子どもの心と身体の健康
起立性調節障害

脳に充分な血液届かず不快な症状

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 「起立性調節障害」(略してOD)という病名をご存じですか? 思春期のお子さんで、特に悪いところがないようなのに、立ちくらみやめまい、脳貧血、朝起きられない、頭痛、腹痛がたびたびおこるなどの症状があったら、小児科を受診してみるのも1つの方法です。なぜならこの病気は、その微妙な症状から、「心の問題」として見過ごされがちだからです。小学校高学年から中学生までの約10%にみられるという「起立性調節障害」について、獨協医科大学小児科講師の吉原重美さんにお話を伺いました。

【小学校4年生K君の場合】  
 小学校4年の6月、クラブ活動をしていたK君は、休憩時に他の子と遊ばず、隅で座っていることが多くなった。親は「友人関係がうまくいかないのだ」と、悩んだ。5年生の9月、腹痛が激しく、20日間学校を休む。2月の上旬から3月の中旬には、顔色が悪く「ふらつく、気持ちが悪い、頭が痛い、お腹が痛い」と、午後3時まで床に伏す生活となる。6年生のときも長期間学校を休みがち。12月に大学病院で「起立性調節障害」と診断され、薬を飲む。その後、快方に向かう。整体を始める。中学校でも休んだり登校したりしながら治療を続け、高校生になってようやく体調が良くなった。

 −−起立性調節障害(OD)とは、どういう病気なのでしょうか。
 吉原 自律神経失調症の1つで、思春期前後に多くみられるものです。起立した時に、立ちくらみやめまい、脳貧血などを起こしやすい病気です。また、食欲がない、腹痛、頭痛、疲労感、乗り物酔いなどさまざまな症状は、機能性心疾患(心臓機能の病気)や、不定愁訴症候群、心身症などと症状が似ているため、そのようにも診断されやすいのです。

 −−なぜ、このような症状が起こるのでしょうか?
 吉原 原因としては、起立する時の血管の反射異常といわれています。健康な人は、起立すると下半身の静脈が収縮して下半身に血液が溜まることを防いでおり、そのことで体を循環する血液量などのバランスをとっています。ところがOD児は血管を収縮させる力が弱いため、下半身に血液が溜まり、心臓に戻る血液量が減って血圧が下がるので、脳などに充分血液がいかず、さまざまな不快な症状が現れるのです。血管反射が起こらない原因としては、それを司る交感神経(自律神経の1つ)の働きが正常でないからで、これは体質的なものがあり、家族内で似たような症状がみられることがあります。

 −−発症の特徴は?
 吉原 発症が最も多いのは、13〜14歳頃で、やや女子が多いといわれています。春から夏に悪化します。症状の特徴の1つは、午前中、特に朝の調子が悪く、午後になるにしたがって症状が軽くなり、夜になると元気になって、夜更かしをしがちだということです。

 −−なぜ、朝や午前中の気分がすっきりしないのですか?
 吉原 人の体は、睡眠中には副交感神経という自律神経が働いていて、心臓の働きなどを抑制しています。そして目が覚めると同時に今度は交感神経という自律神経が働き、体を活発にします。起立時に血管収縮反射が起きるのも、この交感神経の働きによるものです。ところがこうした自律神経の働きがスムーズではないのが「起立性調節障害」なのですから、そうした子どもは、夜の眠りから朝目覚めたときに、副交感神経から交感神経への切り替えが遅く、午前中一杯、副交感神経の支配の下にあります。それですっきりした気分になれないのです。

 −−診断はどのようにするのですか?
 吉原 外来で、起立性調節障害の診断基準(表参照)に基づいてします。ODの検査は、「いろいろ不快な症状はあるけれども、他の器質的な病気がない」という時に、ODの可能性があるのでは、ということで行われます。診断基準にある大症状は、患者さんの話が基になります。小症状は起立試験によって、調べます。起立試験というのは、患者さんに安静後10〜15分ほど起立してもらい、その前後における脈拍、収縮期血圧、心拍数を比較し、その変化をみるものです。

 −−治療はどのようにするのですか?
 吉原 症状に合わせた薬物療法と、自律神経を鍛練する鍛練療法があります。薬物療法についてですが、立ちくらみ、めまい、動悸、脳貧血、朝起きにくいなどの症状は、主に低血圧に基づく症状なので、血管を収縮させる昇圧剤が使われます。腹痛、乗り物酔いなどの症状が主のときは自律神経調整剤を、不眠傾向があるときは精神安定剤が処方されます。薬の効果が出るまでは1〜2週間かかりますが、これらの薬剤を飲むことで、通常は1〜2カ月で症状は改善してきます。

 −−鍛練療法とは?
 吉原 自律神経反射を高めることが目的で、乾布摩擦や冷水摩擦をします。入浴時に冷水を下肢に洗面器で2〜3杯かけることも、効果があります。これらは、薬を飲むのをやめてからも根気よく続けることが大切です。

 −−日常生活の注意点は?
 吉原 普段から家族が患者本人を注意深く観察していることが大切です。症状が改善しているのかどうかなどが、それによってわかります。また、夜ふかしや朝寝坊の生活習慣を改善し、規則正しい生活リズムを身につけましょう。
 この病気は朝起きにくく、午前中の調子が悪いことから、学校は遅刻や欠席が多くなりがちで、心理的な不登校とまちがってみられることもあるようです。病院で起立性調節障害だと診断された時には、担任の先生と連絡をとり、この病気を理解してもらうとよいでしょう。
 ODは生命にかかわるような病気ではないですし、根気よく治療を続ければ必ず症状は改善します。家族や本人がこのことを心得ていることも、とても大切なことです。
(教育家庭新聞2000年9月9日号)