学校栄養士を訪ねてF
お替わり用の果物を持って教室へ
東京都豊島区立千早中学校 塩田伸子さん
ホットとコールドそれぞれのカウンターが完備している立派なランチルームのある東京都豊島区立千早中学校。全校の人数が140人強という小規模校で、ランチルームには1学年が十分入れるため、各学年が順番で毎日ランチルームを利用している。
食事の時間は、必ずランチルームにいるという同校栄養士の塩田伸子先生。生徒たちの中に積極的に入り、一緒に食事をしている。ランチルームの配膳等が一段落すると、それぞれの教室にも顔を出しているという。「はじめの頃は、教室に入りづらいこともありましたが、お替わり用の余った果物などを持って入ると、子どもたちが喜んで寄ってきてくれ、それを一つのきっかけにどんどん教室に入っていくようになりました。これも子どもたちとコミュニケーションを取るための一つの手段ですね。」実際に教室に顔を出すことで、子どもとの話の中からその日に欠席している子の様子を聞けたり、お腹の調子が悪くなった子が牛乳の飲みすぎだったことを知るなど、いろいろな情報を得ることができるという。
千早中学校では、地元の小学6年生を招待しての招待給食やアンコール給食、リザーブ給食など様々な活動を行っているが、その中でも食の指導ということで力を注いでいるのが、各学年毎年4回ずつ行っているバイキング給食である。
主食、主菜、野菜類にドレッシングといろいろ取り揃え、そこから子どもが選びとっていくのだが、これを行うにあたり、塩田先生はしっかりとした事前・事後指導を行っている。
バイキングのある日には、朝の学活の時間に教室に顔を出し、カロリーや食材について書かれたその日のメニュー一覧表を配布する。「栄養価のことよりも、バランスの良い食品の摂り方について簡単に話しています。『カロリーって何?』というような質問を突然うけたこともありました」。事後指導では、それをもとに自分でどれだけ食べて、どれだけのカロリーを摂取したか書き込み、希望者を対象にパソコンを使った指導を放課後に行っている。校内の先生が作った簡単な栄養計算ソフトに、自分の年齢、身長、性別等を打ち込み、そこに出てくるデータと給食で自分の摂った総エネルギーを比較する。「事後指導に関しては、強制はしていません。これをきっかけに、食について興味をもってもらい、考える機会になってくれればなあという思いで行っています。カロリー計算することで、たし算の勉強になっている子もいるようですよ。やりたい子だけを集めて行っていますが、時にはクラス全員が参加してくれるときもあります」。
また普段のランチルームの給食では、給食委員の生徒がそのメニューについて一言話すことになっているが、このアドバイスも塩田先生が一口メモをプリントするなどして指導している。「わかさぎはししゃもと同じできゅうり魚科で脂ひれを持つサケ・マスの仲間です。カルシウム等ミネラルの重要な供給源です」などの簡単な一言だ。
中学校は専科制であるため、それぞれの授業に栄養士が参加することはなかなか難しいのが現状だという。さらに千早中学校は生徒の数が少なく、家庭科の専科の先生がいることもあって、塩田先生が家庭科の時間を担当することはほとんどない。「授業での指導をすることはなかなか難しいので、ランチルームでの子どもとの給食の時間を大切にしています。担任の先生方のお手伝いになれればくらいの気持ちで、毎日活動しています」。前任校は小学校であったため、食の指導をするためにぬいぐるみを使って教室をまわったり積極的に取り組んでいたとのこと。「教育とは身についてくれなければなんの意味もないと思います。そういった意味でも、毎日給食の時間に顔を出し、少しでも生徒たちとのコミュニケーションの中から、食への興味や関心が生まれてくれれば十分だと思っています」。
塩田先生の立てる献立にはこだわりがある。その季節の野菜を取り入れるようにしていることだ。「冬には夏の野菜であるきゅうりなどは出したくありません。日本独特の四季の大切さや、それぞれの季節を知ってもらいたいという思いから、嫌われても冬には冬の野菜、夏には夏の野菜を出すよう心がけています」。
(教育家庭新聞99年3月27日号)