【特集:島根県の教育旅行】日本の「ルーツ」学ぶ 古代・中世・近世の歴史を凝縮

 昨年、和食がユネスコ無形文化遺産に登録され、今「日本」に注目が集まっている。そんな日本の原型をも想起させる「国譲り神話」や「神在月(かみありづき)」など様々なルーツが伝承されている出雲の国・島根県は、昨年60年ぶりの本殿遷座祭(ほんでんせんざさい)を終えた出雲大社、石見銀山の世界遺産登録など、近年話題の多い地。教育旅行の地としても歴史・文化を学び、自然にふれることのできる、日本を学ぶにふさわしい。島根県の教育旅行素材を紹介すると共に、教育旅行で同県を訪れている慶應義塾高等学校の鶴田正寿教諭に話を聞いた。

 古代・中世・近世の日本の歴史をすべて学ぶことができる島根県。

  日本海を通じて様々な交流が行われていた弥生時代、石見銀山を巡って戦いが繰り広げられた戦国時代、茶の湯文化が花開いた江戸時代など、日本のルーツが見られる。

<歴史・文化学習>松江の豊富な見学地で班別自主研修にも対応

 島根県の代名詞とも言える「出雲大社」は、神在月の頃になると、全国の神々が集まり、男女だけでなくその他の様々な"縁"を結ぶ「神議り(かむはかり・会議)」が行われると言われている。国宝に指定されている日本最古の神社建築様式「大社造り」の本殿など、建築も見どころだ。

学校との連携深め 歴史への関心高める

  平成19年にオープンした「県立古代出雲歴史博物館」は、調査研究・展示と共に学校との連携を重視。児童生徒の興味・関心が高められるように、体験学習施設や数々のプログラム、手引書など歴史学習教材を用意している。小中高生の学校教育活動による観覧料は、無料(要・申請書)。

  県庁所在地の松江市は、班別自主研修に適した規模で、学習素材が揃う。全国に現存する12天守の一つ「松江城」、城を取り囲む約3・7キロの堀川の「観光遊覧船」、松江の歴史・文化を映像と模型で紹介する「松江歴史館」、古墳や出雲国府跡、古代寺院跡など数多くの史跡がある「島根県立八雲立つ風土記の丘・展示学習館」など、豊富な見学地が魅力だ。

自然環境と共存した 産業遺跡・石見銀山

  2007年に世界遺産に登録された「石見銀山」は、周辺の環境に配慮した「自然環境と共存した産業遺跡」が評価のポイント。「間歩(まぶ)」と呼ばれる坑道を歩いたり、石見銀山の中心地を歩く「大森の町並み歩き」では、排気ガスやゴミを出さない環境への配慮を学ぶことができる。

  「石見銀山世界遺産センター」では、歴史と技術を紹介する展示、調査研究センターとして最新の調査成果が公開されており、展示棟、ガイダンス棟、収蔵体験棟の3棟で学習する。

出雲大社の神楽殿
松江城
出雲大社の神楽殿では、重さ訳4.5トンもある日本一の「大注連縄(おおしめなわ)」が見ら れる(左)国の重要文化財となっている「松江城」は、全国に現存する12天守の一つ(右)
松江城を取り囲む堀川 龍源寺間歩(まぶ)
松江城を取り囲む堀川では、遊覧船で船頭から歴史を語ってもらうこともできる(左)石見銀山で唯一一般公開されている「龍源寺間歩(まぶ)」では、当時の様子をうかがい知ることができる(右)


 

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<自然学習・スポーツ>宍道湖を中心にして生き物の生態を学ぶ

<自然学習・スポーツ>宍道湖
<自然学習・スポーツ>宍道湖
宍道湖自然館ゴビウスは、県内の川や湖に生息する生き物を展示する体験学習型水族館(上)日本三大和菓子どころで学ぶ和菓子作り体験(下)

宍道湖で絆を深める マリンスポーツ体験

  国内で7番目に大きい湖「宍道湖」は、美しい夕景やしじみ漁が有名だが、マリンスポーツ体験もできる。松江市内の「道の駅 秋鹿なぎさ公園」、「松江B&G海洋センター」でのカヌー、ヨット、ボート体験はクラスの団結を深め、その後の学校生活にも大きな力となるだろう。

  「宍道湖自然館ゴビウス」(出雲市)では、県内の汽水・淡水域に生息する様々な生き物を紹介。周辺は宍道湖ネイチャーランドとなっており、自然や生物を学ぶこともできる。マリンスポーツ体験とのセット学習が効果的だろう。

