特集:次世代の教育環境を構築する

校務系・学習系データを安全に連携・活用する

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文部科学省 次世代学校支援モデル構築事業
総務省 スマートスクール・プラットフォーム実証事業

文部科学省「次世代学校支援モデル構築事業」、総務省「スマートスクール・プラットフォーム実証事業」は連携して、校務の情報を児童生徒の学習履歴や学習成果物等の授業・学習の記録などの「学習データ」とつなげ、可視化することで、教員による学習指導や生徒指導等の質の向上や学級・学校運営の改善に資することを目的とした実証を行う。文部科学省「教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」に沿う校務情報と学習情報を安全にやりとりできる仕組みも合わせて構築する。本事業の実証地域が決定した。各実証地域では、既に自治体主体で展開している様々な先進的整備や取組を背景に、本事業に取り組む準備を進めている。

実証5地域が決定

本実証では「授業・学習系システム」と「校務系システム」との間の安全かつ効率的な情報連携と、それにより生成されるデータを効果的に活用できるシステム(スマートスクール・プラットフォーム)を構築。次世代ネットワーク環境についてガイドラインを策定する。実証は次の5地域・学校。

▽福島県新地町=町立福田小学校、同新地小学校、同駒ケ嶺小学校、同尚英中学校

▽東京都渋谷区=区立広尾小学校、同代々木山谷小学校、同上原中学校

▽大阪府大阪市=市立天王寺小学校、同阿倍野小学校、同滝川小学校、同大和川中学校、同旭陽中学校

▽奈良県奈良市=市立富雄第三小学校、同佐保小学校、同六条小学校、同富雄第三中学校

▽愛媛県西条市=市立神戸小学校、同壬生川小学校、同西条東中学校

■新地町教育委員会

新地町教育委員会では、安全を確保しながら校務系データと学習系データを連携することで、以下に取り組む。

▼児童生徒名や出欠状況、教科指導計画(校務系データ)学習シート(学習系データ)を連携。個人の学びの経過を捉えて適切な指導に結び付ける。時系列で児童の理解がグラフ化される仕組みを活用し、教員が授業展開を振り返り、指導方法を見直しやすくする。

▼児童の考えを共有する仕組みとして活用していたノート記述データ(画像データ)を教員用PCで管理して単位時間ごとの評価に活用。学期末評価にもつなげる。自己評価能力に対する支援や指導も行う。

▼児童生徒の発表回数や全体で共有した発表活動データを分析。適切な評価と授業改善につなげる。

▼教育クラウドプラットフォームサービス「まなびポケット」のドリル学習型コンテンツに蓄積された情報と定期テスト等の結果、出欠情報を連携して分析。自主学習への意欲や定期テスト前の教員フォローも可視化する。

▼保健室利用状況や出欠状況、協働学習ツールの相互書き込みの分析から不安を抱える児童生徒を早期発見。いじめ・不登校防止につなげる。

▼デジタルアンケート調査、生徒指導記録のデータ分析による生徒指導上の問題を早期発見して解決に導く。スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーとも連携し、SNSを活用した教育相談も行う。

▼授業の板書記録ツールを用いてデータを蓄積。教員の授業改善につなげる。

平成29年度はこれらが活用できるシステムを構築。セキュリティの確保については「教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」を踏まえつつ教員にとって負担が少ない仕組みを検証する。  無害化対策や暗号化等により安全対策を行うと共にコストと利便性も検証する。新地町では家庭に情報端末を持ち帰り家庭学習する際はモバイルルータを貸与していたが、昨年度からは家庭のネットワークを利用した授業・学習系システムへの接続と課題を検証しているところだ。本実証ではデータのセキュアな受け渡し方法についても検証する。

