教育旅行の今後 ―東日本大震災をふまえて
3月11日に発生した東日本大震災以降、修学旅行等の訪問地や内容に変化が起きている。東北地方の太平洋沿岸はもとより、関東地方への修学旅行等にも影響が大きい。また、海外から日本へ来るインバウンドの教育旅行にも大きく影を落としている。これからの教育旅行に必要なことは何か。
■歴史・文化・自然とふれあう 感性をはぐくむには
7月27日に都内で開催された公益財団法人全国修学旅行研究協会(以下:全修協)主催による「第28回全国修学旅行研究大会」は、「感性をはぐくむ修学旅行の展開」を大会主題に行われた。
全修協からは、東日本大震災の影響をはじめ修学旅行に関する調査結果などを報告。関東では36校の中学校が東北への修学旅行を予定していたが、震災以降28校が関西方面などに変更し、東北への修学旅行を実施した学校も日程やコースを変更するケースが見られた。
また、関東・東海・近畿の中学校に実施した「感性をはぐくむ修学旅行」に関する調査では、修学旅行に期待する内容は「歴史・文化・自然等に触れる学習」が最も多い。実際に組み込まれた体験活動では「歴史体験」がトップとなり、近畿地区は「自然・スポーツ体験」が多い傾向にある。
栃木市立都賀中学校の鈴木久雄教諭からは、昨年7月に実施した関西への修学旅行について実践発表が行われた。同校は、事前学習を重視し教科と修学旅行を関連付け、現地では漆器の装飾技法である沈金に挑戦。教員側は、難しい技術を要する体験なので心配したが、「京都に行くのなら本格的な伝統工芸を体験したい」という生徒の意見が取り入れられた。その後事後学習を兼ねてHPを作成し、今年3月、全修協HPコンクールで優秀賞を受賞した。
国文学者で文化功労者の中西進氏 |
故郷への思いを再確認 修学旅行の素晴らしさ
また、国文学者で文化功労者の中西進氏による講演では、古来自由に生きてきた人間が定住したことで、特別な日に聖なる場所にでかける「お伊勢参り」や「お遍路」などが生活に組み込まれ、その後定住は安定を意味し、故郷を離れる時には故郷は素晴らしいところだと思い起こさせるようになったと、旅が持つ意味の変遷が語られた。
「憧れから旅立ち、故郷への思いを再確認できる修学旅行は素晴らしいもので、座学だけでは体験できないことがそこにあります」と説いた。
■同世代の交流がカギ 訪日教育旅行の今後
もう一つの異文化交流とも言える「訪日教育旅行」の今後を巡り課題を探る、第7回教育旅行シンポジウム「訪日教育旅行のいっそうの進展をどう図るか」((財)日本修学旅行協会主催)が東京で8月23日開催された。
3月11日に起こった東日本大震災以降(以下3・11)、来日する外国人観光客の減少が続く一方、教育旅行をキーワードにした国際交流の将来像への自治体からの期待は高く、会場では熱心にメモをとる姿が見られた。
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異文化理解、国際交流には、修学旅行などで海外に出かける形態(アウトバウンド)と同時に、海外からの学校・生徒学生の訪日(インバウンド)を促すものがある。そのためにはどちらも、同世代の生徒学生が交流する学校間交流が欠かせないとの意見でシンポジウムは一致した。
3・11後、訪日については諸外国がどのように見ているのかについて、司会の河上一雄・日修協理事長から発問。中・韓の在日代表からは「震災より原発事故の方が、分からないことが多い、という意味で深刻な問題だ」(韓国観光公社東京支社・權炳典部長)、「海外からは距離感が分からず福島も九州も一緒に感じる。日本政府は数値やデータで、具体的に安全についての線引きを世界にアピールしてほしい」(中国国家観光局・范巨〓首席代表)などの意見があがった。
訪日実績校へ生徒が促進メールを送る
訪日教育旅行の受入れ実績のある自治体でも、3・11後は観光客が激減し教育旅行としての来日はゼロ。県内の高校を中心に訪日教育旅行の受入れを積極的に開発、昨年は46校2000人近くまで実績を伸ばした長野県は「これまでに来てくれた学校に直接、生徒の声でメールを送り、訪日を促している」(長野県須坂東高校・京田伸吾校長)、「まったく今後の見通しは立たないまま」(群馬県観光国際協会・牧野文成事務局長)など、厳しい現状の発言が続いた。
【2011年9月19日号】