子どもの心とからだの健康
妊娠・妊娠中絶

【TOPページに戻る】


 99年の厚生省の調査(18〜59歳の男女5000人対象)によると、若者の性の自由化が進み、19歳までの性体験者が8割という結果がでました。このうち約5割がコンドームを「あまり使用しない」と答えています。これらのことから、若者の望まない妊娠の増加が憂慮されています。若者たちはそのときどうすればいいのか、その親は…。今回は元同愛記念病院の産婦人科医であり、現在江東区亀戸の「百合レディスクリニック」で、多くの女性の診察にあたっておられる院長の丸本百合子さんにお話を伺いました。


【最近の教育】
−最近の女生徒をみて感じられることは?
丸本 今の子どもたちは痛々しいです。心が満たされておらず、ストレスで傷ついていて、彼との関係をどう考えたらいいのかわからない。だから私は何よりもまず、「自分の体を大切にして」と言います。また、子どもは二極化しているようです。遊んでいる子の方が中絶はどこどこの産婦人科がいいとか、時期はいつまでにしなければとか、性感染症など、体のことをよく知っています。ケータイやメールで仲間と情報交換をしていますからね。危ないのは勉強ばかりしている優秀な子で、そういう子は知識をもっていないので、妊娠すら気がつかなかったりする。たいていの親は自分の子は性体験はないと思っていますよ。子どもの方では親を悲しませないようにと、その話だけはしていないのです。


−妊娠の相談はありますか
丸本 妊娠で受診する子はそう多くはありませんが、優等生の子ほど「妊娠なんか思ってもみなかった」と言います。セックスが妊娠と結びつく行為だということが理解されていないんです。一方では「妊娠は心配していたが、どうしてよいかカレに言えなくて」という子もいます。

−それはどうしてですか?
丸本 日本の性教育は「お母さんになるためのもの」としか教えていないからです。中高生はセックスがないとの前提で性教育がなされていて、結婚していなくとも妊娠するのだということを教えていない。そのため思ってもいない妊娠をする若い人が多いのです。
−どのようなことが教えられるとよいのでしょう?
丸本 セックスから教えることです。セックスをして精子が女性の体内に入ってくれば妊娠する可能性があるという事実をしっかりと教えることです。そこがわかっていないから、若者は避妊の必要性を感じない。一方で女性は、セックスの経験がないことは「もてない、恥ずかしいこと」だと思っています。雑誌などでそうした情報に囲まれていますから。しかしセックスは本来、自分の体や人生にとって最重要なこと。決して軽々しく考えることではありません。それなのに正しい性情報を得る場所がないのが現状です。

−それではセックスに対してどのような考え方をするといいのでしょうか?

丸本 とにかく「セックスは性感染症や妊娠を伴う危険な行為であり、避妊をしてから安全に行なうべきことだ」との認識をもつことです。男性は生物学的にいって性欲があるのが当たり前ですが、それを欲望のまま女性にぶつけたら女性のからだを傷つけることになるのだということを教えてほしい。女の子を傷つけないでということです。それと男性の性もきちんと教えることが必要です。一方、女の子には「自分の体を自分のために大切にしよう」というメッセージを送りたい。自分の人生と、体を大切にしたいなら、セックスするときには彼に、「妊娠と性感染症の予防を考えてほしい」といえなければなりません。オランダや北欧ではセーファーセックス(安全なセックス)を教えます。すべての学校でそうした性教育をしてほしいです。

−具体的な避妊法は?
丸本 避妊法はいろいろありますが、失敗が少ないことからいって、2つだけ覚えておけばいいです。エイズ検査をしていない彼にはコンドームをつけさせる。これは行為の最初からつけないと失敗します。また、破けることもあるので、100%安全とはいえません。次に、エイズの検査をしていてステディーな(決まった)彼なら、解禁になった低用量のピルを薦めます。これは飲み忘れないことが肝心です。
(教育家庭新聞2000年7月15日号)