も多かった「前年度を踏襲」は5校にとどまり、「料金」「学校目標」が上回ったほか、回答へのバラつきが多く「代理店の提案」「学年・担当教員」「新しい地域を含め考える」といった回答もあり、検討する姿勢は柔軟だ。
修学旅行の内容は、「平和学習」が21校と最も多い。長崎市での原爆投下を題材にした平和学習、鹿児島・知覧における特攻隊を題材にした平和学習、沖縄における民間人を巻き込んだ地上戦を題材にした平和学習が行われているようだ。
■民泊・農業体験で 住民との交流を重視
重視している事項は「協働的な活動」「事前・事後学習の充実」が多く関東と同様だが、民泊や農業体験を実施する学校が多いことから、「地元住民(学校)との交流」を重視する学校も多く、関東と大きく異なる。
関東圏の高校の大多数は九州・沖縄地方へ修学旅行に行っており回答を得た28校のうち21校に上る。北海道・東北、海外(シンガポール、マレーシア)と続く。
高校は大きく北・南に分かれる傾向にあるが、北海道方面を実施している学校が沖縄に興味を持ち、反対に沖縄で実施している学校が北海道や東北に興味を持っているということもわかった。
■料金を重視
行き先の決定に関しては「料金」を最も重視しており、「学校目標」と合わせて決定しているようだ。新しい地域を含めて考えるというケースも多く、前述の北から南へ、南から北へと検討している回答と重なる。
また、関東の高校に関しては中学よりも「学年・担当教員」「生徒・保護者」の意見を反映しているケースが見られ、実施内容は「歴史・文化体験」「平和学習」が多い。
■海外は東南アジア
関西圏の多くの中学が修学旅行で九州・沖縄地方を訪れていることを反映してか、回答を得た23校では海外、九州・沖縄、北海道・東北の順となっており、沖縄へ行く場合は宮古島、西表島、石垣島などの離島を選択する傾向にある。海外はグアム、マレーシアなど近隣エリアが好まれている。
また、関東同様に北海道を訪れている学校が沖縄に興味があるといった回答も得られた。
行き先の決定については、関東同様に「学校目標」「料金」を重視し、内容は「歴史・文化体験」「自然体験」がポイントとなっている。
中高一貫校(すべて私立)は九州・沖縄、海外、北海道の順で修学旅行の実施が多い。また、中学校と高校で実施の方面や国内、海外と分けているケースがほとんどだ。
■選択制の学校も
具体的には、武蔵野中学・高校(東京都)が中学校で北海道、高校で沖縄へ、武蔵野女子学院中学校・高校(東京都)が中学校でオーストラリア、高校で沖縄を訪れている。
関西に目を向けると龍谷大学附属平安中学校・平安高校(京都府)はコース別に行き先が異なり、「アスリートコース」が北海道に、「プログレスコース」「クリエイトコース」は、ハワイ、シンガポール・マレーシア、ベトナムの3コースから選択。奈良育英中学高校では中学が長崎、高校がグアムへ行っているが、今後は中学では九州内の体験を、高校では英語圏の国・地域を検討していく考えだという。
中高一貫校は「歴史・文化体験」「平和学習」の次に「国際社会」を重視していることから、今後、海外を視野に入れた修学旅行も検討している。
東日本大震災が起こったのは3月で修学旅行のハイシーズンではなかったが、高校の修学旅行中という学校もあり、都内でも教員と生徒の連絡手段が遮断された事例もある。以降、修学旅行先における危機管理の意識も高まっている。
修学旅行時の安全・防災対策として何を行っているのか。「ITサービス・システム利用」「救急救命講習受講」「ウェザーサービス」「事前授業ハザードマップ」「ファストエイドキット」「派遣ナース」について実施の有無を聞いたところ、「ITサービス・システム利用」が最も多い。
■派遣ナースの利用
また、従来修学旅行に同行していた養護教諭を学校の業務に専念させ、修学旅行には派遣ナースを同行させるケースもあり、関東の中学では43校中7校、関東の高校では28校中15校、関西の中学校は33校中12校、関西の高校は23校中15校、中高一貫校は13校中6校と、関西の利用が多いようだ。
行き先はほぼ固定されているが訪問先での内容をマイナーチェンジしたい、方面そのものを大きく変えたいなど、社会や学校の状況に応じた変更もある。「3年に1回見直し」という回答は多く、「料金」「学年の状況」に応じて考えていくという学校が大半。増税も今後影響がありそうだ。
■「ふれあい」が好評
本調査では、記述式でおすすめの地域やコースを訪ねた。それによると「東北の農家分宿」「大崎上島の民泊(広島県)」「北きりしま田舎物語(宮崎県)」「奄美大島」といった民泊や自然・農業体験による地域住民との心のふれあいが多くあげられた。
その他「富士樹海」「沖縄・渡嘉敷島のホエールウォッチング」「道東での釧路川カヌー下り、知床半島めぐり等」といった修学旅行ならではのプログラムも紹介された。
さらに、未来を担う人材へ体験させたいものとして、「沖縄の南部戦跡」「長崎遺構巡り」などの平和学習、「ベトナム:日本企業の海外での実態理解/現地学校との交流」といった国際社会と日本を考える体験などもあげられている。
【2014年9月15日号】