特集:教員養成×ICT  

アクティブ・ラーニングで授業づくり

「2020年代に向けた教育の情報化に関する懇談会」最終まとめ案「アクションプラン」では、教員養成課程及び研修の充実が求められている。教職課程では、ICT活用について学ぶ機会の充実を図ること、教職課程を置く大学は、学校・地域でICT活用をリードしていく教員を対象とした研修を行うこと、教職課程認定の際に、「情報機器及び教材の活用」を含む授業科目において活用できる施設・整備の確認をすることなどが明記される予定だ。現在、各大学ではICTを活用できる教員養成についてどのような取組を進めているのか。ICT環境を使いこなしながらアクティブ・ラーニングの視点に立った授業づくりに取り組む各大学・教職大学院の取組を報告する。

教員養成・研修で目標創出型A・L<静岡大学>
教員養成プログラム 効果測定3種で成果<奈良教育大学>
A・L模擬授業でICT実践力育む<鹿児島大学>
教育実習で院生がICT支援員に<信州大学>
全教員と院生に情報端末を貸与<和歌山大学>
アタマとカラダをアクティブにする<明星大学>

静岡大学教育学部

教員養成・研修で目標創出型A・L

静岡大学では、大学院教育学研究科附属学習科学研究教育センター(RECLS)と、教育委員会や地域の学校と連携して、学部や大学院の効果的な「アクティブ・ラーニング×ICT」の授業や実習の開発・実践に取り組んでいる。ここでは次の2点を重視している。

(1)学校現場を軸として現場教員と共に学び成長する機会を入れる

(2)次期学習指導要領に対応する形で、主体的で対話的な深い学びを実現するためのICT活用にフォーカスする

ICTをいかに授業で活用するか。アクティブ・ラーニングをいかに授業に取り入れるか、という視点だけでは、従来の「覚えたことを使えるか」という目標や評価に対応した授業(正解到達型A・L)になってしまう。そこで次期学習指導要領に対応した授業づくりでは、情報を得て使うだけではなく、複数の情報を組み合わせて新たな意味を見出すような「新たな知識を創造できるか」という目標や評価に対応した授業(目標創出型A・L)の視点が重要となる。

現在、静岡県教育委員会と静岡大学が協力し、「ICTを活用した自治体応援事業・指導力パワーアップコース」事業(文部科学省)で「静岡県版校内研修プログラム」を作成し、試験運用中である。このプログラムは10個のモジュールで構成されており、各教育委員会、学校、大学授業、各種講習会等で、受講者の状況や目標に応じて組み合わせて利用できる。

実証校の1つである掛川市立大須賀中学校では、単元設計のモジュールを用いて、正解到達型と目標創出型のA・L×ICTの単元を両方対比的に作成して、より効果的な授業づくりにつなげている。また、授業と評価づくりのモジュールを用いて、学習課題、教材、学習活動、学習成果の4視点から、評価シートを用いながら授業案を深く検討する活動も行っている。

これらの研修に学部生や大学院生も参加するカリキュラムを試行しており、相互に学び合うようなカリキュラム構築を目指している。そこでは、解を見つけたらそれ以上対話が起きない学習課題でないか、写真や動画の提示で解を教示してしまわないか、アプリを使うこと(活動)が主眼となり、本来の深い学びを引き起こす過程がおろそかになっていないか、生徒らの考えを教員が比較して提示するのではなく生徒自身が主体的に比較する活動になっているか、などの議論が起きている。

現在、免許状更新講習でも、このモジュールを活用した科目を開講するなど、静岡県下において教員養成段階から研修まで一貫した形で「A・L×ICTの指導力」を向上させていくための体制を整えているところだ。

【報告】益川弘如准教授・静岡大学

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奈良教育大学教職大学院

教員養成プログラム 効果測定3種で成果

奈良教育大学教職大学院では、「アクティブ・ラーニング(A・L)」「学習者中心の学習」について、その専門知識を培うため、富士通の協力を得て、20台のタブレットPCを活用して教員養成プログラムを開発している。

