連載

【第30回】ICTキャンパス 岡山大学

ビッグデータで教育環境づくり

「教育」を「科学的なサービス」に

グラフA
教育ビッグデータにスケジューリング技術を実装したeラーニング教材で英単語の成績を個別に可視化。高校生の英単語の成績は3週間で飛躍的に伸長した。
グラフB

教育分野でも活用が注目されているビッグデータ。岡山大学大学院教育学研究科寺澤孝文教授は「スケジューリング」という新しいアプローチを用いて、ビッグデータの教育活用を実践し効果を上げている。寺澤教授に、スケジューリングアプローチの概要やビッグデータが教育に及ぼすインパクトについて取材した。

寺澤教授は「教育はこれまで、科学とは言い難いサービスであった。スケジューリングアプローチからビッグデータを活用することで、完全に科学と言えるサービスに落とし込むことが可能になった」と話す。教育分野の学習データは、他の分野で収集される行動履歴データに比べ、個人ごとの反応データが大量に収集できるため、個人の行動予測には最適な特徴を持つ。

しかし、そこには問題もある。例えば、ある問題を勉強して次の日にテストをした場合と、1か月後にテストをした場合とでは、成績は大きく異なってくる。問題をいつどのような「タイミング」で、どのように学習し、それからどれ位の「インターバル(期間)」をおいてテストするのかといった、「タイミング」と「インターバル」という時間条件を考慮する必要がある。これまではこうした「時間条件」を制御しデータを収集する方法はなかった。そこで寺澤教授は、学習とテストの生起タイミングを事前に制御して、データ収集を行う方法を開発。これが「スケジューリング」と呼ぶアプローチだ。

学習の積み重ねと成績が可視化

スケジューリングアプローチでデータを収集すると、精度の高い時系列データが大量に入手できるようになり、成績などの予測精度も飛躍的に高まった。「ドリル学習などの成果が可視化できるようになり(上図参照)、成績の低い子でも、日々の学習の積み重ねの様子と成績を自分で見ることで『やればできるようになる』と実感できるようになった」という。

東京の麻布高等学校や長野県の飯田高等学校などで、英単語学習についての実証実験を行った際には、1日に1単語を5回以上繰り返して学習しても、1か月後には、繰り返しが4回以下の場合とほとんど効果に差がないことが明らかになった。しかし、覚えようと意図せずに、見流す程度の学習でも、成績は着実に上昇することがはっきりとデータに表れた。

現在は岡山県や長野県の小学校などにおいて、スケジューリング技術を実装したeラーニング教材による検証を行っている。岡山県赤磐市の小学校で行った検証では、漢字の読み書きドリルを1年半継続したところ、子供の成績の向上と共に、学習意欲も明らかに向上した。漢字など、1人で学習すれば習得できる基礎的な内容はeラーニング教材でサポートし、皆でなければできない学びや思考力の育成などに教員が注力できる環境づくりを目指している。

一斉実施の入学試験不要になる可能性も

スケジューリング技術を使い収集し生成されたビッグデータは、想像を超える応用の可能性がある。「典型的な例は、入学試験が不要になる可能性もある。スケジューリング技術を実装した最新のeラーニング教材は、一夜漬けの学習効果を排除して、実力を正確に測定できる。現在行われているような、特定の日に一斉に実施する入学試験は必要なくなるかもしれない」

今後も、学校の教育現場で、創造的思考を育む教育に時間が費やすことができる環境作りを進める考えだ。

 

【2016年7月4日】

 

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