隠岐ジオパークの貴重な地質・生態系

  日本海に点在する4つの有人島と大小180余りの無人島からなる隠岐諸島は、昨年世界ジオパークに認定されて「隠岐ジオパーク」と呼ばれている。貴重な地質や海面の上下により陸続きになったり、離島になったりとその独特の成り立ちを経た独自の生態系が見所だ。

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<体験学習>和菓子・紙すきなど伝統文化を五感で知る

 ここまで紹介してきた「歴史・文化学習」「自然学習・スポーツ」の中では、五感を使った様々な体験学習素材も用意されている。

  松江市では、松江藩七代藩主の松平治郷(号:不昧)が民衆にも広めた茶の湯と和菓子作りのセットで、日本文化を体験することができる。他にも安部榮四郎記念館で行う出雲民芸紙の紙すき体験など、日本の伝統文化を肌で感じられる学びが点在。

  出雲市では海水から塩を作る「塩炊き体験」や一畑薬師での「写経指導」と「座禅指導」、隠岐の西ノ島町では「するめ作り体験」や「貝細工作り体験」、安来市の「たたら製鉄ふいご体験」など、島根を体感できる豊富な体験がある。

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▼ 教育旅行モデルコース

教育旅行モデルコース

島根県教育旅行素材集 島根県では「島根県教育旅行素材集」を用意している。理科・社会科・キャリア教育・スポーツ・産業観光・その他と、その学校の目的に応じた学習施設や体験素材を紹介している。また、首都圏、中京地区、関西地区、九州発のモデルコースの紹介も掲載。 

島根県教育旅行素材集=http://www.kankou-shimane.com/shugaku/




【慶應義塾高校】サンライズ出雲で陸路の旅

日本の美の原点を学び 未来で活躍する人材に

サンライズ出雲で陸路の旅 慶應義塾高校(神奈川県横浜市/羽田功校長)は、14年前から修学旅行ではなく、「選択旅行」として実施している。時期は7月(平成25年度は8コース)と2月(同10コース)で、3年間で計4回のチャンスがあり、興味のあるコースに自分のタイミングで参加する仕組みだ。

スロートラベル山陰・山陽 旅の達人をめざして

 島根県へは「スロートラベル山陰・山陽 旅の達人をめざして」コース(車中1泊+3泊4日)の中で約2日間滞在。今年度は、2月24日〜28日及び2月25日〜3月1日の2班に分かれ計72名が参加した。

  このコースの特長は3つ。寝台特急「サンライズ出雲」での島根入りと、日本海の大パノラマ、3つの世界遺産を堪能できることだ。島根県内は、松江市内、出雲大社、石見銀山、温泉津(ゆのつ)温泉が主な訪問地。昨年同コースに参加した生徒の評価を見ると、満足度5(5段階評価)が70名中41名となった。


先輩の声や山陰への興味 教育旅行だからこその場所へ

慶應義塾高校
鶴田正寿教諭

 同コースのチーフを務める鶴田正寿教諭は「先輩にすすめられた、"サンライズ出雲"に乗りたかったなど様々な参加理由があります。部活で参加できなかった生徒が、卒業前に個人的に訪れ、我々と同じ行程に偶然いたということもありました。あえて家族旅行では行かないような場所に行くのも、教育旅行ならではです。それを経験した生徒がいずれ日本の様々な顔となって活躍してほしいと思っています」と話す。

 サンライズ出雲で約12時間かけて松江に入ると、まずは市内で班別自主研修が行われる。「松江城、武家屋敷など見学地がコンパクトにまとまっているので、事前の計画で時間配分が重要だと生徒には伝えています。また、石見銀山では、地元ガイドの話を聞いたことで概要がよくわかりました。今後も活用していきたいと思っています」。

女将に浴衣の着付けを習い 温泉津温泉で外湯を体験

サンライズ出雲
出雲大社では、通常は非公開の
場所を特別に案内してもらった

 好評を博した体験は、温泉津温泉の外湯「薬師湯」(日本温泉協会による天然温泉審査でオール5の最高評価)への入浴体験だ。多くの学校は宿泊先での入浴が一般的だが、同校は「すばらしい温泉なので外湯へ行こう」と薬師湯へ行き、さらに「行くなら浴衣で行こう」と宿の女将に着付けを習った。温泉津温泉をはじめ、各地の食事内容やおもてなしへ対する満足度も非常に高いという。

 「島根県はかつては日本の歴史・文化の中心地で、その原点を知ることができます。そして、日本の美を知る場所がたくさんあります。宍道湖、日本海など水が豊富で"水の都"と呼ぶにふさわしい場所であることも魅力の一つでしょう」

 

【2014年3月17日号】

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