プログラムは、教職大学院の講義「授業方法と学習形態の工夫(ICT活用を含む)」で、次のように展開している。

▼授業での様々な学習活動について既知と未知を見つめる演習(学習カード分類)を通じてA・Lの特徴をつかむ ▼ICTを活用した授業イメージを豊かにする講義と演習 ▼A・LにICTは必要条件か、十分条件かを検討する演習 ▼1人1台のタブレットPCを活用した環境下の模擬授業(一斉学習で「マーナビケーション」を活用) ▼デジタルコンテンツとデジタル教科書の活用方法をみつめる演習(デジタル教科書の比較分析等) ▼学習形態に関する既知と未知を見つめる演習 ▼1人1台のタブレットPCを活用した環境下の模擬授業(協働学習で「デジタル模造紙」を活用) ▼A・Lの課題設定と学習環境の関係を考える演習 ▼A・Lの評価方法を見つめる演習(パフォーマンス評価、ルーブリック評価、ポートフォリオ評価等) ▼目的に応じたテストの作成に関する演習 ▼1人1台のタブレットPCを活用した定着支援・習熟支援、テストの作成に関する演習(Fujitsu手書き電子ドリルを活用) ▼デジタルポートフォリオを活用した授業に関する演習(「知恵たま」を活用) ▼1人1台のタブレットPCを活用した家庭学習支援に関する演習(「Shu-Chu-Train」を活用)

この授業プログラムの効果測定に関しては、次の3つのアプローチで進めている。

▼プログラム開始時とプログラム終了時に、ICT活用指導力に関する質問紙を用いて意識調査。その変化を比較 ▼プログラムの半分終了時と全終了時の2地点で、受講者が本プログラムに参加して獲得したと思われる専門知識についてマインドマップを描いてもらい、その2つを受講者ごとに比較(技術と関わる教育的内容知識〈=Technological Pedagogical Content Knowledge〉フレームワークを用いてその変容をカウント) ▼毎回プログラム終了時点に記載されたポートフォリオに書かれた受講者の振り返り記述の分析を定性的に行い、その変容を比較。

その結果、プログラム受講後はICTを用いた授業設計、学習環境について肯定的になり、不安も減少していることが明らかになった。

【寄稿】小柳和喜雄教授・奈良教育大学教職大学院

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鹿児島大学教育学部

A・L模擬授業でICT実践力育む

鹿児島大学教育学部に平成27年7月に完成したアクティブ・ラーニングプラザには、電子黒板やタブレット端末、無線LAN環境を整備。学生のグループ・ワークやディベート等のアクティブ・ラーニングの推進に取り組んでいる。中でも「教育工学」の授業では、学生のICTを活用した授業力を高める取組を展開。教育活動での高度な専門的技能やコミュニケーション力の育成を目指している。

実践ではICT活用を深めていくにあたり、学生が4人チームを編成。アクティブ・ラーニングの視点を取り入れ、電子黒板やタブレット端末等を協働的な学びの中でどのように活用すればよいかをチームで話し合い、模擬授業を設計するようにした。お互いにアイディアを出し合いながら授業設計での課題を協働で解決しようというものである。

まず、チームの協働性を高めるために、チームを紹介するデジタル新聞を分担して制作。デジタル共有ボードを活用して授業外でも作成できるようにした。

次に各チームで、授業づくりの第1歩として、ICTを活用した授業事例を収集・整理。デジタル共有ボード上でマトリックス(表)にまとめ、ICT活用の特徴や課題を自分たちなりに考察。電子黒板やタブレット端末の操作方法についてはeラーニング上にあるマニュアルで事前に学習できるようにした。

模擬授業でICT活用
模擬授業でICT活用

学生の申し出に応じてICT教室も開放。電子黒板やタブレット端末を活用したリハーサルを計画して主体的な学びが展開できるようにした。

模擬授業の指導案を各自が完成した段階で、eラーニングシステムで指導案を共有。相互評価で意見交換を行いながら、電子黒板やタブレット端末を活用した模擬授業をICT教室で行う。教員役の学生は授業者となり、電子黒板に拡大提示した画像に書き込みながら説明したり、学習課題や授業のまとめを板書したりする等、授業づくりの基礎を学ぶ。子供役の学生は、配付されたタブレットに書き込みながら学習を展開。タブレット端末活用のポイントを学ぶことができた。

