「体験」を伴った教育旅行が盛んになって久しいが、その方法や効果は各校の状況によって異なる。また、それらは「ニューツーリズム」とも呼ばれ始めた。東日本大震災を機に、教育旅行先における安全確保、また防災・減災を学びながら地域を知るなど、これまでの「体験学習」を越えた新しい体験学習も行われている。全修協、日修協の研究会では、それらの最新情報が紹介された。
(公財)全国修学旅行研究協会(以下、全修協)は7月30日、「第30回全国修学旅行研究大会」を都内で開催した。過去同様に、「感性を育む修学旅行」を主題に、昨年から取り組んでいる研究主題「学びの集大成を図る修学旅行」についての提案、2つの実践発表、前観光庁長官の溝畑宏氏による講演が行われた。
年間、3年間を見越した 目標と学習の実施を
全修協からの提案は山本精五本部長から、全修協が作成したパンフレット「学びの集大成を図る修学旅行」に沿って紹介。目標の設定、学習内容の分析、個と集団の学習課題の選択、学びのストーリーづくり、体験学習の組み立て、実践の評価と、年間、または3年間を見越した学習が重要であることが述べられた。
実践発表は「被災地への修学旅行」について東京都目黒区立東山中学校から、「被災地からの修学旅行」について宮城県東松島市立鳴瀬未来中学校の事例が紹介された。
鳴瀬未来中学校は、成瀬第一中と成瀬第二中が統合して、今年度より開校。成瀬第二中は津波により市内で一番被害を受け、校舎を統合まで2年間間借りした。
被災地からの修旅 苦渋の決断
修学旅行については、2校の行き先が違ったこと、地震による被害の状況も違ったことから、高橋裕子校長は苦渋の決断で、今年3月に成瀬第二中として最後の修学旅行を2年生が実施。様々な人の支援により叶った、北海道登別市を中心とした修学旅行だ。現地では支援に対する御礼の意味をこめ「ありがとう交流会」を行った。受け入れてもらった喜びなど、その教育効果は絶大だったという。
高橋裕子校長は「様々な要素が化学反応し、特別な形の修学旅行があるということを、全修協には今後も発信していただきたい」とまとめた。
研究大会の最後は、溝畑氏による講演「日本を元気に、地域を元気に」。自分を形成してくれたのは「家庭・地域・学校」と話す溝畑氏。「日本には魅力のある素材がたくさんあります。修学旅行では地域のお祭りに触れさせてほしいですし、スポーツも絡めてほしい。何か苦しいときに、修学旅行の体験が自分の心にあたたかい風を吹かせてくれる」と述べた。
(公財)日本修学旅行協会(以下、日修協)は、8月23日、「第9回教育旅行シンポジウム」を都内で開催した。「教育旅行をめぐるニューツーリズムの現状と課題」を主題に、近年注目される産業観光やグリーンツーリズムなど、いわゆるニューツーリズムの方向性について話し合われた。
パネルディスカッションでは日修協の河上一雄理事長がコーディネーターを務め、パネリストとして、東海旅客鉄道(株)の須田寛相談役、(公社)日本観光振興協会の丁野朗常務理事、(一社)全国農協観光協会・子ども交流プロジェクトの出口高靖事務局長、新潟県糸魚川市の米田徹市長、東京都立石神井高校の竹内秀一校長、大阪青凌中・高等学校入試広報部の前田勉相談役の6人が登壇。
須田氏は、ニューツーリズムの明確な定義は難しいとしながら、「何かテーマを決めて観光すること、スポーツツーリズムなどこれまでに無かった全く新しい観光、従来からの観光を新しい方式で展開するものがニューツーリズムと呼べるのでは」と話し、さらに「学習と体験を満たしていること」「その地域の人と密接に関わること」をニューツーリズムの条件としてあげた。
地形や地質を観光資源とする「ジオツーリズム」による地域振興を進める米田氏は「ジオパークの認知度はまだ低いが、ジオパークを通じて自然災害を学ぶことで防災教育にもつながる」と述べ、市民ガイドを養成する研修の実施など、糸魚川市全体で取り組んでいるジオパークによるまちづくりを紹介した。
教員の意識改革で ニューツーリズム推進
ニューツーリズムを取り入れる学校側からは、「ニューツーリズムを知らない教員が多く、教員の意識から変えていく必要がある」(竹内氏)、「農村民泊では、受け入れ先家族との交流を通じて、体験後の生徒の生活に変化が見られる場合がある」(前田氏)と意見があがった。
河上理事長は「学校はもっと主体性を持ってニューツーリズムのあり方などを提案してほしい。地域と学校、旅行会社の三位一体となって進めていくことが必要」と述べ、締め括った。
【2013年9月16日号】