本実証の円滑な遂行のため、文科省「ガイドライン」を基にしながら「新地町教育情報セキュリティポリシー」として改訂する。改訂については「新地町教育情報セキュリティポリシー改訂についての有識者会議」を立ち上げる。最高責任者として目白大学原克彦教授を依頼。学校の情報資産を分類して物理的・人的・技術的セキュリティを確保する方法を検討する。  
効果検証については、批判的・協働的・創造的思考力を測定する「GPS−Academic」の実施やICT活用状況とパフォーマンス能力の相関関係の調査などを行う。本実証では以下のシステム・ツールを活用。「スズキ校務」「まなびポケット」「eライブラリ」「スクールタクト」「バンショット」。

11月に研究発表

なお本年11月15日に「新地町ICT活用発表会」を町立福田小学校、駒ケ嶺小学校、新地小学校、尚英中学校で開催する。申込締切は10月31日。詳細は教育委員会HPに掲載。

■渋谷区教育委員会【膨大なデータを収集 区のポリシー見直し】

渋谷区教育委員会では、昨年からモデル校として1人1台の情報端末活用をしている2校に、ICT活用に実績のある1校が加わって3校で本事業に取り組む。9月から区立の全小・中学校(小学校18校、中学校8校)において児童・生徒・教員に1人1台のタブレット端末を配備。児童生徒数の多さ、活用率の高さから獲得できるデータ量は多く、その膨大なデータをどう活用していくのかについて検証する。

統合型校務支援システムも導入。協働学習用ツール「コラボノート」やドリルシステム「スタディサプリ」などの学習系も活用しており、校務系・学習系のセキュアなデータ連携については「教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」を参照しつつ区のポリシーの見直しを図る。既に1台の教員用PCで、校務系情報と校務情報系を使い分ける仕組みは構築済み。学習系で活用しているパブリッククラウドについて保護者の同意書をとるなど、個人情報の扱いをクリアにする考えだ。

教員用端末に黒板アプリを導入

全校に整備した教員用タブレット約700台に黒板アプリ「Kocri for Windows」ライセンス3年分も導入。2学期から活用を開始している。これはタブレットを活用しやすいインターフェイスでプロジェクターなどの提示機器を操作・活用できるもの。教員用タブレット端末に手書きした内容を黒板に投映できるようにした。

■大阪市教育委員会【児童生徒、教員、管理職 教委のデータを見える化】

大阪市ではこれまで、子供と向き合う時間の確保のため、校務支援ICT活用事業を通じて教員の業務効率化を図ってきた。本実証事業では、情報セキュリティの担保を前提とする行政・校務・学習データを連携して、有益なデータを児童生徒・教員・管理職に「ダッシュボード」(統計データを表示して意思決定を促す)で提供する。学校では、エビデンスに基づく学級・学校経営を加速化する。

本事業計画の策定にあたり、学校に対して47回の「データ活用に関する期待や要望」についてヒアリング。それに基づき、本実証では次の3つに取り組む。
▼学力・体力の向上〜学習サイクルの定量評価による学力向上
▼安全・安心な学校〜授業満足度や日々の充実度と校務系データを連携。教員の対応力の向上や個別指導の強化を図る
▼学校経営を支援する教育施策の企画立案〜校務系・学習系・行政系データの連携による学校経営の深化  
学習系Webシステムも新規導入してパブリッククラウドを活用。小学校では「やるKey」、中学校では「ABC」を導入して学習者データの蓄積・分析・活用を図る予定だ。

■奈良市教育委員会 【教員用端末は1台3役「学びなら」事業も】

奈良市では、平成26年度からモデル校事業で小学4年生以上の児童・生徒に1人1台のタブレット端末が利用できる環境を整えている。さらに今年度9月から、奈良市学力向上プロジェクト「学びなら」事業において、全43小学校の4年生及びモデル校(6小学校)の4・5・6年生の日常テストデータをクラウド上に蓄積しているところだ。
スマートスクール事業では、これら学習者データと校務データを連携させて指導改善につなげる。遅刻欠席や保健室来訪ほかの校務データを成績・意欲等と紐づけることで、これまで教員の経験値で判断していたことなどを可視化、教員の経験不足やノウハウの伝承に頼っていた現場対応力を補う考えだ。