模擬授業の様子はビデオ映像として記録。eラーニングシステム上で省察できるようにし、授業改善のポイントをお互いに出し合いながらICT活用のポイントを整理した。

ICTを活用した授業力は今後不可欠な能力であり、ICTを活用した模擬授業を通じて、板書や発問等の従来の指導も身につけ、学校現場に必要な実践的な指導力の育成が期待できる。

【寄稿】山本朋弘氏・鹿児島大学教育学系講師

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信州大学教育学部

教育実習で院生がICT支援員に

信州大学教育学部では、学生のICT活用指導力を高めるため、教育実習にICT活用授業の実践を義務づけている(本紙2014年9月1日号を参照)。昨年度の教育実習生によるICT活用授業の実施率は94・9%。しかし、その前年度は56・6%だった。この1年間で実施率が大きく向上した理由は、「教育でICTを活用する意義を考えること」「自分のPCを外部モニタに接続することに自信を持つこと」「教育実習のためのICT支援員を配置すること」にある。

信州大学リーフレット
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学生は「ICT活用リーフレット」で、教育実習でICTを活用した授業を行うための方法を学ぶ。ICT活用リーフレットとは、教育実習でのICT活用を学ぶためのA3用紙を2つ折大の教材だ。このリーフレットにある先輩実習生のICT活用授業の写真をもとに、先輩が授業でICTを活用した目的を少人数グループで話し合った。多くの学生はICTを拡大提示の道具と考え、児童生徒の興味・関心をひくことばかりに捉われてしまう。そこで、先輩実習生が「あえてICTを使った理由」に議論を焦点化させる。すると「学習過程を記録・再生できる」「児童生徒全員の考えを瞬時に集めて分類できる」など、多様かつ大量の情報の蓄積・共有・分析できるというICTの特徴に学生自らが気づいていく。あえてICTを活用する理由を話し合うことで、その意義を学んだ。

ICT活用リーフレットでは、先輩実習生が実際にあったトラブルやその対策も解説している。最も多かったトラブルは、自分のPCを外部モニタにうまく接続できないことだ。

そこで、リーフレットをもとにHDMIやVGAなどの接続端子の種類と特性を学び、全員が自分のPCを外部モニタに接続する演習が課された。少人数グループで、学生同士が試行錯誤しながら演習に取り組むなかで外部モニタへの出力方法に複製と拡張があることを学び、演習が終わる頃にはすべての学生が自信を持って自分のPCを外部モニタに接続できるようになった。

本学教育学部では教育実習期間中、各学校にICT支援員を配置しており、約6割の実習生は授業のなかで支援を希望している。支援員は実習生のICT活用授業や実習生が使うICT機器の事前準備・教材作成を支援しており、その存在が実習生のICT活用の大きな支えとなっている。

ICT支援員は、将来、学校教員になることを目指す大学院生だ。実習生のICT活用を支援するなかで、教員や児童生徒が授業中にどのようなことにつまずきやすいのかを学ぶことができ、自身のICT活用授業に活かされていく。

【寄稿】森下孟助教・信州大学教育学部

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和歌山大学教育学部

全教員と院生に情報端末を貸与

本年度から開設された和歌山大学教職大学院では、ストレートマスターと現職教員に加えて初任者教員(10名)が加わるのが特徴だ。

本学では全教員と院生に「情報端末(iPad)」を貸与しており、既に日々の教育・研究活動における必須のツールとなっている。まずは自分たちが日常的に活用することで、「学びを支援するツール」として実感することが目的だ。

モバイルルーターの貸し出し体制や情報端末からの印刷環境も準備。また、教職大学院棟には、情報端末と連携して電子書籍を作成できるPC環境を用意。教材開発力の向上も目指している。

