英語×ICTで学校の魅力を創造する

私立学校を対象にした「教育の情報化による学校の魅力創造セミナー」が2月25日、 東京都内で開催され、聖光学院中学校・高等学校、同志社中学校が、各校における情 報化とアクティブ・ラーニングの取組を報告した。パネルディスカッションのテーマ は「教育の情報化を学校の魅力創造にどうつなげるか」。主催はNTT東日本。

保護者の要望強い英語力育成とICT活用
英作文から英文エッセイの時代に

■聖光学院中学校・高等学校

魅力創造セミナー
成功のポイントはユーザーニーズ
魅力創造セミナー2
私学ではBYODによる導入の可能性が拡大

海外帰国子女の入学が多い聖光学院では、海外赴任から日本に戻ってきた保護者に 「海外校で身についたICT活用能力と英語力の維持・発展」を強く要望されるという。

工藤誠一校長は「我が子が海外で生活していた時の英語力を落とさずにすむ学校を 探している保護者は多い。そのような学校選択のニーズに対応できるように進めてい る。グローバル社会に対応するためにも、ICTと英語力は必須」と語る。

そこで、トップダウンで1人1台のタブレット端末配備を決めた。

キーボード入力のスキルが重要であると考え、メンテナンスの面も考慮してクロー ムブックを活用することとした。

導入にあたっては、事前に保護者説明会で、校長自らがICT導入の意義を丁寧に 説明した。

「保護者負担への説得がうまくできると進捗する。英語スキルが上がる、反転学習 で思考力を高めることができるなどの具体事例を挙げていく。ネット依存症などの懸 念に対しては、学校のスタンスや管理規定を伝えることで保護者の安心感を得た。生 徒が常にネットにつながっていることを受け入れざるを得ない状況を考えると、生徒 を学校に縛り付けないという発想に変えていく必要がある」と語る。

活用については、授業に限らず、連絡など生活場面を含めて様々な場面で使うよう に指示。授業中での活用にこだわりすぎて、これまでの教員の授業スタイルの批判に つながらないように配慮した。

英語については「これからは英作文から英文エッセイの時代になる。英語で何を語 るかが重要」と話す。「読む」「書く」「聞く」「話す」の4技能をバランスよく身 につける授業を心掛けており、GTECは中2から高2まで全員が受験している。  

「進めるときには学校として一気にやらないと進まない。私立として建学の精神に 基づき、特色のある教育を進め、日本の子供たちの将来のために尽くしていきたい」 と語った。

高校生が中学生にSNSで英文添削
発信型の学びをデザイン

■同志社中学校

同志社中学校では、平成28年度の新入生がiPadを持つことで、3学年全員がタ ブレット端末を1人1台所有し、校内で約900台が稼動するという環境になる。

同校では、3段階でタブレット端末を整備した。最初は20台、企業からの貸与で効 果を出し、次に1クラス分40台を導入し、管理も含めてノウハウを検証した。

保護者には電子辞書の置き換えという意味も含めて説明。教職員への訴求について は、ICT委員会が出た質問1つひとつに丁寧に答えながら理解を得つつiPadの導入を リードした。

ネットワーク整備の予算は国庫補助金(補助1/2)を活用した。

入学志願者は、2014年度の環境整備以降、右肩上がりであるという。反田任教諭は 「これまでは『どう教えるか』を考えていた。これからは『生徒がどのように学ぶの か』を考え、『ティーチングからラーニング』への変革が必要だ。そのためにもタブ レットを使った発信型の学びをデザインしていく」と語る。

英語教育についても同様で「4技能をバランスよく伸ばすためにもマインドセット がないとモノにならない」と語る。

教育系SNSを活用して高校生が中学生に英文添削を行った事例も紹介され、これ により高校生は責任感を持ちながら緊張感を持って中学生への指導や自らの学び直し ができ、中学生にとっては教員が誤りを指摘するよりもモチベーションがアップし、 スピーチ発表に好影響を及ぼしたという。また、コミュニケーションの作法を身につ けることにもつながった。

「正しく発音すると正しいスペルが表記されるアプリ」や「テキストを入力すると 発話するアプリ」も活用しており、音声教材も自作。音声は教科書会社から購入して いる。 

教材配布や提出は授業支援ツール(主にロイロノートスクール)を使っており、リーディン グの宿題も出す。「感情をこめてリーディングする」あるいは「秒数を指定する」な ど課題の出し方にも工夫を凝らす。生徒は提出前に、ごく自然に繰り返し練習・聞き 返して録音し直すなど熱心に練習をしている。課題は無線LAN環境があればどこか らでも提出できる。

同校の学習ポータルサイトには、学期ごとに英単語や漢字の練習問題などをアップ しており、生徒は自分のIDとパスワードでログインする。アクセス数も記録してお り、1教材について学年生徒数以上のダウンロードになる場合もある。24時間どこか らでもアクセスできるという環境により基礎学力の向上につながっていると語る。

今後、タブレット等を導入する学校へのアドバイスとして「グローバル社会の中で ICTは必要不可欠なものだが、新しい経費も派生する。継続的なメンテナンスサ ポートに対する費用をあらかじめ想定しておくことが必要」と語った。 

迷っているのは日本だけ
 ICT環境整備は二極化〜約7割の保護者は負担を許容
 

パネルディスカッション「教育の情報化を学校の魅力創造にどうつなげるか」の中 で、藤村裕一准教授(鳴門教育大学大学院)は「野村総研調査(NRI)によると 約7 割の保護者がタブレットの自己負担を許容している。怖がらずに進めていくべき」と 述べた。

「私学におけるICT環境整備が二極化している。私学版『共同調達』の可能性も 模索できる。ICTで学習系と校務系を連携することで地域保護者連携を進めること ができる、というメリットもある。韓国は校務の情報化が進んでおり、学期末を待た ずに子供の成績を見ることができるが、日本の教育分野の情報化は現在世界90位以 下と遅れが顕著」

榎本竜二教授(東京女子体育大学)は「今、ICTを使わないという生活はあり得 ない。ありとあらゆるものを学校で体験していくのが世界的な潮流であり、迷ってい るのは日本だけ」と述べる。

「小規模でスタートして、うまくいったものをフィードバックして整備していくと いう手法が安全。ちょっとだけ未来を想定し、整備内容に遊びがある学校が成功して いる」

 

【2016年4月11日】

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