連載

【第42回】ICTキャンパス 東京大学

膨大な移動データをクラウドで処理・提供

近畿大学
「人の流れプロジェクト」
http://pflow.csis.u-tokyo.ac.jp/

26都市・440万人分のデータセットを整備

東京大学空間情報科学研究センター(CSIS)および東京大学生産技術研究所の柴崎・関本研究室は、2008年度から「人の流れプロジェクト」に取り組んでいる。

同プロジェクトは、人の行動に関するデータを処理し、人の流れについてのデータを提供するものだ。

東京大学空間情報科学研究センター・特任講師の瀬戸寿一氏は同プロジェクトについて、次のように説明する。

「人やモノの移動に関する様々な調査・観測データのクレンジング(データ品質を高めるための修正や正規化作業のこと)や、経路推定を共通に処理する技術基盤を整備し、主にパーソントリップ調査にもとづく移動統計データを、単位時間ごとの連続的なデータとして独自に整形あるいは再構築します。こうすることで、様々な分野において活用可能なデータセット(データアーカイブ)を整備・提供しています」

「パーソントリップ調査」とは、国土交通省の地方整備局や県庁の都市計画課など公的機関が、主に交通計画の立案のために都市圏ごとの人の動きに関して、数年〜10年おきに質問紙を用いて実施した実態調査を指す。
現在までに、国内外26都市、約440万人分の移動データがデータセットとして整備された。

これらは、CSISの共同研究利用システム(JoRAS)を通じて広く研究目的のために提供されている。

提供されたデータセットを活用することで、外部の研究機関などにおいて年間約50件の共同研究が実施されている。

特徴的な研究成果を紹介すると、災害発生時における人々の避難シミュレーション(https://www.geospatial.jp/gp_front/show_case/tsunami)や、アジア都市圏の都市構造の解明(http://pflow.csis.u-tokyo.ac.jp/archives/767/)などがある。

「ほかにも、観光行動の実態把握や新型感染症伝播モデルに関する研究なども行われており、従来の主な研究テーマであった交通・都市計画の分野から、大きく広がっています」

クラウドで自由度の高いカスタマイズ環境を実現

人の流れプロジェクトでは、クラウドサービスを2013年度から本格的に活用している。

大量かつ多種類のデータを処理したり、ウェブページなどで動画として公開するためのビジュアライゼーションの生成において用いている。

「特に経路推定処理を行ううえで、広範囲のデータ処理や、道路・公共交通ネットワークとの紐付けには、クラウドサービスを活用した分散処理環境が欠かせません」

クラウドサービスを活用した理由は、データの保管のみならず、データ処理や解析環境を、容量や規模に応じてカスタマイズして利用することが可能だったからだ。

クラウドサービスはアマゾン ウェブ サービスを採用。

その理由について瀬戸氏は「導入にあたり、同様のサービスを比較検討した結果、多くの導入実績があり信頼できるサービスであったことに加え、扱えるデータサイズや仮想環境も非常に多様で、OS選択段階からカスタマイズ可能でフレキシビリティに優れている。コストパフォーマンスも高かった」と話した。

今後は、引き続き提供都市を国内外で増やしていくことで、データ提供サービスを充実させ、さらに多様な研究ニーズに応えていく考えだ。

瀬戸氏は「個別の研究プロジェクトにおいては、統計調査データ以外の異種データを組み合わせることで、これまで取り組んできた交通行動の実態把握や災害時における人流推定を高度化することができるしょう。また、センサーなどから取得されたデータによる、人流推定処理の短時間化やリアルタイム化も目指していく予定です」と抱負を語っている。(蓬田修一)

 

【2017年7月10日】

 

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