放送大学 中川一史教授 |
(一社)日本教育情報化振興会は5月27日、「学校現場で活きるICT機器とデジタル教材の整備に向けて」をテーマにセミナーを開催した。中川一史教授(放送大学)は、「タブレットで捉える子供たちの学力」をテーマに講演し、タブレットPCを活用した教育のポイントと取組を開始した学習者データの共同研究の目指す成果について話した。
教育のICT活用の位置づけが変わりつつある。
これまでは電子黒板など提示機器の活用による「わかりやすい一斉授業」が中心であった。現在、その目的は児童生徒の活用に移行しており、これまでとは異なるICT活用のスキルが求められている。教育の情報化実態調査によると、教員のICT活用指導力は緩やかに向上しているが、5年間継続して最下位なのが「児童のICT活用を指導する力」だ。また、児童生徒用PCの導入台数はほぼ横ばいだが、タブレットPCの導入数は急激に上昇している。最終的には1人1台もしくはそれに近い台数の整備を検討している教育委員会が増えていると推測できる。タブレットの導入はもう止まらない。では、どう活用していけば良いのか。
学習者用PCの特性を活かす
タブレットPCの学習者活用には3つの側面がある。これらの特徴を教育に活かすことがこれからの授業デザインだ。
1つめが「個に応じた学習環境」。これは4つのキーワード「パーソナル・コンパクト・オールインワン・プラットフォーム」で表現できる。
個別学習は「パーソナル」な活用。校外学習や持ち帰り学習など「コンパクト」な特徴を生かした活用。調べる、まとめる、共有するなど1台ですべて行うことができる「オールインワン」の機能を活かした活用。映像、プレゼンテーション、製作物など様々な表現活動を実現できる「プラットフォーム」を活かした活用などが可能だ。
2つめが「動的なツール」としての活用だ。読む、聞く、書き込む、ラインを引く、録音・録画・撮影するなど様々な機能を持つ。学習者用デジタル教科書の活用を検証した際、紙の教科書と明らかに差があったのが、教科書上に「書き込む量」の多さであった。学習者用デジタル教科書が広がれば、自分の思考を整理するツールとしての活用など、教科書の活用方法が変わる可能性がある。
3つめが「データの蓄積」だ。データの蓄積・分析によって「気づき」が生まれる。気づきには児童生徒の気づきと教員の気づき両面があるが、後者をより重点的に考えている。現在若手教員が増加しており、中には年に1000人を超える新任採用がある自治体もある。そこで、児童生徒の実態を教員がどのように見取れば良いのかをテーマに大日本印刷と共同研究を始めた。東京ベーシック・ドリル(東京都発行)をベースにし、その集計・診断に活用するのが同社のデジタルテストシステム「Answer Box Creator」(以下、ABC)で、杉並区立天沼小学校を始めとする都内の学校においてデータの蓄積と分析を行う。例えば平均点が同じでも分布が異なる、問題を解く時間は早いがミスが目立つなど、具体的な課題を明らかにできるようにする。
データ分析の傾向も文章化。教員の気づきを促して次の指導に生かせるようにし、ベテランが授業の技を十分に伝える余裕がないという実態を改善できるようにする。
テスト結果に応じた教材提示や教育委員会が比較集計することもできるようにするなどICTが教員の指導と評価を支えるものとし、将来的にはパッケージ化、児童生徒や学年・学級の実態や特性、問題自体の特性を明らかにできるものとしたい。さらに次の段階では、学習成果物の蓄積の活用にも取り組んでいく。
杉並区立天沼小
杉並区立天沼小学校には現在、教員用、4〜6年と特別支援学級に1人1台、3学年1クラス分として計タブレットPC350台が整備されており、無線LANのAPも各教室に整備されている。来月から共同研究の実証校としてデジタルテストシステムの検証を行うが、先行して昨年度、高学年で本システムをテスト稼働した。
福田晴一校長は、「教員と子供の間に見えないやりとりが生じる丸つけ文化は、日本の教育の根底にあるもの。一方でデジタルドリルシステムの活用によって多忙感の解消や授業力の向上も期待できる。若手教員育成支援ツールにもなり得る。丸つけ文化も継続しながらシステムのメリットを検証していきたい」と話す。
「東京ベーシック・ドリルは解答欄がない点が不便だった。そこで、本システムを使って解答欄を作成。これにより自動採点・集計できるようになり効率化を図ることができ、教員の多忙感解消につながった。データに基づいた対応ができるため、個別指導もしやすい。クラスの傾向もわかる。多彩なデータ分析を継続していくことで、授業改善を図ることができそう」と語る。
【2016年6月6日】
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