小学館コミュニケーション編集
局デジタル学習センター編集長
伊藤 護 氏
小学館の「(*注)陰山メソッドを取り入れた手書きデジタル学習教材」は、タブレットPCやUMPC(Ultra-Mobile PC)上で利用する新しい形のeラーニング教材だ。広島県尾道市立土堂小学校をはじめ、現在、山口県山陽小野田市や立命館小学校(京都府)で利用されており、和歌山市では今年1300台の導入が決定、小学校での学習が進められることになった。小学館コミュニケーション編集局デジタル学習センターの伊藤護編集長に話を聞いた。
「基礎基本を学ぶ初等中等教育の根本は書く≠アと。しかしそれはキーボードとマウスを利用した学習スタイルでは成立しない」とこれまでのeラーニング教材に限界を感じていた伊藤氏。その一方、徹底反復を掲げる?山メソッドの成果から、同じ作業を繰り返すことが得意なICTに可能性をみていたという。そこで、小学館では累計500万部を突破する家庭学習用教材「?山メソッド 徹底反復シリーズ」(小学館)をベースに、05年、(*注)陰山英男氏(立命館小学校副校長)や富士通研究所と共同で、タブレットPCなどを用いたeラーニング教材(ASPサービス)を開発、教育現場や家庭学習用教材として提供している。
即時性が生む集中力
現在、学校で利用されているコンテンツは国語と算数。設問ごとの正誤や進捗度など、児童一人一人の学習履歴を管理することが可能だ。子どもたちは専用ペンによる手書き操作で、漢字や計算問題をディスプレイ上で解答、書き順やトメ・ハネなどの採点はその場ですぐに行われる。
伊藤氏はその特徴を「PCがすぐに採点するので、子どもたちの集中力を維持できる」(即時性)、「履歴が残ることで、間違った問題だけを集めたプリントの作成も可能」(個に応じた指導)、「どんな先生でも使用でき、1度にクラス全員を平等に評価できる」(指導スキルの平準化)と説明する。またもう1つの特徴は使用フォントにあるという。
「細かいことだが、出版社としてフォントにもこだわりがある。トメやハネ、画の長短や交わる位置などは、フォントによって大きく違う」。そこでこの教材では、「教科書体」を採用。書き順等は、昭和33年に文部科学省(当時文部省)が定めた『筆順指導の手引き』に拠っている。
定着率・練習量 増
05年度、同社と山根僚介教諭(土堂小学校)らは、土堂小学校の3年生に調査を実施した(対象 漢字学習)。その結果には、紙を利用した従来の指導に比べ、タブレットPC利用の方が完全定着率(平均)で44%から77%へ、また全体の学習量が1・5倍、成績中位児童の学習量は2・8倍に増加するなど、教材利用の効果が表れている。
こうした成果を受けて伊藤氏は「デジタルと学習の親和性の鍵は、手書きにあると思う。教材の効果がもっと多くの先生に伝わってくれれば」と今後の教材の拡がりに期待する。効果を示す手書き≠ェ、今後の授業を変える日もそう遠くないかもしれない。
(聞き手 吉木孝光)
【2007年11月3日号】