わたしの食と健康G
 

   躁鬱病から過食・拒食の体験も

             作家 中平まみさん

 作家の中平まみさんは東京生まれ。映画「狂った果実」を初め、モダンな作風で当時の若者を魅了した、中平康監督の長女だ。河出書房新社「ストレイ・シープ」で文芸賞を受賞。最新作、「父の評伝『ブラック・シーブ』映画監督中平康」(ワイズ出版)と「囚われた天使」(志茂田景樹事務所・KIBABOOK)が書店に並んだばかりだ。
 二度ほど躁鬱病を患った時、過食と拒食状態が極端な上に、病院食の不味いこと。美味しいしいもの欲しさにひたすら、娑婆が恋しく、早く脱出したかったが、そんな体験記を書いている時も、病院食の押しつけは、改善すべき問題だとつくづく思ったという。
 物書きという仕事柄、夜更かしが多いから、どうしても朝は食欲がない。そこで、梅干しでお茶を飲むが、クエン酸とカフェインがいい具合に効いて、ぼんやりした頭がスキッとしてくる。とかく、神経は使うし、運動不足にもなるので、食欲が湧かない。そんな時には、ミルクティとおいしいパン。そして、果物をたっぷり。良質のたんぱく質とカルシウム、ビタミンCが疲れを取ってくれる。普段、好き嫌いはしないが、美味しいもの好きで、ご飯、おしょうゆ、味噌、お茶には凝って、贅沢をしている。好きな食べ物はお鮨で、書いたものに“鮨”という字が何度も出てくる。しかし、作るのは苦手で、母上が調理=健康管理をするが、肉に偏りがちな副食は魚料理を工夫し、足りない野菜類をどう食べさせるか。苦労の種だということだ。
 子供の頃の食の思い出には、父・監督が。ウニやコノワタなどを肴に、ビールを飲んでいる時に、食卓から“なめこおろし”や“ニラとモヤシのベーコン炒め”をちょこっとつまむのが楽しみだった。ファーザーコンプレックス気味なまみさんは、だから、いまでも酒の肴に憧れる。うに松葉、おせんべいが好き。アンコ類は嫌い。お菓子では、五歳の時に初めて洋食のフルコースを食べた時、デザートに出た“カスタードプリン”の味が忘れられない。それに、裕次郎のエジプトロケを、羽田空港に見送りに行った時に父がバクついていたパイアラモードだ。未だに愛着執着のケーキである。まみさんの思い出の味には、必ず亡き監督の笑顔がある。
(教育家庭新聞99年8月19日号)