日本の伝統文化を発信・体験を通じて行動が変わる
遠足・社会科見学・校外学習の場所の決定は、何を主たる目的とし、その他にどのような点を重視しているだろうか。また、修学旅行における体験学習の位置づけとの違いについては、学校内でどのような理解がなされているのか。様々な調査を基に、昨今の体験学習のあるべき姿を探った。
実地に経験する 直接活動の重視を
東京農業大学 教職・学術情報課程 緑川哲夫教授 (日本特別活動学会副会長) |
体験活動とは、「身体を通して実地に経験する活動」(直接体験)のことです。知的な学びだけではリアリティがなく、体験することによって心が揺さぶられるのです。本来はヒト・モノや実社会に触れ、関わり合う直接体験が重視されなければなりませんが、現状では間接体験、疑似体験が増加しています。
地域特性を生かし 「学び」の場を得る
私は東京都内で教員生活を終えましたが、遠足に関しては都内で実施する学校もみられます。遠隔地に行くのではなく「地域」に「学びの場」を求め、その「学び」を「実生活」に生かしていくことが重要となってきているのだと思います。
例えば本学の併設校は世田谷区にありますが、近隣に居住している外国人の方も多いので、外国人の方と交流する機会が多々あります。日本には外国語活動を担当するALTもたくさんいますので、様々な機会を捉えて交流し、その中で日本の「伝統文化」を理解して、社会性や外国語を学んでいってほしいと思います。
グローバル人材の育成が謳われております。「グローバル」というと「国際化」というイメージを持ちますが、私はもっと自分たちの足元を見るべきだと考えています。各校が存在する地域の特性を大いに生かして、校外に学びの場を求めてほしいと思います。
「ねらい」を持ち 自主性を養う学習に
遠足や移動教室等は、最終仕上げとなる修学旅行へ向けたプレ行事として、学びの一つひとつを次の行事につなげていくように実施されます。中学校であれば1、2年の遠足、移動教室と実施していく中で、教員と子供達の間に温度差のない「ねらい」を持ちながら、多様な年齢・人々との関係性を構築し、徐々に自主性を養っていくことが大切です。
宿泊を伴わない行事では貸切バスの利用が減り、公共交通機関を使用する機会が増えています。
成すことにより学び 感性・生きる力を育む
これは「道徳」ともリンクさせながら、公共機関でのエチケット・マナーを学び、訪問先ではわからないことは現地の人に尋ね、ふれあいを通じて正しい情報を聞きだす、その力を養っていきます。
このように体験を通して学ぶ、つまり「成すことによって学ぶ」ことで「感性」や「生きる力」が養われていくのです。
実施にあたり教員は、目的・計画を明確にします。体験活動は学校種・学年ごとにキーワードがあると思いますので、まず発達段階に応じた「縦の関係」が重要となります。
博物館一つをとっても歴史、文化、科学など多種ありますが、学校の目標や取り組みに応じてねらい・効果を検討していくことが大切です。
次に「横の関係」です。横の関係では、教科・生徒会を含めた特別活動を通して、その編成や実施を検討していきますが、活動が学年や教科等で相互の活動が有機的に関連を図るための工夫が必要です。
あくまでも、「体験させる」ことが目的ではなく、「体験を通じてどんな行動を期待するのか」について考えてほしいと思います。
危機管理を認識し 現地との連携を図る
同時に、事前・事後学習、安全確保についても考えていきます。一番大切にしてほしいことは、事故のない実施です。校外に学びの場を求める「わくわく感」が高まっている時こそ、危険が隣り合わせなのです。誰もが望んでいない事態が起こらないように、実地踏査を行います。
料金、時間配分のほか、食事がある場合はアレルギー対応の有無、トイレの数、工事箇所の有無など、「危機管理」の重要性を十分に認識してください。
現地の担当者やガイドさんとの打ち合わせも、「本物を見せる」、「現地でしか体験できないことを体験させる」、という観点で連携を取りましょう。子供達が体験して「へ〜すごい!」と思うことが大切です。
事後学習は紙・ネット それぞれの良さを活用
また、事前・当日・事後学習は一連の学習と捉えてください。事前学習では安全についても触れ、事後学習は体験通して得た学びを確かめる整理の時間となります。
学習指導要領の改訂で学力向上に力が注がれている一方で、教員の皆さんは体験学習の意義と重要性もよく理解していると思います。事前・事後学習の時間が十分には確保し難い状況ですが、先ほどお話しした「横の関係」を重視し、時間を使ってください。
事後学習はソーシャルメディアの活用と併せて、模造紙に書くなど従来から行っている手書きの良さも踏まえ、「ネット」か「紙」媒体か、発信の方法を検討しましょう。絵を描くことは苦手だが、写真を撮ってPC上で編集することは得意という子もいますので、子供達の特性をよく捉えて情報整理・活用能力を養うという観点で実施してみてください。
また、これら活動をオープンにしていくことでさらに新たな「感動」も得られます。保護者や地域の人を招き、子供達の学びを報告する場を設けていくことも大切です。
体験活動は、大きく生活体験・自然体験・社会体験・生産体験・文化体験と分類されますが、これらを融合することで相乗的効果をあげることが期待されます。日本の伝統文化を大切にし、仲間や諸外国にそれを発信できる子供達を育成してほしいと思います。
【2014年4月21日号】