この体制は、平成25年度から実施してきた「初任者研修高度化事業」(和歌山県教委との連携)から継続しており、既に4年目の運用実績がある。

「情報端末」は、日々の学習・活動記録のクラウドでの共有化、各種文書のデジタル化等、日々の大学生活において利便性の高い学修ツールとして位置づけた。教育現場の写真や映像情報を元にした「振り返り」の手段としての活用頻度が高い。例えば、初任者の日々の授業記録(板書や児童生徒のワークシート・ノート、作品等)や各院生のインターンシップ実習での活動記録に用いられている。

教員側も同様で、授業記録を元にした客観的・具体的な指導に役立てている。

教職大学院の年度初めには、共通科目「ICT活用と指導技術」を設定している。ここでは情報端末を「教材提示手段」と位置づけ、指導方法の向上に取り組んでいる。一斉授業での活用に加えて、「1人1台体制」や反転授業における活用についても学び、その有効性・可能性のビジョンを持たせている。

その他の講義では、学習指導要領解説や各種答申・報告資料、論文等のPDFの閲覧・蓄積・加工等にも日々利用されている。例えば、「次週の講義では、○○の報告書をiBooksにダウンロードしておくこと」といった指示が出されることもある。

院生・教員全員が共通の情報端末を所持し、共通のSNS・クラウドを利用できる環境によって、カリキュラムの構築や講義での積極的な利用が促されているといえる。

当教職大学院における情報端末活用の真価はこれからである。次年度は、県から派遣される現職教員は勤務校に戻り、原則大学には出てこない。そのため、日々の情報交流・共有に専用のSNSを用いたり、遠隔指導のためのテレビ会議システムの活用・授業映像や研修指導時の映像データの共有などを行う予定だ。

【寄稿】豊田充崇教授・和歌山大学教職大学院

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明星大学教育学部

アタマとカラダをアクティブにする

3年生対象の「中等教育方法学」では、ICT(電子黒板やタブレット端末など)の活用を含む教育の方法と技術を、知識だけではなく、経験としても学び、学習指導の方法の基礎を実践的に習得することを目標としている。

学生は、どのような教授法や学習形態があるのかを、先行研究や現在の初等中等教育の事例を通して理解。それらを、模擬授業を通して実践する。

模擬授業を進めるにあたり、5〜6名が1つのグループになり、ICTを活用した指導案・教材を作成する。それらは最低2回以上、教員や他のグループから修正コメントをもらい、その後、指導案に基づいて模擬授業を実施する。

模擬授業の導入は、多くの教員養成課程で実施されているであろうが、本講義では、それに加えて「アタマをアクティブ」にするための試みを2つ行っている。

1つは、学習活動の必然性について学生がどう捉えているのかを追求することである。

本講義における評価の方法の1つとして、模擬授業を学生同士がルーブリックを用いて相互評価するという内容を取り入れた。これにより模擬授業の評価基準が明確になると同時に、学生が作成する指導案や模擬授業における具体的な指導方略を検討する指針として用いることができた。

もう1つは、自身の授業を振り返る仕組みの導入である。

模擬授業は1つの学習活動で15分程度の実施とし、それをビデオに撮影してWebにアップロード。学生が学内外のどこにいても自分たちの模擬授業を振り返ることができるような仕組みを設けた。また、授業動画の視聴後に相互評価の入力欄を設けている。

学生が取得しようとしている教員免許の教科は国語・数学・社会・理科・体育など様々である。そのため学生は自身が希望する教科と異なる教科の模擬授業も評価しなければならない。他の教科の授業であったとしても、学習目標の設定の仕方や、ICTを用いた授業展開の仕方などは教育方法・技術として共通の部分は多い。また、それらは自身の授業設計の参考にすることもできる。さらに、相互評価を行うことで、学生自身が設計した授業が、他の学生にはどのように捉えられるのか、改善点は何なのかについて常に振り返りを行わせることができる。

このような2つの方略で知識を得ること、経験すること、振り返ることを通してカラダもアタマもアクティブにして、学習指導の方法の基礎を実践的に習得するような取組を行っている。

【寄稿】今野貴之助教・明星大学教育学部

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【2016年9月5日】

 

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