山極壽一京都大学総長(左)、東原敏昭日立製作所社長(右) |
解決方法のイノベーションを創出
京都大学と日立製作所は昨年6月、共同研究部門「日立未来課題探索共同研究部門(以下、日立京大ラボ)」を、京都大学吉田キャンパスに設立した。
未来の社会課題の解決と、経済発展の両立を目指し、共同研究に取り組んでいる。これにより日立製作所の研究者と、京都大学の多様な人材とが一体となって共同研究にあたり、既知の課題解決方法ではない、新たなイノベーションを創出していく考えだ。
日立京大ラボには日立製作所の研究者10名が常駐。うち2人は特定准教授として京都大学に出向中だ。
その1人である嶺竜治氏は「社会システムの変革を先導し、人々に豊かさをもたらす価値を創造しながら、社会課題の解決と経済発展を両立させることが極めて重要になってきています」と話す。
生物進化に学びながら人工知能を探求
同ラボが取り組む課題の1つが「未来社会と文化の探索的な洞察による『2050年の社会課題と、その解決に向けた大学と企業の社会的価値提言』の策定」だ。
幅広い学問領域において真理や基礎を探究している京都大学の研究者と、「人視点」で社会課題を描き出し将来像を提示する日立のデザイナーとのディスカッションを通じて、2050年の課題の設定やビジョン発信を進めていく。
2つ目が「環境や文化と共生しつつ社会課題を解決し超スマート社会を実現するための『ヒトや生物の進化に学ぶ人工知能システム』の探究」だ。
ITの普及やグローバル化の進展に伴い、価値観や行動様式が大きく変化している。
こうした中、次々に現れる課題に対して、迅速な対応が求められている。そこで同ラボは、生物のように自己変革しながら、臨機応変に問題を解く次世代の人工知能を探求していく。
人工知能をテーマに設定した理由について、嶺氏は「今後、社会課題を解決する上で、IoT(Internet of Things)でモノやヒトのデータをつなげ、集めたビッグデータを解析して効率化を進めていくことが不可欠になります。日立は、ビッグデータを活用して様々な最適化や判断を自動化し、企業のアウトカム(成果)の向上に貢献する人工知能の研究開発を進めてきました。その一方で、急激に変化する時代を見据え、次世代の人工知能の研究開発にも取り組むべきと判断しました」と語る。
3つ目が「未来の社会インフラやヒトの生活文化を切り拓く革新的なモノの創生に向けた『基礎物理のための最先端計測』の探究」だ。
材料機能発現のメカニズムを解明し、新たな材料の開発に挑戦していく。
「京都大学の物性物理分野の基礎研究と、日立の持つ原子分解能の超電子顕微鏡の活用を通じて、例えば、理論的に予想されるが、いまだに検証できていない物理現象の解明に取り組んでいきたいと考えています」
今後、オープンフォーラムなどの社会に開かれた研究活動の推進や情報発信を積極的に進めていく計画だ。
日立製作所はこのほか、東京大学と「日立東大ラボ」、北海道大学と「日立北大ラボ」もそれぞれ開設。
日立東大ラボは、従来の課題解決型産学連携の発想を転換し、日本政府が提唱する「超スマート社会(Society5.0)」の実現に向け、新しい形の研究開発を推進する。
日立北大ラボは、北海道が直面している少子高齢化や地域経済の低迷などの社会課題解決に向けた共同研究を推進していく。(蓬田修一)
【2017年9月4日】
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