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文教市場・企業のスタンス
発見しにくい「ウイルス使い捨て」の時代に
拡散するネットの脅威〜授業向けコンテンツ作成へ

千葉貴志 氏
トレンドマイクロ(株)
マーケティング本部
千葉貴志 氏

 ウイルス、スパイウェア、フィッシング詐欺など、インターネットの利用には様々なセキュリティ上のリスクがついて回る。日本に本社を構え、安心できるネットワーク社会の実現を目指すトレンドマイクロは「予測不可能な脅威から、社会を守る」をミッションに、学校や自治体など官公庁での利用も多い。昨今のインターネット上の脅威と学校での取組みについて、トレンドマイクロ マーケティング本部コーポレートマーケティンググループ コーポレートコミュニケーション課・千葉貴志氏に話を聞いた。

脅威はメールからサイトへ。
使い捨てウイルスも。

 メールの添付ファイルを開くことで感染することの多かったコンピュータウイルスだが、ここにきて「メールに添付されたファイルは危険」との認識が広がったこともあり、メールにウイルスが添付されることは少なくなった。その一方で、新たな手口として使われるようになったのがWebサイトだ。

 この手法は、悪意のあるファイルをサイトに仕掛けておき、ユーザーがサイトを開いた途端に感染するというもの。サイトへのアクセスという、もはや日常化した操作にユーザーが‘感染’を想起することは難しく、そのリスクも高くなる。

 とはいえ、ウイルスを仕掛けた悪意のあるサイトに一般ユーザーが直接アクセスすることはそれほど多くない。そこで金融機関やコミュニティサイトなど一般企業が運営する正規のサイトを改ざんすることで、正規のサイトを経由して悪意のあるサイトにアクセスさせるケースが報告されるようになった。

 「正規のサイト自体を悪意のあるサイトに書き換えてしまうケースもありますが、多くの場合は『悪意のあるサイトを開きなさい』とコマンドが1行程度書かれるだけで、視覚的に確認できないものもあり、その場合は感染したことにユーザーは気付きません」

 また疑わしいサイトがあると報告を受けて調べてみても報告されたウイルスは既になく、別のウイルスに置き換えられていることも珍しくないという。

 「最近はたくさんのウイルスが作成され、使ってはすぐに新しいものに変わります。それゆえ、現在は脅威が拡散していると言えます」

 01年には、検出数の多い上位10のウイルスが1年間に検出されたウイルス全体の約60%を占めていたが、07年にはそれが4・5%まで低下したという。一度に多くのユーザーが同一ウイルスに感染することが減り、以前に比べメディアを賑わすことも減っている。「使い捨てのウイルス」が暗躍し、被害の実態を見えづらくしているのが現状のようだ。

学校に浸透するフィルタリング

 数多くの企業や官公庁のセキュリティを守るトレンドマイクロの製品は、総合セキュリティソフト「ウイルスバスター」の他に、サーバ対策やゲートウェイ対策、ネットワーク対策など幅広い。そんな中で、学校現場では01年に発売したURLフィルタリング製品「InterScan WebManager(インタースキャン ウェブマネージャ)」の利用も盛んだ。

 子どもには見せたくない有害サイトのアクセスを防ぐ基本機能に加え、生徒・先生別にアクセスの権限を管理したり、ワンクリック詐欺やフィッシング詐欺などのオンライン詐欺、ウイルスを仕掛けられたサイトへのアクセスを防いでくれる。

 「それまで掲示板の閲覧を制限していましたが、掲示板には必要な情報も掲載されているために、一概に閲覧を制限しては授業に支障が出るケースも考えられます。しかし、掲示板の閲覧を許可してしまうと、うっかり個人情報を書き込んでしまったり、誹謗中傷の書込を始めてしまったりすることがあります。そこで03年には、掲示板やチャットの閲覧は許可しながら書き込みのみを規制する機能を加えました(InterScan WebManager 3.1)」

授業で使える教材が必要

 セキュリティソフトを提供する企業としてユーザーが安全に安心してインターネットを使えるように取り組むことは、企業使命とも言える。インターネット上のセキュリティ対策について啓発活動に力を注ぐトレンドマイクロでは、インターネットセキュリティ全般の知識を幅広く提供するサイト「インターネット・セキュリティ・ナレッジ」(http://is702.jp/)を中心に、「コンピュータウイルス」や「セキュリティホール」「有害サイト」などを解説した小冊子の配布や、ストーリー仕立ての手軽なFlashコンテンツを提供してきた。

 サイト内では、子ども向けにインターネットセキュリティに関する選択形式のテストページや、高校生向けの「セキュリティ対策の基礎知識」、小中学生向けの「トレンド教授のパソコンあんしん授業」など、教育現場でも使えそうなコンテンツも揃うが、今年はさらに教育向けの取組みに力を入れるという。

 「セミナーなどを通じて、先生方から、理解した内容を授業で教えるための教材が少ないとの声を頂戴しました。指導の必要性を感じても授業で使える素材が揃っていないようです。そこで今年は、まず初めに小学生を対象とした授業向けのコンテンツの充実を進めていく予定です」

 インターネットを使用する頻度では中高生の方が多いが、その第一歩として今回は小学生向けの教材開発から始められるという。相対的に小学生の方がアクセスしたサイトの危険性を判断する力が弱く、危険に晒される程度が大きいとの考えからだ。

 「サイトや冊子を通じた情報提供では、どうしても一方通行になりがちですが、この教材は先生方と一緒にコミュニケーションをとりながら作り上げていきたい。パソコンを使う時の怖さを伝えるだけでなく、インターネットの良い部分も伝えながら安全な使い方を示していきたいですね」

 日々新たなウイルスが生まれるインターネットの世界にあって、専門企業が蓄えた経験と情報を活かさない手はない。これまでにも様々な啓発コンテンツを開発・提供してきたトレンドマイクロの新たな展開に教育関係者の注目も集まるだろう。

(聞き手 吉木孝光)

【2008年2月2日号】


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