本連載では、これまで北海道から鹿児島県まで、全国各地のICT支援員を取材し、その活動の様子や課題などを取り上げてきた。ICT支援員と言ってもその形態や業務内容は様々だが、共通している部分もある。今回は、総括の意味も含めて振り返り、今後ICT支援員に求められるものは何かを考えてみたい。
本連載で取材したICT支援員の配置形態は、大きく分けて3つに分類することができる。
1つ目は「常駐型」
長崎県の長与町立長与中学校(第9回)のように、ICT支援員が終日ほぼ毎日学校に常駐し、日々のICT活用をサポートする。「いつでも気軽に相談できる」「継続性の高い支援ができる」といった利点がある。タブレット端末が大量に導入された学校では特に有効だろう。手厚い支援が可能な分、予算の確保が課題となるが、導入された機器を眠らせず、効果的な活用を促すためには、大切な存在だ。
2つ目は「兼任型」
北海道石狩市(第3回)の様に、1人が複数の学校をサポートする。兼任する学校数が増えるほど、1校の関わり方は小さくなる。石狩市の事例ではフューチャースクール実証校で経験を積んだICT支援員が市内の他校もサポートしている。高いスキルがあってこそ円滑に稼動できる形態だ。教育委員会としても少ない予算で広域に支援できるメリットはあるが、優秀な人材を育成、または確保できるかが課題となる。
3つ目は「センター型」
熊本市(第2回)などが代表的な例だ。普段は教育センターに常駐し、学校からの依頼に応じて対応する。
熊本市の様に政令指定都市になると、どうしても少数のスタッフで多数の学校に対応しなければならない。スケジュール管理はもちろん、各学校が保有する機器や対応記録のデータベース、遠隔操作によるサポートなど様々なツールを使い、効率よく活動している。高いスキルを持った人材と、全体的なマネジメントができる組織でなければ難しい。教育委員会が外部団体に業務を委託する場合、その地域にその様な技量を持った団体が存在しないことが課題になる場合もある。
今回取材した事例で共通していた最も大きな課題は「財源の確保」だ。
関係者から「なぜ学校のICT活用を支援する人材が必要なのか?について財政担当に説明しなければならないが、理解を得るのが難しい」という意見を聞く。
新宿区(第6回)の様に、ICT支援員の活動回数やその内容、経年変化などを集計・グラフ化し、効果を数値で表している例もある。議員や行政職員に、実際の授業や支援員の活動の様子を見てもらうことで理解を得ている例もある。このような地道な取り組みを様々な形で発信し、財源確保につなげている。
本連載に関する取材以外でもICT支援員の配置ニーズが高まっていると感じる。
タブレット端末や電子黒板など、新たなICT環境を整備した自治体や学校からは「必要だ」という声も聞く。
教育委員会としては、整備した機器は効果的に活用して欲しい。現場の教師や児童・生徒は、新しい機器の操作に慣れることから始めなければならない。その差を埋め、活用の潤滑油となるのは、テクノロジーではなく「人」ではないだろうか。
タブレット端末の登場で、従来のPCよりも操作性は簡便になった言われるが、電子黒板との連携など授業中のICT活用の機会は増え、その結果、覚えるべき操作も増えている。校内には無線LANなどのネットワークが高度に張り巡らされ、ある程度の知識がなければトラブルに対応することが難しい。
そのような環境では、ICTの活用を専門にサポートしてくれる「人」の存在は心強い。
取材した支援員の多くは「難しい専門用語を使わない」「日頃からコミュニケーションをとる」といったことを心がけていた。利用者の心理的・技術的なハードルを下げることができれば、活用が定着しやすい。
どんな機械でも、潤滑油がなければギクシャクした動きになるだろう。
今回取材したICT支援員は、目に見えない場所でもしっかりと潤滑油の役目を果たしていた。
その結果、学校や地域のICT活用が滑らかに、効果的に進んでいたのだと思う。
今後、ICT支援員がよりよい整備と活用を繋ぐ大切な存在として認知され、活躍する場所が増えていくことを期待している。(教育情報化コーディネータ・NEL&M社・田中康平)
【2015年3月2日】
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