恵まれた自然環境を生かした「本物体験」「人々とのふれあい」などが魅力の長野県。日本のほぼ真ん中に位置し、関西方面からも関東方面からも訪れやすく、修学旅行、自然学習、移動教室、林間学校など、様々な校外活動の地だ。長野県学習旅行誘致推進協議会を中心にし、学校現場への情報を提供している。説明会と横浜市立中学校学校教育研究会学校行事部会が主催した自然教室候補地視察会から、長野県の魅力を探る。
■視察会
8月18日・19日、昨年に引き続き行われた横浜市立中学校の教員を中心とした視察会に同行。今回は安曇野市、松川村、松本市を訪れ、国営公園や乗鞍高原での自然学習、民泊を中心とした最新情報を紹介する。
アルプスあづみの公演の空中回廊の途中にある |
横浜駅をバスで出発した一行は、中央自動車道で長野県へ。2回の休憩を挟み約4時間で、安曇野市の「国営アルプスあづみの公園大町・松川地区」に到着した。あづみの公園は、今回訪れた大町・松川地区と掘金・穂高地区の2か所がある。
大町・松川地区では約253ヘクタールの広大な敷地を有し、野外体験や「森の体験舎」内での体験メニューが特長。小中学生の団体の入園料は50円とリーズナブルで、年間30校ほどが来園し、1日を過ごす学校もある。
森の体験舎までは空中回廊と呼ばれる、回廊を歩きながら、森に広がる様々な種類の木と同じ高さで見て歩く。木々に覆われた空間の涼しさや、樹齢の見方、動物の足跡などを間近で学ぶ。
長野県の特産「おやき」 |
森の体験舎では、食体験やクラフト体験などができ、この日は長野県の特産品の一つおやきづくりを体験。生地を丸めて餡を入れたおやきを、大屋根広場で焼いて頬張る。辺り一帯に煙が立ち込めるが、出来たてのおいしさは格別で、笑顔がこぼれる。
今年度から民泊開始 田園広がる松川村
続いて、公園から北に約30分、田園風景が広がる松川村へ。村民は1万人強だが、県内では珍しく人口が増えている村で、3年前に「安曇野松川村農家民宿連絡協議会」を設立し、今年5月に初めての民泊受け入れが始まった。来年度は5校120名の受け入れを予定している。
1泊2食、農業体験や保険代等も含め一人7500円(税別)。簡易宿泊所、食品安全の認可を取得し、消防の立ち入り検査も済ませ、万全の体制だ。この日は後藤家、丸山家、茅野家の3軒に分かれて視察。
同村は、すずむし保護条例を制定し自然環境を守り続け、美しい田園風景が広がる地域。体験は家庭によって農業体験、郷土食体験など多様だ。丸山鈞さんは生徒3人を受け入れ、生徒はじゃがいもの土寄せ、トマトの定植、りんごの摘果などの農作業を体験した。
田園風景が広がる松川村では今年度から |
食事は各家庭で差がつかないように、メインディッシュは村の栄養士が考え、下ごしらえまで行い、仕上げは家族と生徒が一緒に行う。入浴は、公衆道徳を身につける意味で、村営の温泉に各家庭で連れて行く。
高台にある丸山家からは村が一望でき、美しい田園風景が輝く。「最近の子は朝早く起きないと思っていましたが、窓が東側なので朝日がまぶしくて起きたみたいで、早朝に川へ散歩に行きました。孫が来たみたいで楽しかったですよ」と鈞さんは笑う。
1日目の夜は、松川村から車で約1時間山へ向かった乗鞍高原(松本市)のペンションに分宿。学校団体でもペンション分宿を行う学校も多く、子どもたちとペンションのオーナーが話す、オーナータイムを設ける学校もある。ペンションに飾られていた生徒の寄せ書きからは、普段とは違ったペンションでのひと時が、どれほど印象深いものだったのかが伺えた。
乗鞍でトレッキング 自然との共存を体感
ガイドの小峰さんから、森と人の共存について |
2日目は、(株)アウトドアサポートシステムの小峰邦良さんと、乗鞍岳が水面に映る牛留池、落差21・5メートルの善五郎の滝などを中継する、標高約1600メートル地点の約1時間半のコースをトレッキング。自然の力、人間が守るべき自然との共存の仕方がわかってくるだろう。
滝めぐり、ミニ登山、ミニトレッキングなど短時間で楽しめるコースや本格的な登山など、様々な体験活動が用意されている。子どもたちが散策する場合は、約15人に1人のガイドが付く。
トレッキングの後は、松本市街地へ降り、創業慶應4年の老舗(株)石井味噌で昼食をとり、味噌蔵を見学。松本の市街地は松本城や開智学校、蔵の街として文化を学ぶこともできるので、自然学習との組み合わせも考えられ、長野県を満喫できるだろう。
■説明会
小中学校の教員でにぎあう横浜会場 |
7月には、横浜市と都内で「平成24年度長野県学習旅行誘致説明会」が開催された。7月4日の横浜会場には多くの小中学校教員が参加し、個別のブース相談会では時間いっぱい質問があがっていた。
現在、長野県には年間約3100校が教育旅行利用で訪れている。首都圏の学校が増加中で、神奈川県は横浜市の実績が多く、小学校は20校、中学校は156校(平成23年度)となっている。アクセスもバスで約3時間〜4時間程度で、その近さが魅力でもある。
全体への説明会では、長野県学習旅行誘致推進協議会から4支部と、農村体験「ほっとステイ」が最新情報を紹介。
◆松本支部
2012年は「体感・快感・達成感」をテーマに、様々なアクティビティを用意している。北アルプスを屋根に持つ上高地、乗鞍高原を中心とした山岳観光地で、一年中雪に触れられる数少ない場所。
春は乗鞍の雪の回廊、夏は避暑地、言葉にできない美しい秋の紅葉、そして冬は3つのスキー場が待っている。
◆茅野支部
八ヶ岳山麓の風光明媚なエリアで、200キロ以上に渡る八ヶ岳山麓スーパートレイルの一部を体験することができる。
自然を舞台にした体験の一方、国特別史跡の「尖石遺跡」では国宝「土偶」の「縄文のビーナス」を中心に縄文の歴史文化を学べるという特長もある。
◆白馬支部
北アルプスの3000メートル級の山々の麓が舞台。山、川、湖のプログラムは、各種30分圏内で体験できるため、クラス、グループなど豊富なプログラミングが可能だ。
グループで体と頭を使い挑戦する「EXアドベンチャー」や「ラフティング」は、協調性、一体感を高める体験として人気がある。
◆真田支部
スポーツ合宿で有名な菅平高原を舞台にした「森林体験」が一押し。多くのネイチャーガイドがおり、間伐の在り方、間伐材を使った体験などを通して森と人との関わりを学んでほしいと願っている。
また、自然体験だけでなく、真田幸村発祥の地である真田町で歴史学習も組み合わせられるのが特徴だ。
◆ほっとステイ
長野県下8地区(武石、長和、茅野、立科、青木、真田、王滝、筑北)で行われる日帰りの体験(9時半から午後3時半くらいまで)。生活、文化、農業、環境の体験を通して農村を丸ごと学ぶもの。グループ毎に地域の家庭に入り、各家庭のその日の暮らしを体験する。
開始当初は年間1500人だったが、昨年度は1万5000人の実績。
現代社会において機会が減っている、祖父母世代と孫世代の交流が魅力で、心を成長させ人生を変える体験となってほしいと願っている。活動は学校毎に採点し、学校外部評価として使うことができる。
【2012年9月17日号】