修学旅行や研修旅行で、日本からシンガポールを訪れる生徒・学生は年間で約2万人にのぼる。「治安や衛生が安定していること」、「異文化交流ができること」などがシンガポールの人気の理由。その魅力を身近に知ってもらおうと、7月29日、東京・港区の日本アセアンセンターで、「シンガポール教育旅行セミナー」が開催された。(主催/シンガポール政府観光局、協力/シンガポール航空、後援/(財)日本修学旅行協会、国際機関日本アセアンセンター、葛ウ育家庭新聞社)
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東京・文京区にある筑波大学附属高等学校は、平成19年度の修学旅行でシンガポールを訪れた。そこで、同校の田代博教諭より、「班別自主行動・学校交流が可能なシンガポールの魅力と課題」について語られた。
同校では平成19年11月19日から23日まで、3泊5日の日程で実施。初日にシンガポールに到着し、2日目はホワチョン学院との学校交流、3日目と4日目は班別自主行動、4日目の班別自主行動後にナイトサファリ見学を行った。海外修学旅行を実施するにあたっては、飛行機での移動時間の長さが問題であったが、帰りの飛行機を夜行便にして、機中泊にすることで課題をクリアした。
シンガポールを選んだ理由は、国際化が進む中、欧米だけでなく、もっとアジアに目を向けるべきではないかと考えてのこと。また、平成17年にシンガポールの教育大臣一行が同校に視察に訪れたことや、ホワチョン学院との交流があったことも実施につながった。
また、同校の修学旅行は班別自主行動を中心に行ってきたので、行き先が海外に変わっても班別自主行動が行える場所であることが欠かせない条件であった。そこで、生徒だけで行動しても問題ない治安の良さや学習要素の多さからシンガポールが選ばれた。
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費用面に関しても、帰りの飛行機が機中泊となったことで宿泊代が安くなり、それまで行ってきた沖縄の修学旅行と変わらない費用で実施することができたという。
教師側の事前準備としては、下見のため担任全員が何らかの形でシンガポールを訪問。また、シンガポール修学旅行を実施している千葉県立小金高校から先生を招いて学習会を開催した。
生徒の事前学習では、シンガポールに関するレポートなどを4回にわたり提出。2年次の総合的な学習の時間では、琉球大学教育学部名誉教授の高嶋伸欣氏らを講師に招いて講演会を開催し、シンガポールの歴史や文化を学んでいった。
2日目に行われたホワチョン学院との交流は、午前中は全体会、午後は班別交流というスケジュールで進められた。全体会では有志の生徒が、ダンスやジャグリング、空手などを披露。班別交流では、バスケットやサッカーなどのスポーツ、食文化やアニメなど、様々なテーマで交流が図られた。どういうテーマで交流するかについては、事前にメールで打ち合わせて決めていった。
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3日目と4日目の班別自主行動では、「訪問して『話』をする」というテーマが設けられた。これは観光地を見て回るだけでなく、各班のテーマに合わせて現地の誰かと話してくるというもの。その班別自主行動の成果は、夕食後の報告会で生徒から発表された。
生徒からは、特に学校交流への評価が高く、海外修学旅行での学校交流の必要性を実感したという。また、現地の若者の向学心を目の当たりにして、生徒は刺激を受けたということである。
初めての海外修学旅行で苦労した点として、工場見学・役所見学の申込みが難しかったこと、修学旅行向けの日本語文献が不足していた点などを田代教諭はあげている。また、反省点として班別自主行動に偏りすぎたので、クラス全体で行動する時間を設けるべきではなかったかとしている。
そして、海外の修学旅行を継続していくためには、牽引役が2人は必要で、様々なネットワークを活用して協力者を増やしていくことが大事だと語った。
シンガポール航空 東日本地区旅客営業部 課長代理の武田直樹氏は、「航空機利用とサービスに関する最新情報」についてプレゼンを行った。
現在、東京からシンガポールへの直行便は、午前11時30分に出発するSQ637便と午後7時10分に出発するSQ11便の2本が毎日運行している。平成20年5月から運行を開始したSQ637便は、最新鋭の機体である2階建てのエアバスA380を使用。総座席数399席で、従来のボーイング747と比べ、エコノミーが80席以上も増席されている。また、人間工学に基づいて開発が進められた結果、足回りを広げるなど、快適性も向上。
