総務省
政策統括官・ 情報通信担当 南俊行氏 |
総務省では、多様なデジタル教材を学校や家庭等でシームレスに活用できる「教育クラウド・プラットフォーム」の実証に取り組んでおり、3年目を迎えた。平成29年度からの自走に向け、各社が提供する教育クラウド・プラットフォームの連携・協調方策について検討中だ。南俊行政策統括官は、「このプラットフォームを活用する最低限のインフラが無線LAN環境」と語る。次年度の概算要求において学校の無線LAN環境整備を促進する考えだ。
無線LAN環境はキーテクノロジー
南政策統括官は「2020年以降は劇的に教育現場が変わる」と語る。デジタル版教科書の活用や小学校でのプログラミング教育の必修化が見込まれるなど、2020年は1つのターニングポイントだ。
「リテラシーの向上や環境整備などの準備を今後数年かけて重点的に行ってほしい。そのための最初の一歩が無線LAN環境。これは学校現場が最低限導入すべきキーテクノロジーだ」
無線LAN環境によって、現在実証中である「教育クラウド・プラットフォーム」の効果的な活用が可能になるからだ。
「クラウド活用は地域間の教育格差を始めとする様々な課題を解消する可能性があるが、無線LAN環境がなければ十分な成果は期待できない」
今夏以降に調査 概算要求に反映
さらに「学校の9割は避難所に指定されており、防災拠点としての機能を強化するためにも、無線LAN整備が急務」と語る。
そこで、避難所・避難場所に指定されている公立学校の無線LAN整備に対する補助金を、今夏の概算要求に盛り込む考えだ。「路線バスには、40人が一斉に接続しても問題ない性能のアクセスポイント(AP)が設置されている。その程度の機能のAPは学年に1つは必要」
なおAPだけでなく、既存の伝送路が細い場合は、利用目的に応じ、増設も支援対象にする予定だ。「無線LAN接続で教育クラウドの活用を進める場合、教育ネットワーク回線の容量について課題が出てくる可能性がある。無線LANの積極的な活用は教育ネットワーク全体の検証にもなり、次の段階の具体的な整備につなげることができる」
平時は教育に 有事は防災に
2020年に向けた1人1台PCの整備計画について、教育委員会を対象に行われたアンケートによると、具体的な計画に着手している自治体は5%程度。その理由は「予算確保の際に首長や議会を説得できない」「活用イメージがわかない」などであった。
「無線LANを平時は教育に活用し、有事の際には防災に活用するということであれば、首長や議会も説得しやすいはず。首長の熱心さが自治体間格差の一因となっている。これを早急に是正したい。全国的に横展開すべきタイミングにきている」
今夏以降、全国の自治体を対象に、無線LANの整備計画についてアンケート調査を行う予定で、それに応じて必要な予算を3年計画で要求する。
本調査については、「目的は整備する自治体を絞り込むことではない。できるだけ多くの自治体にやる気になってもらい、今から準備を始め、迷わず手を挙げてもらうためのもの。この結果は予算規模に影響を与えるので、積極的な回答を期待したい」と語った。
クラウド体験で全国キャラバン
活用の普及には、体験も必要だ。そこで総務省では今年度中に、クラウド活用を体験できるキャラバンを行う考えだ。小型トラックに臨時回線と無線LANのAP、タブレットPCや3Dプリンター、プログラミング教育コンテンツなどをセットして各地での模擬授業や活用体験、説明会、ネットワーク環境の簡易診断などの実施を予定している。「どんな活用ができるのか、どの程度の環境を用意すれば良いのかをイメージできるものにする。自治体の規模により、最適な整備内容も変わる可能性がある。整備計画や調達についてのアドバイスもできれば」
現在、世界6か国・71校が参加している「教育クラウド・プラットフォーム」の普及も図る。リクルートやZ会、ベネッセなど各社のプラットフォームとの協調・競争を促進。プログラミング教育教材やエドテック(EdTech)など教育ベンチャーを含めた様々なコンテンツを増やして選択の幅を広げる。学習記録データの保存活用についても引き続き検討を進めていく考えだ。「離島であっても過疎地であっても全国に光ファイバー網が整備されているという点で日本は恵まれている。どこにいても質の高い教育サービスを受けることができる、その一歩手前まできている」と話した。
【2016年6月6日】
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