教育情報セキュリティポリシーに関するガイドラインに対応できる仕組みに基づいた整備も行う予定で、仕様書を9月に公開した(開札予定は10月11日)。教員用タブレット端末は「1台3役(校務用・校務情報用・教育用)」を想定しており、教員用1353台、校長・教頭用131台、事務職、一条高校教員用148台、教育用1539台などを整備。校務系・教育系システム・ソフトウェア等も更新。なお市立小学校43校、中学校21校のうち拠点を同じくする小学校・中学校3校の65校62拠点において、タブレット端末も整備予定。

現在は校務系・学習系ネットワークをVLANで論理的に切り分けているが、今後は校務系・校務情報系、教育系の3つの環境を用意してネットワークを分離し、相互間のアクセスを禁止。これら3つのネットワーク間に中間ファイルサーバを設置してデータ移動するなど各ネットワーク間で安全にデータをやりとりできる仕組みを構築してゼロデイ攻撃にも対応。各ネットワーク間でファイルをやり取りする際の暗号化も実施。市教育情報セキュリティポリシーガイドラインも更新する。

■西条市教育委員会 【データ連携は3パターン学習系データを暗号化 】

西条市教育委員会では、既に利活用が進んでいる教育クラウド上に構築した統合型校務支援システムと、学習系アプリケーションのさらなる有効な利活用を目指す。

クラスカルテや自治体カルテで効果検証

学習ソフトデータと校務支援データを連携してシングルサインオンを実現。授業振り返りアンケート結果を見える化した「カルテ」を活用してエビデンスに基づく指導の充実を図る。複数の学習系ソフトウェアの活用状況とその活用目的、授業後の児童・生徒の振り返りデータ・理解度と、校務支援システムが保有する学籍情報やその他の児童・生徒に属する情報を自動抽出して「クラスカルテ」として表示。日々の授業改善の足掛かりとする。

また、カルテ活用による時間削減度も測定。指導行動の変容(教職員の資質向上)を定量的・定性的に抽出する。 教育施策立案につなげる「自治体カルテ」も作成。市内の全小・中学校のICT活用状況とその活用目的、教員の授業単位での意識調査データを自動抽出する。教室から、教員用タブレットで出欠席を入力して校務支援システムに安全にリアルタイムで自動入力・集計する仕組みも検証。 教員用グループウェアも発展的に活用。グループウェアのアンケート機能を最大限活用し、定量的・定性的な成果を計測。なお市では同システム内に「出退勤管理システム」を整備し、平成29年8月1日から全校でその運用を開始している。

セキュリティの仕組みも検証

本実証については既に導入済の校務支援システム、グループウェアに加えて今年度10月から、エビデンスツールとタブレット学習システムを導入する。学習系・校務系システムのデータ連携に際しては「API連携」「中間サーバ連携」「暗号化」などを各種組み合わせた3パターンで検証する。学習系クラウド内に置かれるデータは全て暗号化した状態で保持され、インターネットからのサイバー攻撃でデータを持ち出されたとしても、解読できないような仕組みを構築。
 現在構築済の校務支援システムではVDI(デスクトップ仮想化)を経由する運用であり、安全は図られたものの接続の煩わしさもあった。そこで、教員からのみ接続できる既存のクラウドネットワーク上に、新規に「データ連携用サーバ」を構築し、連携に必要な校務データだけをSSLで暗号化してデータ連携サーバと同期させるようにする。これにより普通教室で教員がタブレットを使った出欠席入力をシームレスに運用できる仕組みになる。
 教員の必要最小限のログインを図るために生体認証を組み合わせることで、シングルサインオン化を図って教職員の負担軽減を図り、「ユニバーサルデザイン化」を目指す。

【2017年10月2日】

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