各座席には10・6インチのパーソナルスクリーンを設置。これにより、最新の機内エンターテインメント「クリスワールド」が楽しめる。
修学旅行の場合、大量の座席を確保することが問題となってくる。同社では、旅行会社の端末を使って355日前からの予約が可能だが、修学旅行に関しては最長で3年以上先の予約にも対応できる体制がとられている。SQ637便やSQ638便ならば約250席、SQ11便やSQ12便では約100席までの座席の確保が可能だ。
空の旅で楽しみの一つとなるのが機内食。アレルギーなどを抱える生徒には特別食を用意することができる。事前に申し込んでおけば、減塩食やローカロリー食など、特別なメニューの機内食が提供される。
また、修学旅行などの団体に対しては、座席のヘッドレスト・カバーに校章を入れるサービスを行っている。このサービスは50名以上から受け付けており、出発の2か月前までに申し込む必要がある。校章入りカバーにより、座席が一目で分かるので、生徒の誘導もスムーズに進む。
シンガポール政府観光局 教育旅行担当マネージャーの鎌田光記氏のプレゼンでは、「シンガポール教育旅行の魅力」が紹介された。
海外修学旅行の行き先を選定する際のポイントは、「安全である」、「国際理解教育につながる」、「班別自主見学が可能」などがあげられる。それに対してシンガポールは、「世界でもトップクラスを誇る治安の良さ」、「優れた衛生面」など、安全性に関しては日本以上。また、国際理解教育に関しても、「英語と中国語が使われており語学学習に最適」、「多民族文化を体験できる」といった利点がある。そして、様々な学習テーマを備えた見学地を、先生の引率が無くても見て回れるので、班別自主見学にも適している。
交通手段は、バス、タクシー、MRT(地下鉄)などがある。中でもMRTは路線図が見やすく、乗り換えも簡単なので、班別行動の際には、大いに活用されている。
現地の学校との交流については、現在はシンガポールの教育省も学校間交流を奨励しており、同じアジアの若者が、熱意を持って勉強に取り組む姿を見て、日本の生徒は刺激を受けるという。
見学地も充実しており、水資源・環境問題を学ぶのに最適なのが「ニューウォーター・ビジターセンター」。シンガポールでは、水は大切な資源なので汚水を真水に変える技術が進んでいる。そうした水への取り組みは、修学旅行での生きた教材となる。また、世界初の夜だけオープンする動物園「ナイトサファリ」では、昼間は見られない動物の生態を間近で見ることができ、自然・環境問題への意識が高められる。
政府観光局では、様々な面からサポートし、各種資料の提供をはじめ、見学先の相談、現地視察旅行やセミナーを実施。また、ホームページや携帯サイト、教育旅行メルマガの配信による情報の提供も行っている。
日本修学旅行協会(以下、日修協)国際事業部担当部長の藤田勝彦氏は、「海外教育旅行の現状と留意点」をテーマにプレゼンを行った。
日修協が平成20年4月から5月にかけて実施した調査によると、海外教育旅行の件数は17年度2878件、18年度2943件、19年度3070件と着実に増えている。海外教育旅行の実施件数は、国際情勢、感染症、社会・経済事情、燃油サーチャージなどの問題が大きく関係した。平成21年度は新型インフルエンザの影響を大きく受けることが予想される。
海外教育旅行の目的別件数は高校の場合、約半数の47%が「修学旅行」として海外教育旅行を実施し、「語学研修」を目的としたものは36%。中学校では、「語学研修」を目的としたものが58%、「修学旅行」は26%。このように高校は「修学旅行」、中学校は「語学研修」が中心だ。
平成19年度における海外修学旅行の訪問国・地域の上位5位は、1位オーストラリア(274件)、2位韓国(208件)、3位シンガポール(173件)、以下中国・マレーシアの順となる。
平成20年度における海外修学旅行の旅行先別の平均旅費は、韓国10万7216円、中国13万2838円、オーストラリア23万6224円、シンガポール14万453円となっている。
また、全体的に伝統校や進学校とされる学校は、伝統や文化に重きをおいて、教科と連動させた海外教育旅行を実施するケースが多く、中堅校では生徒の希望を優先させたり、学校の特色を出した修学旅行を実施する傾向にある。
今後の傾向は、経済不況などの理由から、安・近・短のアジア志向が高まることが予測される。
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