資質と高大連携を調査から考える<明治学院大学 学長特別補佐・戦略担当 伊藤健二客員教授>

大学入試改革が現在進行中だ。各大学は学部ごとに「AP(アドミッションポリシー)」の設定を求められている。それについて伊藤健二客員教授(明治学院大学 学長特別補佐・戦略担当)は「具体性に欠けるAPも多い。それは求めるべき人材像とそのレベルを何でどう評価すべきかについての情報分析が不足しているから」と語り、より成長する可能性を持つ学生を抽出するための手法としてIR(Institutional Research)の有効性を示唆。事例を示した。

ビッグデータから"資質""能力"を分析

アクティブ・ラーニングの価値を検証

今、産業界で求められている「コミュニケーション能力」そして「主体性」を持つ社会人は学生時代にどのような行動をとる傾向にあるのか。

伊藤客員教授は社会人1万人、大学生6・3千人、高校生1・5千人の「HR(Human Resource)ビッグデータ」を収集して社会で活躍している人材の学習行動や成果、志向性等について分析した。

伊藤健二客員教授
年収を上げる可能性が高い大学活動についても研究

「高いモチベーション」の社会人は大学生時代、「意見の違いや立場の違いの理解」、「目的を設定して確実に行動」、「自分の意見をわかりやすく伝えている」項目が有意に高い。専門分野の知識や語学能力には統計的に有意性な関係はなかったという。

また、「高い年収」を獲得している社会人の大学時の行動には、以下の6要素が見られた。▽他人を引き付けて巻き込む ▽新しいものや解決策を生み出す ▽専門分野の知識 ▽現状を分析し目的や課題を明らかにする▽自分の意見をわかりやすく伝える▽ITの操作能力

さらに高校時代における学校・塾以外の学習時間が長い人は、モチベーション等が有意に高くなりやすく、学校・塾以外の学習時間が長い生徒は「計画を立てて勉強している」「友達とたくさん遊んでいる」「勉強が好き」「予習をしている」「復習をしている」場合が有意に多い。対して「真剣にノートをとっている」という要素は授業外学習時間が短くなりやすい。

学生の成績とアクティブ・ラーニングの影響についても分析。

文系上位大学を志望する高校生では、「自分で決めた目標・計画に沿って行動」している生徒は成績が高くなりやすく、理系上位大学を志望する高校生では「自分の行動とその結果について評価する」生徒は成績が高くなりやすい。

また、講義後にディスカッション等が行われないことが多いことから、意図的にアクティブ・ラーニングの一環としてディスカッションの時間を入れる意義は高い。

伊藤客員教授は「理系・文系や男女により分析結果には違いもある」としながらも「様々な要素からデータを分析すると、アクティブ・ラーニングを行う価値が明らかになる。アクティブ・ラーニングを適切に行うためには、適切な課題とその提示方法が重要。例えばグループ学習には様々なレベルがある。グループ学習が円滑になるか否かについては、適切な課題に加えて各グループの人員構成が影響している」と説明した。

では各大学では、どのようなアクティブ・ラーニングを目指すのか。それがAPに反映されているのか。アクティブ・ラーニングを効果的に行うために入試において、どんな高校生に入学を許可すれば良いのか。
伊藤客員教授は高校生を対象に分析し、「授業外学習時間が長い・短い」「成績が良い・悪い」の2要素の分類を表示した。

大学としては、「高校の成績は良いが大学での授業外学習時間が短いと予測される」生徒をとるべきなのか、あるいは「高校の成績は悪いが大学での授業外学習時間が長いと予測される」生徒を入学許可するべきなのか。

「大学での授業外学習時間が短い場合、高校の成績が良いとしても、プレッシャーから解放されたとたん学ばない学生になる可能性が高い」と述べ、オープンキャンパスやブランディング調査等における大学志望者の分析・評価の検討を提案した。

【2016年7月4日】

 

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